表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/75

10年前の俺と俺


 銀髪の〈暗殺者〉、シェバ。

 フレデリカ城外にデン、と座り、その横に立てられた札には、

「ギルドメンバー募集、お気楽にどうぞ」と書いてある。

 ……確かに、ある記憶。

 俺が最初に創ったキャラクターは確かに〈暗殺者〉。銀髪ショートに紫色が基調となった軽甲冑。その後、この『ドラサガ』世界で名声を得る、二つ名は「銀色の閃光」(フラッシュライト)のシェバ。


 ……かれが……、

 ……おれのしせんにきがついたようだ。


「あ、ギルド加入希望の方ですか? 体験も受け付けていますので、是非お気軽にどうぞ!」

 人当たりのいい笑顔だ。

 いかにもスレてないって感じ。

「……この無垢な笑顔が十年後バツ3になり、女キャラに出会う度にネカマ呼ばわりする人生の没落者に成り下がってしまうとは」

 天使が脳内に直接語りかける。

 イングリッドさん、それちょっと言い過ぎ。

「てへへ……」

「? どうしました?」

 い、いや、すみません。

 あの、ギルドの方針とかあります?

「そうですね、溜まり場とかはありますけど、レベル上げとかはあまりガツガツやる方じゃないです」

 それじゃ、おしゃべりギルドとか。

「あーいや、というよりは……。これ、理想論なんですけど」

 はい。

「僕達が楽しむ事によって、この世界全体も楽しい世界になるといいな、なんて思っていますね」

 な、なんと……。

 ま、まぶしい……。なにこのいい人オーラ……。

 若いっていうか、青いっていうか。

 あ、やべ。

 こういうテの話、メッチャ嫌いそうな騎士子さんが俺の隣にいたような。

 ひとみん、すまんけどこの人と話してみたいから向こう言っててくれる……?

 あれ、どこいった?

 あ、あそこにいる騎士さんに聞いてみよう。

 あのう、そこのかわいらしい騎士さん。ここら辺にいかにも性格が悪そうで高圧的な高レベル厨の見るからにしていけすかない騎士さんが居たと思うんだけど、知りません? ヒトミっていうんだけど。


「なっ、何言ってるんですか、かわいらしいだなんて……。ひとみ、恥ずかしいです」

 

 え、は?

 も、もしかしてキミ、ひとみんことヒトミさん?

 ……なにその、【うさ耳】装備。

 きもい!

「きもい言うな(ボソッ)」

 ボグッ。

 ごふうっ。腹パンチ……。

 この理不尽な威圧感、間違いなくひとみんだ。

 ふぃ、フィールドの対人攻撃って実装されてたっけ……。

「あ、あの、オレ……、じゃなくて私もお話に混ざってよいですか?」

 ひとみんが柄にもなくおずおずとシェバに話しかける。

 一体どうしたんだってばよ……。

「あ、もちろん! あ、その頭装備、【うさ耳】ですよね」シェバが答える。

「えっ、あっ、はい!」ひとみんが恥ずかしそうにシナを作る。(きもい)。

「すごいなぁ、それ造るのに【鋼鉄】たくさん必要ですよね。苦労したんじゃないですか」

「いやいや……。ちょっとした相場操作でゴールドなんて幾らでも手に入りますから……」

「は?」

「え、い、いや、冗談ですぅ」

「あはは。面白い方ですね」

「そっ、そんな! 私の事、素敵だなんて……。まだ会ったばかりなのに、恥ずかしいです……」

 いや誰もそんな事言ってねえし。

 ていうかひとみん、まじ気持ち悪いんだけど……。語尾が「ですぅ」とかネカマだとしてもちょっと引くわぁ。

「あ、あのシェバさん」

 あきれる俺をよそ目に、ひとみんが続ける。

「はい、何でしょう」

「よ、良かったら今度、【うさ耳】もう一個持ってくるので、一緒に記念撮影してもらえませんか?」

 しかし何なんだ、このひとみんの積極的アプローチは。

 確かこの前、

「【暗殺者】っっwっww。 ぼっち職まじウケルwww」

 とか言ってなかったっけか。

 シェバさんが続ける。

「もちろんいいですよ! 僕も【うさ耳】装備してみたいし。たしかLUK+2ですよね」

「ふふ、それじゃ、約束してください。ゆびきりげんまんですぅ」

 ……。

 サークラ定番のさりげないボディタッチまで使いこなすひとみん。

 もはや何も言うまい。

「それじゃ、またお話して下さいね、シェバさん」

「はいもちろん、騎士さん」

 あれ、なんかノリノリだったけど、もういいのか?

 ひとみんは急いだ様子で、城内行きのワープドアから消えていく。

 なんか約束でもあったのかな。

「あ、ノブナガさん、でしたよね」

 お、あ、はい。

 ううむ、我ながらしかし、やたら丁寧&好感度の高い奴だなぁ。

 あの、ちょっと聞きたい事があるんだけど。

「何でしょう?」

 ええと……。

 ……相手は、十年前の俺。

 何かいろいろ聞いてみたいのだが、改めて考えるとあまり思い浮かばない。

 ……ええと……。

 いかん、何だかドキドキしてきた……。



「はい?」

 ……。

「……」

 ……。

「……」

 あのう。

「ちょ、ちょっと待ったあああああああああああ!!」

 な、何だ、ひとみん!?

「シェバさん、【うさ耳】もういっこ持ってきましたですぅ! 一緒に写真とって下さい!」

 早!


 その後「記念にこの【うさ耳】もらって下さい!」とすがるひとみんの願いをシェバにあっっさり固辞され、彼がログアウトするというのでこの場はお開きとなった。

 しかし何なんだよ、ひとみん。さっきの態度は。

 【暗殺者】は嫌いなんじゃなかったのかよ。

「……シェバさんだけは別なんだよ」

 なんじゃ、そりゃ。一目惚れか何かか?w

「違ぇよ。そんなんじゃないよ」

 ……そりゃそうだ。二次元人の俺らがゲームで遊んでるキャラに恋するなんてな。

「誰にも言うなよ」

 ん? なんだよ、神妙な顔して。

「シェバさんは、オレの初恋の人なんだ」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ