黒騎士と修羅
本当に居るのか?
そこに本当に、いた。漆黒の全身鎧が、薄暗いダンジョンの片隅にいた。
兜で表情は一切分からない。職業は…何だ?
見た目は……、漆黒の〈騎士〉。
〈アンノウンスキル!!〉
〈アンノウンスキル!!〉
何事かを唱え、彼は、次々と〈人形〉が産み出している。
……しかし、プレイヤーキャラクターを産み出す〈職業〉なんて聞いた事もない。
俺の記憶にある未来の職業、〈錬金術師〉なら〈使い魔〉を召喚できるけれども……。
女騎士が疾る。シェバたちもそれに続く。
俺たちに気がついたのか、〈黒騎士〉のスキルが止まった。
……ということは、「中身」が居る、のか?
シェバが歩み出る。ほかの自警団員たちは、戦闘態勢に入っている。
「君が、〈黒騎士〉ですか?」
「……」
〈黒騎士〉は黙して語らない。
だが、何かしらの意思は感じる。
刹那、自警団の一人が飛び出した。
「食らえっ」
〈狩人〉の必殺技、〈鷲弓の双撃〉が〈黒騎士〉に襲いかかる。
二本同時に放たれた矢が、勢いを増していく。
〈器用さ〉のステータスをそのまま攻撃力として転用できる〈狩人〉は、この時代では屈指の火力をほこるキャラクターである。
が。
〈黒騎士〉は気にするそぶりもない。矢は、その厚い鎧の前では無力だった。
「〈炎の矢〉よっ、敵を貫きたまえっ!!」
〈魔導士〉が得意の魔法を仕掛ける。未来では珍しいレベル10〈炎の矢〉だ。
しかし、届かない。
真空地帯とでも表現すればいいのだろうか。〈黒騎士〉を中心とした透明の球体が、魔力の炎矢をさえぎる。
そして、〈黒騎士〉が〈狩人〉と〈魔法使い〉をにらむ。
あぶない、逃げろ……。
『〈瞬・歩〉』
〈黒騎士〉が何かをつぶやく。
何か来る。直感だけで身をひるがえしたのは、俺と、シェバと、女騎士。
『〈狂・撃〉』
横薙ぎの剣戟。それを受けた〈狩人〉と〈魔法使い〉、そしてそのほか3人ほどが「蒸発」した。
「「何ッ!?」」
ゲーム画面越しに今の攻撃がどう見えたのかは知る由もないが、〈自警団〉の団員たちは一要にうろたえる。
この「現世」にあるまじき超高攻撃力。そしておそらく守備力も……。
『人殺しなど……あまり趣味でもないが、意外と昂るものだな。あるいは、このまま首都まで攻め上がるか……』
〈自警団〉は、俺たちを含めて残り十数人。
「皆、下がろう」
シェバが合図を出す。
「俺の名前はシェバ。〈黒騎士〉よ、中身は居るか?(ルビ:・・・・)」
つまり、お前はロボットでなく人間なのか、という問いだ。
『……』
〈黒騎士〉はなにやら思案げだ。
俺には分かる。
女騎士が口を開く。
「よしみ(・・・)で何かしゃべったらどうじゃん? オレと……、このノブナガはなら多分話が分かる(・・・・・)ぜ?」
『成る程。しかし、人払いが必要だな』
しゃべった。
『シェバとか言ったな。いいだろう。話をしよう。首都まで送ってくれないか?』
「分かった」
シェバが、仲間も〈僧侶〉に〈ワープドア〉を指示する。
〈黒騎士〉に続き、〈自警団員〉、そして俺と女騎士にシェバが続く。
そこをくぐれば、首都フレデリカ城下だ。




