ご飯
その後の授業は全て、気を緩めて受けることが出来た。当然だ。
全神経を集中して観察しなければいけない対象が、二人ともいないのだから。
そして待ちに待った、お昼である。
この学校はお弁当持参が基本。教室内なら誰と食べても良い、そこそこ自由な制度である。
「さっちゃん!一緒に食べよう!」
僕がさっちゃんに声をかけると、彼は苦笑しながら頷いた。
「私も・・・一緒にいいかな」
「私もー!」
にぃちゃんとよっちも机を寄せて、一ヶ所に固まる。するとモブ子が「私も入れてねー!」と机をくっつけた。
これで五人がきっちり集まったわけだ。
「じゃあ食うか」
さっちゃんがそう呟き、全員がお弁当を開けようとしたところで。
ガラガラガラーッとドアが乱暴に開いた。
まさか、と思いながら僕達が凍り付く。
恐る恐る振りかえると、案の定そこにいたのは。
藤堂ルリだった。
一緒に勇気が居ない事に少し安心するが、油断大敵。何をしてくるかわかったもんじゃないのだ。
不機嫌そうな表情を見ると、どうやら勇気とは話せていないようだが、それでも。
彼女は僕達の存在を消すことが出来るのだから。
僕達がチラチラと観察していると、ルリは一直線にこちらに向かってきた。
そして近くにあったホウキを掴んで、僕に叩きつけようとしたのだ!
頑丈で怪我を負わない僕で、ストレスを発散しようと思ったのか、はたまた先程の事を忘れただけなのかはわからないが、彼女は僕の後頭部にホウキを降り下ろした。
するとあら不思議。昔ながらの木で作られているホウキの柄が、いとも簡単に折れた。
まるで鋼鉄に叩きつけたように、バッキリと。
折れた木片はキレイにルリの顔に直撃し、彼女は「あばっ」という間の抜けた声を出して倒れてしまった。
「あばっ」て。それでいいのか主人公。もっと「きゃあ!」とかあるだろ、「きゃあ!」とか。
それを見ていた学級委員は面倒そうにため息をつくと、ルリを担いで保健室に向かっていた。僕は学級委員に感謝の気持ちを込めてお辞儀すると、もう一度ご飯を食べることにした。
「いやぁ、嵐のようだったね」
よっちは呆れたように言いながら、手作りらしいハンバーグを口に放り込んだ。
「一生帰ってこなくていいのに・・・」
にぃちゃんは怖いことを呟いて、サラダをもしゃもしゃと頬張っている。まるで小動物のようだな、と思った。毒舌が無ければ、の話だが。
「本当、バカだよな、アイツ」
クククッ、と含み笑いを溢すさっちゃんのお弁当は既に空になっていた。もしかしたら授業中に食べていたのかもしれないなぁ、と考えていると、「食べてねぇよ」と言われた。彼はエスパーにでもなったのだろうか・・・。
モブ子はどうやら相当可笑しかったらしく、プルプルと震えながら笑っていた。どうでもいいけど飯を食えよ。と彼女に言うと、ゆっくりと食べ始めた。
しかしこのモブ子、今日に限って食べるのが遅いこと遅いこと。モソモソと口に入れてはいるが、量が減る様子もない。いつもはお弁当箱ごと食べてしまいそうな勢いなのに・・・と、少し彼女の様子に不安を覚えた。
「モブ子、食べるの遅くないか?
体調が悪いのか?」
するとモブ子は虚ろな瞳で、僕にゆっくりと返答した。
「そういえば・・・体がだるいような・・・。
風邪かも」
じゃあ保健室に、と僕が立ち上がろうとすると、さっちゃんが呟いた。
「嘘つけ。
お前、授業中に菓子食ってたからだろうが。」
「あ、ばれちゃった?」
「僕の心配を返しやがれ!」
テヘッ?と舌を出すモブ子の頭を軽く叩く。
よっちはニコニコと笑いながらそれを見て、
「いっちゃん心配症~
モブは風邪なんか引かないってぇ」
「それもそうか・・・」
僕は軽くため息をつきつつ返事すると、太陽が西に傾き始めた空を見た。
午後になるな、と眩しい光を見つめながら呟いていた。
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