体育3
ここで少し彼女、藤堂ルリについての説明をしておこう。
藤堂ルリは超有名な家柄、藤堂家所属のお嬢様であり、末っ子として大切に育てられてきた。
そのため【世界は自分を中心にして回っている】という非常に迷惑な思考回路をお持ちだ。
成績優秀、運動神経抜群(モブ子ほどではないが)、そして容姿端麗の彼女は学校のアイドルだが、内面はイケメンと金持ちに媚びを売る悪女である。そしてビッチである。
異様な程に高いプライドを所持しており、家のお金を使ってやり放題。まさに悪女。コイツが主人公でいいんですか皆さん!
さて、本題に戻ろう。このプライドの高い彼女が、脇役でしかない僕達にイケメンとのイベントを潰されてしまったのだ。
クエスチョン、彼女はどんな反応をするでしょう?
アンサー、こんな反応をする。
「あんたたち、モブのくせに勇気君に何してるの!?大きな穴を掘って落とすなんて・・・!
お母様に言い付けてやるんだからぁ!」
ルリがそう、大きな声で叫ぶ。
もう一度訪ねよう。コイツが主人公でいいんですか皆さん!!
彼女の、そんな自己中心的な発言を聞いた僕らは顔を見合わせる。
そして隠れ毒舌であるにぃちゃんが呟き始めた。
「あの人・・・頭大丈夫かな?
私の家・・・今度招いた方がいいかな?」
「にぃちゃんの家って確か病院だったよね・・・ぶふっ」
思わず僕が吹き出す。モブ子に至っては地面に崩れ落ちて、肩を痙攣させる始末である。よく言った、にぃちゃん。
そんなにぃちゃんの発言に続くよう、僕らは口々にルリへの嫌味を述べていく。
「お母様っ・・・お母様っていつの貴族の呼び方だよ」
「『お母様に言い付けてやるんだからぁ!』
どう?似てる?」
「ふふふ・・・さっちゃん、最高。
でも、ちょっと似てないよ・・・本物はもっと声が汚いから・・・」
「声が汚い発言頂きましたぁ!」
ケラケラと笑う僕達に、ルリの怒りはMAXになる。顔を赤くし、手をきつく握りしめている。
そんな彼女に、モブ子がトドメを指した。
「私に百メートル走で負けたから、逆ギレしてるんでしょ。ねぇルリちゃーんっ!」
ブヂィ!と。
僕はルリの【何か】が切れる音を聞いた。
「っ・・・いい加減にしなさい!」
ルリが衝動的に、モブ子の顔を平手で叩いた。
バァン!という乾いた音がグラウンドに響く。
僕はその光景をみて、怒りより先に、ルリがモブ子を平手で叩いていたことに安堵した。
もしもルリが拳でモブ子を殴っていれば。
ルリの手は骨折していただろうから。
モブ子はケロリとした表情で叩かれた頬を触ると、ルリに笑う。
「モブはね、物語が終わるまで絶っ対に死んじゃいけないから、体が丈夫に出来てるんだよねー。殴られたぐらいじゃあ傷も付かないよぉ?
残念でしたー」
ニヤニヤとモブ子は笑う。
そう、モブというのは、物語の引き立て役。怪我なんかをしてもらっては困る存在だ。
「あれ?こんなのに巻き込まれたら絶対死ぬよな?」っていうことに巻き込まれたモブが、平気な顔で次の話に登場しているのはこんな裏があったからなのだ!だから僕だって風邪をひいたことが無いぞ!
そんな頑丈なモブ子の頬を本気で叩けば、手が千切れてもおかしくない。
教師4はルリの手を遠目から確認すると、またもや学級委員に保健室に連れて行かせる。「ついでに頭の検査もしてもらってね・・・」というにぃちゃんの呟きに思わず笑ってしまったのは言うまでもない。
保健室には勇気もいるが、ゴキブリホイホイのせいでそれどころでは無いだろう。精々、無様にもがく姿を見られるがよい。
こうして一時間目の授業はメインが欠けたまま終わることとなったのだった。