プロローグ
「あと一人倒せば世界一…」
武器を握る手の汗が止まらない。素早く裾で汗を拭うとしっかりと握り直す。
周囲の警戒を怠らず、自分の気配は最小限に抑えていた。焦ったらやられる。
深呼吸。
覚悟を決めろ。
「ーさあ、いくぞ!」
地を走る。スピードには自信があった。
慣れ親しんだフィールド。マップは既に頭の中に完璧にインストールされている。
敵が隠れている可能性のある場所を多彩な動きを混ぜながら駆け抜ける。
ガサッ
そのとき、自分が出した音とは明らかに違う音を感知した。素早く周囲を見渡す。
「いたっ!」
草木が微かに揺れたのが見えた。風じゃない。注視すると、迷彩服を纏った敵の姿が映った。
敵は素早く銃を構える。決勝戦だ、甘い相手じゃないことはわかっている。
それでも、
「俺が勝つ!」
三角跳びの要領で近くの木を蹴り込み、翔ぶ。
握る剣は突きの構え。狙うは敵の眉間。
「うおぉぉぉぉっ!」
決着がつくというその瞬間だった。
「うるさい!」
俺の世界は暗転した。
俺の握っていた武器は、姉貴の前に転がっていた。
ゲームの電源は落ちている。
「…嘘だろ?」
どうしようもない自宅警備員の俺、漣 慶太の物語はこんなことから始まった。