体育
僕達が着替えてグラウンドにでると、そこには既に数人、集まっていた。
その真ん中に自分達とは違う、派手なオーラを纏った男女が居た。
こいつらが僕らの敵、主人公の藤堂ルリと、メインヒーローの高村勇気だ。
二人は人目も気にせず仲良く、今日の授業の話をしていた。
「今日、百メートル走だって・・・
私、自信ないよぉ」
こちらで少し語尾を伸ばした、セミロングの少女が、藤堂ルリ。可愛らしい顔をしているが、何処かぶりっ子っぽい。
こんなぶりっ子主人公よりは、にぃちゃんやよっちの方が人気が出そうである。モブ子は・・・可愛いが少し変態に近い所があるからな。
「大丈夫。俺がついてるからな。
俺、お前が一位とれるように支えてやるから。頑張って一緒に一位とろうな!」
と、そう宣言した男がヒーローの高村勇気。
キザな台詞も似合ってしまうイケメンだ。うざい。
「・・・いっちゃん、あのうざくてキザな台詞に建設されたフラグをへし折らないといけない気がするんだけど。」
鬱陶しい勇気の台詞に腹がたったらしいさっちゃんが、額に青筋を浮かべながら言った。僕はそれに答える様に頷くと、どうにか二人を一位にさせないための、作戦を始めることにした。
授業は、百メートル走。男女別で四人一斉に走ってタイムを計測する、というもの。四人は誰と組んでも良いことになっていた。
つまり、足の速い奴と主人公達を組ませれば、一位を防げるというわけである。
すると何処からか現れたモブ子が
「私、主人公ちゃんと組んでくる」
と一言だけ告げて走っていった。するとよっちが心配そうな表情で言う。
「モブ子、大丈夫なの?確かルリってかなり足が速かったと思うけど?」
「大丈夫。アイツ毎朝42キロ、フルマラソンしてるから。」
「何処のマラソン選手だよ」
さっちゃんが呆れた顔で突っ込みを入れるが、事実である。毎日僕をマラソンに付き合わせては、息切れ無しで完走する。こいつはいつの間にモブの領域を越えたのだろうか。
これで主人公の方は抑えたが、問題は高村勇気、彼である。
サッカー部に所属する彼は短距離走に秀でており、クラスで負けなしの速さを誇る。部活すらしていない僕とさっちゃんでは敵わないだろう。
するとさっちゃんが第一コースに歩みより、土をえぐる。数十ヵ所で同じことを行うと、僕を見た。
「一応簡単にトラップは仕掛けておく。だからいっちゃんは第一コースに高村勇気を誘導してくれないか?」
僕は慌てて頷くと、その場をさっちゃんに任せて高村勇気の所に急いだ。
「た、高村勇気!」
「うん?」
僕が高村勇気にそう声をかけると、彼は少し嫌そうな顔をした。僕はそれに気がつかない振りをして、続けた。
「百メートル走、一緒に走らないか?」
すると高村勇気は、僕に絶対勝てると確信したのだろう、二つ返事でOKをした。これであとは、第一コースに誘導するだけである。
作戦は、着実に進んでいた。