油揚げは好きですか?
一歩足を踏み出す度に高く澄んだ音を立てる鈴の音。
顔を見上げた先には白く染まった階段が長く続いている。いつも登っていたこの階段の先に何があるかよく知っているのに、今日は何故か知らないもののように見えるのだ。
それは衣裳のせいだろうか。
純白の、白無垢と言われるものを身にまとっているから?
胸の高鳴りと、少しの不安。
ここを登りきったら、私は何か変わるのかな。
長かった筈の階段はあっという間に登りきってしまった。
登りきった先に見えるのは神様の御神体があるお堂が立っている。
その前に立っている人物は……
「狐は油揚げが好きって聞くけど、あなたは好きじゃないのね。」
「油揚げも好きだよ。いなり寿司も厚揚げも、なんでも好きだよ。」
「厚揚げ軽く焼いて、大根おろしとネギに醤油と一味かけてたべるの美味しい。」
「ああ、美味しいね。」
「今度作るわ。」
「楽しみにしているよ。」
まるで仲睦まじい夫婦の会話のようだが、このふたりの関係はそうではない。
方や顔に表情がかなり出にくい、神社の長女である無表情の女子高生。
片や誰もが振り返るような美しい姿をしたプラチナブロンドの髪をもつ異国風の容姿の美男子。
だが彼は人間でなく妖力を持ち、齢二千年を超えた神に近い存在となった狐。
人間と妖である。
「のんびり話すのもいいが、学校に遅れてしまうよ。」
「あ。」
会話に夢中になりすぎたと、少女は急いで手に持った竹箒を動かす。
狐はその様子を微笑ましいと思いながら見つめていた。