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死んだらやってみたい10のコト

死んだらやってみたい10のコト ⑥妹を幸せにする

作者: 黒やま

「やっと見つけた。―――――ずっと探してたんだから。兄さん。」


これだけ聞くといかにも妹萌えーとかいう奴等もいるかもしれないから、ちゃんと説明しておく。


俺は理由あって10年以上も家族と疎遠であり、しかも死んでいる。


そして恋人との幸せな時間を過ごした直後にいきなり妹との再会。


「ちょっと圭佑、何この急展開は。ついていけないんだけど。」


俺もそうだよ、天使ちゃん。と言いたいところであったが


現在俺は実体化している身、迂闊に天使に声をかけようものなら不審者扱いだ。


「っていうかこの子あんたの妹なの?マジ探してたの?じぇじぇって感じ?」


背後で色々言っている天使に向かって一言うるさいって文句をつけたい気持ちが湧き上がりながらも


必死に今の状況が起こるに至った理由を探していたりした。


その間も俺の言葉を待つかのように妹は――芽衣(めい)は何も言わずただ俺を見つめている。


「あ・・・・の・・・。」


とりあえずこの沈黙の空間を何とかしたくて声を出してみたが、


次に出す言葉として見合うものがなかなか見つからない。


ここは仕方ないので男・圭佑とにかく気になっていることをひとしきり言ってみることにした。


「元気にしてたか?結婚生活うまくいってるか?あまり遅くならないうちに帰れよ。」


言ってはみたものの予想してた通り、芽衣だけでなく天使までもがポカンとした表情であった。


「えっと・・・。」


「フフッ。」


俺の質問に呆れるとこを通り越して笑うしかなくなったのか、芽衣は口元を押さえいた。


「もう、兄さん何にも変わってないね。」


それは懐かしい妹の笑顔であった。


ひとまず俺と芽衣(あと天使)は落ち着いて話すため近くの喫茶店に入った。


まさか、まさか今目の前にいる女性が妹だとはまだしっかりと現実を帯びない。


けど、その面影はまちがいなく俺が最後にみた14歳の妹の芽衣で


何よりも俺のことを兄さんと呼んでくれた。


女性は、芽衣は少し恥ずかしそうにしながらも俺を見つめ話しかけてきた。


「それじゃあ、さっきの兄さんの質問に答えるね。

 私は元気だよ、今は書店に就職して働いているよ。」


「そっか、よかったな。お前小さい頃から本が大好きだもんな。

 よく図書館にも通い詰めてたし。」


「うん、仕事はすごい楽しいし職場の人たちもいい人ばっかり。」


「うんうん。それは何よりだ。」


「兄さんは今、工事現場で働いているんだよね。」


「そうそう―――って、何で知ってるんだ?」


「あぁ、それはね。えっと、話が前後しちゃうんだけど私半年前に結婚したの。」


「あぁ・・・。まぁお前も25だもんな、結婚してても不思議じゃないか。おめでとう。」


「ありがとう。けど、兄さん。私、来月の誕生日で26になるんだよ。」


「えっ、あっそっか。一月だけだけど同い年の時があるんだもんな、俺たち。」


「うん、兄さんもそろそろ結婚とか考えてる人とかいたら紹介してほしいなーなんて。結婚する時は私も招待してほしかったり、本当は結婚式来て欲しかったとかも思ったり。」


「や、それは本当に俺も出たかった。お前の晴れ姿見れなかったなんて。」


「まぁ、仕方ないです。許しましょう。」


本当は知っていたけど、結婚式場の扉の前まで行ったけど。


「その人は私の過去を全て受け入れてくれて・・・すごい頼りになる人なんだけど。

 ゆうたろ―――夫がこの機会に兄さんを探してちゃんと結婚したことを報告したほうがいいって。

 それで、探偵を雇って兄さんらしき人がこの街にいるって分かったのが一週間前。

 探偵から兄さんが工事現場で働いているって話も聞いたの。ただ、その・・・

 何度帰り道を後つけても家の場所が分からなかったらしくて、ただよくこの駅前にいる

 のを目撃していたみたいだから、ここにいれば見つけられるかなと。」


俺は芽衣の兄を思う健気さに自分の犯してきた罪を余計に感じてしまい


今ここで彼女とこうして普通に会話していることに罪悪感を意識せずにはいられない。


「すまん。」


「どうして謝るの?」


「いや、―――だってわざわざ俺なんかのために金と時間を使わしてしまって。」


「そんなことない!私ずっと会いたかったよ。

 ねぇ、もっと兄さんと話したいことたくさんあるんだ。ねっ、家においでよ。」


「えっ、いやー。新婚夫婦のお家に遊びにいくのはなー・・・それに遅いし。」


「全然いいよ、悠太郎(ゆうたろう)さんもそんなこと気にしないよ。」


芽衣が自然と口にした悠太郎という男性の名前、おそらく旦那の名前だろうが


妹の新婚家庭に入るというのにも正直気おくれする。


そしてぜひとも家に招待したいという芽衣の気持ちははっきり分かるほど表れており


逆に分かるからこそ俺のうしろめたさもそれに合わせて比例する。


「んー、けど明日も仕事早いし。」


「あ・・・そうだよね、ごめんね、いきなり。でも・・・。」


「でも?」


そこで突然口ごもってしまって下を向いた妹の顔を覗き込もうとした瞬間


バッと顔を上げて戸惑いながらもやはり真っ直ぐこちらを見る芽衣の瞳には


不安でいっぱいであると俺に訴えていた。


「また、会ってくれる?」


「お、お、おう。」


返事を聞いた芽衣は実に嬉しそうな顔をしていた。


「うん、じゃあ電話番号を―――――」


「やー、それがだな、俺電話持ってなくて。

 だから待ち合わせ場所と時間を指定してもらったほうが助かるんだが。」


「え?持ってないの?」


「そりゃあ、怪しがるわよね。普通。今どき連絡手段の一つもないなんて。」


ですよね、ですよね、そりゃあ怪しむよな。実の兄だとしても変だと思うよな。


天使に言われるまでもなく俺だって思うからだからそれらしい理由を適当に言う。


「その、お恥ずかしい話だが、生活費稼ぐので精一杯で携帯まで買う余裕がなく。」


「そうなの、じゃあ住所だけでも――――――」


「あー、えっと最近越したばかりで住所があやふやなんだよなー。」


「お金ない奴が引っ越しなんて出来るのかしら。」


妹の目には俺がえらい貧困で自分の住所も覚えてないろくでもない男に映っているであろう。


そして俺の無理やりな言い訳にすかさずツッコミを入れてくる天使ちゃん。


まるで傷口に塩を塗り込まれている気分だぜ。


「そうなの、じゃあいつなら会える?」


「あー・・・、じゃあ次の土曜なら。」


「分かった、土曜の午後一時にここの駅前で待ち合わせでいい?」


「あぁ、もちろんだとも。」


余程兄に会えたことが嬉しいのかこんな嘘くさい理由も鵜呑みにして


それでも会いたいだなんて、それだけ俺たちは長いこと一緒にいなかったのだと実感する。


けれど、俺だって会えて嬉しくないわけもなく本当はすごくうれしいはずなのに・・・。





「まさか妹が大好きなお兄ちゃんをわざわざ探偵まで雇って探しているなんて驚きもんね。

 どんな感動物語なのよ。」


「だよなー。」


「何よ、その気の抜けた返事は。」


俺の頬にグリグリと拳で押し付けてくる天使はじゃれてくる猫のようだ。


芽衣と駅前で別れた後やっと俺は霊体化して天使と共にいつもの屋上ビルに帰ってきたところであった。帰ってくる途中からもう頭の中は妹のことでいっぱいであった。


「いや、本当にどうして俺の事・・・だって・・・。」


だって俺は芽衣に顔向けできないようなことをしてきたのに、お前はそれを知らないだけなのか。


俺の頭の中でグルグル考え事が巡っていき全くどうしてこうなったか分からない。


「おい、うるさい。」


「ウウゥ・・・。ッハァハァ。何するんだよ!」


「だって、圭佑がブツブツ独り言いって気持ち悪かったから。」


妹のことを考えていて後ろの気配に全く気付かず、俺はいきなり首をしめられ


あやうく窒息死するとこだった、いや実際は死にはしないけど本当に苦しかったから、マジで。


涙目で後ろを振り返るとそこにはやはり目尻を吊り上げ口をへの字に曲げた悪童天使が


いつも以上に不機嫌そうに突っ立っていた。


「何だよ、そんなに俺にかまってほしかったのか。天使ちゃんも可愛いトコあるじゃん。」


「そんな無駄口しか言えないんだったら、呼吸する必要もないわよね。」


ジェスチャーで首を締め上げるような指の動きをみて、再びあの呼吸苦を思い出す。


「すいませんでした、呼吸したいです。酸素吸いたいです。」


「ったく、いつまでたっても学習しないんだから。」


そこではたと思い出す、天使ちゃんの能力を、目的を。彼女が天使と呼ばれる存在であり、それに相応しい力を有している。そんな彼女はどうしてここにいるのか。


思い付いた俺はそのままスッと何も考えず声に出していた。


「天使ちゃん、6つめの願い事決めたんだけど叶えてもらっていいかな。」


「―――唐突ね、まぁいいわ。けれどその前に質問。」


「あぁ。」


とくに驚くこともなく天使は先程の不機嫌そうな顔から事務的な顔に変わっていた。


「そのお願いはあんたとあんたの愛妹の過去につながっていくものなのかしら。」


問いかけに一瞬息を飲み、このまま呼吸するのを忘れてしまうかと思った。


当然、死んでる俺にとっては呼吸も本当は必要なくてこのまましなくてもいいのだけれど


俺はスぅーと深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。


「・・・・・・・どうして分かるんだ?」


「天使の勘ってやつかしら?久しぶりの兄妹再会なのにどこかぎこちないし

 所々聞く昔話からしてなんか匂うなぁって思ってたの。」


「すごい勘だな。」


「あんたが私に隠し事していることは知っていたけど、まぁ私には無関係のことだったから

 今まで聞かなかった。けど願いに関係するとしたら万一怪しいことだったら危ないからね。」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」


「ここまできたら話しなさいよ、全部。」


どうせ願い事を口にするときに天使に根掘り葉掘り聞かれることは覚悟の上でだったが


こうも天使に先をいかれてはまるで俺の過去にもうすうす何があったのか


知っているのではないかと疑ってしまう。


「分かった。あまり覚えていたくないことだから所々記憶が薄れていて、上手く説明できるかわからないけど。」


「大丈夫よ、圭佑が今まで簡潔に要約して喋れた試しがある?」


「ははっ、そうだな。」


今は天使のそんな悪口も心地よいものだから不思議だ。


そこから俺は今まで閉じ込めていた過去の闇の部分を徐々に開き始めた。


「俺が十年以上も家族と疎遠だったのは、家族に顔を会わせられないようなことをしたからなんだ。

 昔はうち、近所でも仲が良いって評判がつくくらいの家族だったんだよ。

 あいつとお袋と妹と俺で四人家族で。あいつは穏やかで真面目な奴で、

 お袋はとにかく優しい人だった。特に芽衣なんてアイツのこと大好きでファザコンっかってくらいに  な。日曜日なんてアイツにべったりだったし。

 それが変わっちまったのは俺が中学に上がった頃だ。

 そのころからやつの会社の事業が上手くなっていかなくて穏やかだった親父がパチンコや

 酒ばかり煽るようになって家の中の雰囲気はみるまに悪くなっていった。でも、親父はそれでも

 俺たち家族を守るため働いていたんだ。それで少しでもストレス解消してくれればよかったんだけど。 あの頃はまだアイツのこと信頼してた、それだけは間違いない。」


「ふぅん。」


天使は態度はぞんざいのように見せているが俺の拙い話にも耳を貸してくれていることは確かであった。


「その後、必死に会社を立て直そうと駆けずりまわっていた親父を会社は何のためらいもなく

 リストラして、穏やかそうに見えても親父の中でも色々溜まってたものがあったんだろうな。

 それからというもの今までのストレスを発散するかのごとくお袋に手を出し始めた。

 お袋はただ何も言わずただ堪えていたよ、けど俺は知っている。

 毎晩台所で一人声を殺して泣くお袋を。そしてすげぇ腹立たしかった。」


「無力で何もできない自分が。愚かね。」


「そうだよ。そんなやるせない気持ちのまま過ごしてたけど、次第に暴力は悪化していき

 ついに俺も殴られたり蹴られるようになった。でもそれでよかった。それで今までの鬱憤が

 晴らされていつか元の親父に戻ってくれるならって、俺はじっとただ耐えていようと思っていた。

 だけど――――――――――――――――」


天使はまったく口を挟まずただ俺が話し始めるのを静かに待っていた。


「だけどあの日俺はもうあいつを家族だなんて父親だなんて思えなくなった。

 あの日、あの日、俺がもっと早く帰っていれば芽衣は・・・・・・・・。」


「落ち着きなさい。過ぎたことはもうどうにもならないのよ。」


いつの間にかギュッと力を込めていた拳に天使がそっと触れる。


その手の平の温もりが今は俺をそっと包んでくれるかのような


まるで天使の包容のようであった。


「―――――俺が中学三年の卒業式の日、クラスのみんなが高校へ進学する中、一人だけ進学しないで

 アルバイトして働くって俺をみんなが激励会してくれて。俺、すっごく嬉しくていつもより

 帰りが遅くなったんだ。卒業式の日は在校生は早く帰宅するってこと忘れててな。

 んで、帰ったら・・・妹とお袋が倒れてた。あとで刑事から聞いた話ではいつも通りアイツはお袋に

 暴力をふるっていた、なにが引き金になったかは知らないが行為はさらにエスカレートしていって、

 お袋はアイツに首を絞められて窒息死する寸前まで追い詰められてた。

 んで、お袋を救おうとした芽衣が初めてアイツの前に立ち塞がったんだ。

 そしたら、今まで何があろうと妹には手を出さなかったアイツが近くにあったポットの熱湯を

 母親を守るため背を向けていた芽衣の背中に浴びせたんだ。」


「・・・・・・。」


無言ではあるが俺の手に触れる天使の力は包むというよりは握りしめるようになっていった。


「背中に大やけどを負って意識不明になって何時間も放置されていたのに、

 助かったのが奇跡だといっていた。だが、その代わりに妹は背中に大きな跡が残ってしまったし、

 お袋は植物人間状態になっちまってもう目を開けることはないと言われた。

 今じゃもうとっくに天国さ。

 俺はその時、心の中でしっかり留めていた理性がなくなってしまったんだ、

 なくなってしまったことも分からず俺はふらふらと自宅に帰ると物音がして

 音がする先に向かうと押入れの中であいつが背中を丸めて怯えていた。

 あぁ、あんなに大きく感じていた背中はこんなにも小さく醜いものであったんだ。

 そんなことを思っていたのも束の間、次の瞬間気が付いたら目の前には

 頭から血を流して倒れているアイツがいた。俺の手にはビール瓶が知らぬ間に握られてた。

 そっから俺は自分がしたことが怖くなってそのまま家を飛び出し、二度と帰ることはなった。

 ――――――――――――――――っていうのが今まで話してなかった俺の話。感想は?」


「下らない三文芝居を聞かされた気分。要するに圭佑、あんたは犯罪者ってことね。」


「まぁ、そうはっきりと言われるとすごい罪悪感を感じるな。」


「言われなくてもあんたは十分感じているんでしょ。十年以上前から。」


話している途中から俺は一度も天使の顔が見えなかった、彼女がどんな顔してるか見たくなかった。


きっと俺を軽蔑しているに決まっている、本当に。


「で、願い事っていうのは何かしら。」


「芽衣から・・・妹から虐待の記憶をなくしてくれ。」


「記憶をなくす、ね。」


「出来るんだろ、天使ちゃんになら。」


「まぁ、可能ではあるわ。けど、それって根本的な解決にはなっていないと思うけど?」


「根本的も何ももう終わったことだし、どうしようもないだろ。だからせめて、

 せめてあいつの記憶の中には楽しかった家族だけがいればいいって。」


「はたして彼女はそれを望んでいるのかしらね。」


彼女の口から俺にとって意味不明な発言が飛び出し、俺は今まで彼女に感じたことのないほどの


怒りを覚えた。


「はぁ!?何言ってるんだ、当然だろ。あんな辛いこと覚えている必要はない。」


「確かに彼女はそう願っているかもね。けど、今あなたが口にしているその気持ちはあなたの罪悪感を薄めるため、そうあってほしいと願っているんでしょ。自己満足、贖罪のため。」


天使の淡々とした口調はまるで俺がそうであると断定したもののように言い


事実、俺はそれにとても戸惑っていた。


「違う、俺は芽衣のことを思って。その方があいつだって幸せだし――――――」


「家庭不和の原因は圭佑に無いにしろ、結局家庭を崩壊させる最後の一撃は自分が与えてしまった、

 そう責任を感じているんでしょ。自分がいけないって。そして妹をさらに傷つけてしまった。

 大好きな妹に恨まれたままなんて嫌なんでしょ、だから少しでも自分の気持ちを、罪を

 軽くするためにそう願いたいのよね。」


自分の中でも無意識にそう願っていたということ、俺のただ一人の家族がこのことを忘れてしまえば


なんの気兼ねもなく彼女とまた楽しい時間を過ごせるのではないか、そう思っていたことを


天使には看破させていたということか。まさか自分自身のことを天使のほうが分かっているなんて。


「・・・そうだね、俺は自分の犯してきた罪から十年以上も逃げてきたんだ。

 けどそうだとしても、天使ちゃんは俺の、俺のしたいっていう願い今まで叶えてきてくれただろ。

 別にいいじゃないか、今更。」


「そうね、私はあなたを心置きなく天国へ連れて行くことが目的だから

 それで気持ちがすっきりするなら私はその願いを叶えるべきなのかもね。

 ・・・・・ただ、ここからは私個人の意見なのだけれど私は・・・、

 私はあなたが自分の罪を後悔していることをよく知っているつもりよ。

 たしかにあなたは一度は逃げた、けどそのあとはまっすぐには生きてきたんじゃない。

 今まで一緒にいて私にはそう感じられたわ。

 だからあなたにはこれからも自分のどんな気持ちでも

 目を背けない人間であってほしいと願っている。

 あなたは知っている、罪から逃げることがどんなに楽か。でも、真っ直ぐに生きる難しさを

 知りながらもあなたはそれをこなしてきたじゃない、すごいことなんだから。

 そこがあなたの、圭佑のいいところだってこの天使ちゃんが認める唯一の長所なのよ。」


俺はそこでやっと天使の目をみることができた。


天使は初めてみるような優しい瞳をしており、きっとその瞳には俺のくしゃくしゃになった


顔が映っているんだろうなと思うととっても恥ずかしかった。


「・・・もう少し考えてみる。」


「そう、ありがとう。」


「それとさ――――――」





「はーい、って兄さん!?」


「やぁ、いきなりおしかけてきてごめん。今ちょっと出てこれるか?」


チャイムが鳴って部屋から出てきたのが旦那のほうでなく妹で安心した、ここで旦那に


会うとかなり気まずいから。


驚く妹を近場の公園に連れて行きふたりでベンチに座ってから長い時間が経った。


二人で星空を眺めながら早く話を切り出さなくてはいけないのに俺は別のある一つの疑問が生まれた。


「旦那さん、えっと悠太郎さんだっけ。は、まだ帰って来てないのか。」


「うん、最近は仕事が忙しいみたいでね。帰りは深夜だよ。」


「ったく、嫁をほっぽりだして仕事に邁進するのか。」


「仕方がないよ、悠太郎さんは仕事出来る人だから。いいじゃない、旦那様が出来る人なんて

 近所の人に自慢できちゃう。」


「けどな、新婚のうちからこれだと先が思いやられるぞ。芽衣は自分の言いたいこと

 あまり言わないからしっかり言葉で伝えないとダメだ。分かったな。」


「はいはい、ふふっ。兄さんに説教されるなんて何年ぶりなんだろ。なつかしいなぁ。」


「懐かしいって言うな、俺はまじめに話てるの。」


「うんうん、でさ兄さん。兄さんが私に会いに来てくれたのはこういう話をするためなの?」


妹からの話の切り出し、俺の雰囲気がいつもと違うのを察してたか普段の妹とはちょっと違って


いつもよりくだけた感じだったのはこのためなのか。


せっかく妹から話をできるようこの場を作ってくれたんだ、彼女の気持ちを聞くために来たんだ。


ここで逃げるような真似は出来ない、芽衣の気持ちを聞かずして何をしろというんだ。


「お前さ、俺が・・・・・家出るきっかけになったこと知ってる?」


「知ってるよ、お父さんを殴った・・・でしょ。」


「殴ったなんてもんじゃない、殺したんだぞ。

 けどなんで知ってて俺のこと探したんだ。あんな奴でもお前にとっては父親で その親父を俺は。」


「たしかに今お父さんはこの世にはいない、けどそれは兄さんのせいじゃないよ。

 あのあと刑に服することになって、刑務所に入ったんだけどその中で自殺したって。

 兄さんが出てってから半年後のことよ。」


淡々とアイツの最期を話す芽衣はあの父親にベッタリだった妹とは思えなかった。


「自殺・・・。

 けど俺は殴ったんだ。事実は変わらない。お前は憎んでいいんだ、幸せだった家庭を壊した俺と親父  を。お前にはその権利がある。」


「どうしてそうなるのかな?兄さんはただ私たちを愛しているからこその行動だったんでしょ。二人のこ と憎むとかそんなこと全く考えたこともなかった。確かにお父さんとの思い出は確かにまだちゃんと思 い出すまでにはできない。思い出そうとすると体中が震えて立っていられなくなる。だけど兄さんとの 思い出はちゃんと思い出せる、私の大切な家族の思い出、いつかきっとお父さんのことも

 そうなれるって信じているから。」


自分の考えていたことはまるで違う妹の正直な気持ち、まさかこんなことを考えていたなんて夢にも思わ


なかったから、彼女の考えをしっかり自分の頭の中で整理するのに時間がかかってしまった。


その言葉は俺のことを、許してくれると言ってくれているように聞こえた。彼女はそう思って言っている


わけではないのだろうけど俺の祈りを聞き届けてくれた。なんて自分勝手な妄想だろう。


けど妄想でもいい、また妹とこうして兄妹として話せるだけで俺は今も夢の中にいるみたいなのだから。


「そっか、じゃあ思い出になれるといいな。俺も応援してる。」


「応援してるって、兄さんはどうなの。この際だから聞いちゃうけど、今はどう思っているの?」





「んで、圭祐はなんて答えたのよ。」


「えー、これはいくら天使ちゃんでもプライバシーの保護のためこの先お答えすることはできません。」


ビルの屋上で金髪の髪を風に遊ばれながら天使ちゃんは俺の答えを待っている、


妹と今度の土曜に必ず会うという約束をもう一度半ば強引に確認させられ


その後別れて一時間ほど経ったところ俺は再びこの場所に戻ってきた。


何故彼女ががこんな質問をするかというと当然あの公園に天使がいなかったからである。


自分から行かないと宣言して妹と水入らずにしてくれたのか、それとも俺の纏うオーラがいつもと


違ってまじな話をするからか、どちらにせよ遠慮してくれたのだ。


とかなんとか言いながら実はこっそりついてきていたかもしれないが・・・。


「何よ、圭祐のくせに。この天使ちゃんに反抗するっていうの。」


「まさかまさか、天使様に刃向うなんて滅相もございません。」


「当然よ、刃向うなんてことを考えるのもおかしいわ。」


相変わらず天使は天使であり、その態度が今の俺にとってはとてつもなく嬉しかった。


「けどよかった、妹の気持ちないがしろにしてあいつの記憶奪っちまうところだったんだから。

 天使ちゃんには感謝してもしきれないな。」


改めて天使に礼を述べるとポカンとした顔をただ浮かべただけで


天使は何で口を開けているのか理解不明であった。


「何、このやけに素直な圭祐は!反抗しないはともかくいつもと違いすぎるっ!鳥肌がっ。

 なんか気持ち悪いわ、ああ気色悪いわ、吐き気がするわ。」


というかただ俺の気持ちのこもった感謝の言葉にあろうことか拒絶を示していた。


「何だよ、こんなこといつものことだろ。」


「いつもじゃないわよ!自分からこんなに素直になるなんて、私の調教――教育の賜物!?」


今、俺の事完全にペットだと思っているということが判明した、ふっでももうそんなことには慣れた。


「じゃあ天使ちゃんよー、俺の飼い主である天使ちゃんに話しがあるんだが。」


「はっ、何言ってるの?あんたは家畜よ。で、何よ話って。」


見事なまでに家畜だと宣言されてそのまま話に突入って天使スキルハンパない。


「天使ちゃん、6コ目の願い決めたぜ。今度こそ確定版。」





「兄さんの嘘つき・・・、どうしてこないのよ。」


約束の日、芽衣はここで何時間も待ちぼうけをくらっている、似たような背格好の人は


何人も通り過ぎっていったが待ち人は結局現れなかった。


住所も連絡先も何も分からないこちらからは何のアプローチも取れず


唯一出逢えそうなものはあの駅前で待ち伏せをするというもの。


それでも確率はとても低い、私はどうすればいいのか途方に暮れてしまった。


「会社の連絡先聞いとけばよかった、なんでこう大切なときに頭回らないんだろう。」


夕飯の後、いつものように浴槽にお湯をため脱衣所でボォーッと着替える。


当然、今日会えなかった兄のことを考えていた。


色々怪しいところが見え隠れしていたけど、やはり兄は昔の兄のままであり


私はとても嬉しかったから、それでもいいと思ったのだ。


それにあの日、最後に話した兄の本心を私はきっといつまでも覚えているであろう。


『今はまだ、許せない。というか俺がアイツを許す許さないとか言える立場じゃないし。

 けどそうだな、俺もいつか楽しい思い出も辛い思い出もみんなひっくるめて

 今が幸せって言えるようになりたいな。』


そして兄はまるで目に焼き付けるかのように私を見ていた。


なんだか一生会えないような気がして再会の約束を強く言ってしまったけど、


どうやらそれは間違いではなかったのかもしれない。


脱衣を済ませ風呂場へと足をのばす際、つい鏡をふと見てしまい、気付いた。


「あれ?ない・・・。」


気にしないようにはしていてもやはり気になっていつも入浴する際に鏡で見てしまう


背中の火傷の跡がどこをどうみても消失していた。




不思議そうに背中をまじまじと見つめる芽衣の姿を手にしたコンパクトで眺める謎の女性がいた。


彼女のいるところは建設途中のタワーであり地上80Mはあろう高さであった、


長く艶やかな黒髪をたなびかせ女性はタワーの突出部分のへりに座って少しでもバランスを


崩したらそのまま落下、即死状態になるであろう。


「ふふ、あの子が圭佑さんの妹さんなのね。可愛い。」


彼女は目をキラキラと輝かせ新しいおもちゃを見つけた子供のようであった。





そんなころ俺が知らないところで色々暗躍している影があるなんてこの時俺は思いもよらず


ただリバースする真似をする天使ちゃんを怒ろうとして逆に仕返しをされてたりした。


ってか本当に何があるなんて知らないけど。


そんなこんなで俺が無事成仏するまで残り4コ。

謎の女性現る!?

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