閃光のシェバ
発動中は完全無敵の【バックステプ】。高速で背後に飛び避ける〈暗殺者〉の緊急回避スキルだ。
しかし、シェバはあえて最初から敵に背を向ける事で、一瞬にして〈黒騎士〉の懐に跳び込む事に成功した。
『ムウッ!?』
〈黒騎士〉が驚きの表情を浮かべる。虚を突いた。
そして、シェバの攻撃。二刀の剣旋が、蒼い稲妻のように輝きながら、〈黒騎士〉の胸をうがつ。
双刀によるクリティカル攻撃。
これが〈銀色の閃光〉(フラッシュライト)と呼ばれる……、シェバの奥義である。
◇
『フン、一本取られたというべきか』
間合いをとったシェバに、〈黒騎士〉は語りかける。
『……』
『俺に傷をつけたことは褒めてやる、だがな、この程度のクリティカル攻撃で俺はビクともせんよ』
〈黒騎士〉の言うことは、おそらく正しい。
しかしシェバの顔色は、変わらない。彼の銀髪がただ揺れている。
『気に入らんな』
〈黒騎士〉が何かをつぶやく。
『〈瞬・歩〉』
シェバは十分に距離をとっていたはずだった。
だが〈黒騎士〉が、消えた。
そしてシェバの目の前に現れる。
『〈狂・撃〉』
……あの暗黒城で自警団を屍った黒騎士の連携攻撃。
しかし、シェバは避けるだろう。
シェバは俺や女騎士と同じく、初見でこの連携を躱しているのだ。
『(オマエなら、躱すだろうな……銀色の戦士よ)』
……!!
「いけない、それは罠じゃん!?」
『(誉めてやろう……。だが躱した先がオマエの最後よ)』
〈黒騎士〉は何か奥の手を用意している……!!?
安全圏だと思われていた距離を一瞬にして縮めてきた〈黒騎士〉に対し、シェバはその動物的な……野生の狼のごとき危機察知能力で後ろに飛び退いた。後ろは冒険者の屍である。
「!!」
しかし、「へんじがない、ただのしかばね」だと思われていた……、一次職の剣士が、シェバに斬撃を見舞う。
「傀儡か……!!」女騎士が叫ぶ。
普段なら、なんてことはない一次職の攻撃。
しかし、〈黒騎士〉はシェバを倒すのに一撃だけを振るえばよい。
その為の隙としては、十分すぎるモノだった。
そして〈黒騎士〉が、シェバを貫いた。
◇
しかし。
『成る程、〈驚運回避〉か』
〈強運の短刀〉。攻撃力こそわずかれはあるものの、装備車のLukを40%アップさせる魔法の短刀。それをシェバは、双刀に携えている。
〈強運回避〉。敏捷性を示すAGIでなくLUKによって補正される。
回避に優れる〈暗殺者〉がこのシステムを利用すれば、どんな強大な攻撃でも100%の回避が得られる。(未来ではダウン調整の対象)
女騎士が〈黒騎士〉に向かって叫ぶ。
「〈黒騎士〉よ……!! 魔法は、使わないのか、使えないのか、それとも使う勇気がないのかな?」 〈強運回避〉は魔法に対しては無力だ。〈黒騎士〉は見たところ前衛の職業だが、未来から来た彼が、なんらかの〈魔法〉を使っても不思議ではない。
だが、それを使えば、自分の手の内をさらけ出すことになる。
完膚無きまでの蹂躙を目的とする〈黒騎士〉には、痛手となる可能性が高い。
「手詰まりですか、黒騎士さん……」シェバが〈黒騎士〉を見据える。
神妙な眼差し。
「それじゃ、今度は僕の言い分を聞いてもらいます」
なんだ……? 言い分?
俺の隣にいる女騎士さんも、首をかしげている。
シェバは、大きく深呼吸をして、
叫んだ。
「こんなことしたら、迷惑でしょうが!」