惜しむらくは
……なんか、ケムにまかれた気もするけど。
そういえばさ、イングリッドさんはこの世界が終わったら、なんか困るわけ?
「いや、別に困らないですけど」
……困らないんかい。
「うーん、もしかしたらこの世界が無くなったら、ボクは消滅するかもしれませんけど、ただそれだけのことです。ただ……」
ただ……?
「なんか、惜しいことしちゃったな、とは思うかもしれません」
ああ。
なんか、似てるな。俺と。
「あれ、そうなんですか?」
元の世界でこの『ドラゴンサーガ』に費やした10年。なんか惜しいと思っていたような。
「それは違いますよ、勇者様」
そう?
「勇者様は、何も終わってなんか居ないじゃないですか。それに」
イングリッドさんが、はにかむ。
「ノブナガ様は10年間、楽しかったのでしょう? それはそれで、意味のあることだと思いますけど。そりゃまあ、ノブナガ様は違う人生を夢見たのかもしれない。平凡な家庭、平凡なサラリーマン……。家庭をはぐくむことはまったく正しいことですし、労働も尊いことです。だけど、ノブナガ様は、単純に生を満喫していたじゃないですか」
うぬ……。天使さんもたまにはいいこと言うね。
「ただ惜しむらくは……、




