未来の敵vs過去の俺
『ひとーつッ、ふたーつッ!!』
二刀槍の騎士など聞居た事も無いが、あの〈黒騎士〉は確かに双槍を震っている。
ひと凪ごとに、露店の〈商人〉が、談笑する〈魔法使い〉が、通りがかりの〈盗賊〉が、まっぷたつにされ、蒸発して行く。
『私を止めてみろッ!! 脆弱な市民よ!!』
〈黒騎士〉が雄叫びをあげる。一騎当千なんてもんじゃない。
彼の暴虐に気付いた冒険者たちが、彼にあらがおうとする。
〈騎士〉たちが殺到し、魔法による炎の矢、氷の矢、雷の矢が彼に降り注ぐ。
しかし〈黒騎士〉はまったく意に介さない。
おそらく彼らの攻撃は……「通って」無い。
槍を震うごとに、冒険者たちは貫かれ、ねじ切られ、蒸発する。
『はっは。楽でいい。貫いた肉を片付ける必要がないからな』
そして、フレデリカ大通りは、彼一人に制圧された。
この出来事は、事件になるだろう。
遠巻きに〈黒騎士〉を冒険者たちが眺める。
冷ややかな目を向ける物もあれば、敬服のまなざしも見て取れる。
〈黒騎士〉は、屍の上にそそり立つ。
「ノブナガ殿」
ん?
この状況を見て、〈女騎士〉が語りかけて来た。
「ノブナガ殿は、闘わないのか? あの、〈黒騎士〉と」
そういう騎士さんは、どうなのさ。
「……闘う理由が無いな」
それは俺と同じ答えだった。
確かに。
死にたいと言った〈黒騎士〉に、俺は、ある意味感動していた。
このゲーム世界において極限まで鍛え抜いた自分。
しかし、その先に何があるのか。
そこで俺は「死ぬ」などとは思わなかったが、死んでしまいたいという彼の気持ちも分かるのだ。
俺たち未来からやって来た〈二次元人〉は、自分からゲームをやめることができない。
自警団が愉悦に浸る為に〈人形〉たちを殺戮していたのとは違う。
〈黒騎士〉にとってこの「無双」は、どうしても必要な事なのだ。
死ぬ為の戦い。
彼には、負けられない理由がある。
敗北すれば、プレイヤー同士のちょっとしたイザコザで終るかもしれない。
彼は、首都フレデリカをどうしても蹂躙しなければならないのだ。
死ぬ為に。
「僕が、相手をします」
〈黒騎士〉の前にたったのは、シェバだった。
『フン、〈暗殺者〉が。〈騎士〉ならともかく、お前など触っただけで消し飛ぶだろうよ』
〈黒騎士〉が悪態をつく。しかしシェバは、何ごとか〈黒騎士〉に背を向ける。
『?』
「気付かせず触らせもしないのが、〈暗殺者〉(アサシン)ですよ」
【バックステプ】!!
シェバが動いた。




