メンバー達との会話
僕はモブである。名前はまだない。
皆からは【クラスメイト1】、または【いっちゃん】と呼ばれている。
以上が僕の自己紹介だ。少ないのは全て僕が脇役、モブだからだ。
モブであるがゆえに僕は、本当に何処にでもいる少年なのだ。特徴がないのが特徴です。と自己紹介をしたほうが良かったのかもしれないほどに。
そんな、どうしようもない自分に少し幻滅しつつ、僕は自分のいるべき場所、【二年三組】とかかれた教室のドアを開けた。
ここはとあるラブコメの世界だ。
ある美少女がいきなり転校してきたイケメンとの恋に落ちるような、どこにでもあるストーリーの物語。
僕達は、この物語がエンドを迎えれば、消えてしまうことになっている。自分達、モブなんてものは、ラブコメよりも儚い存在になったのか、と呟いた。
ガラガラガラーと、騒がしく開いたドアに、この【高岡中学校】の老朽化を感じながら、僕は一歩踏み入れる。
「おはよう」
そう朝の挨拶をすると、こちらに気がついた数人の男女が口々に挨拶を返し始めた。
「おはよう・・・」
何処か自信なさげに言う彼女は、【クラスメイト2】、通常【にぃちゃん】である。今日も、みつあみにした黒髪を揺らしながら丁寧なお辞儀をしてくれた。
「おはよー」
こちらで億劫そうに言うのが、僕の親友である、【クラスメイト3】だ。皆はだいたい、【さっちゃん】と呼ぶ。童謡の歌詞の女の子ではなく、一応男である。
「おはよう!」
ニコニコと笑いながら僕に言うのは、【クラスメイト4】、【よっち】というあだ名の少女だ。ショートカットにした髪がふわりふわりと揺れていた。
ここには、モブらしからぬ個性的な面々がそろっている。
いや、一人足りない。一番個性的なやつが。
疑問に思いつつ僕はにぃちゃんに訪ねる。
「なぁ、にぃちゃん、アイツは?」
「え、と・・・
さっき、主人公さんと、ヒーローさんのいい雰囲気に突っ込んでいった・・・と思う。」
そう彼女が呟いた瞬間、アイツの声が聞こえてきた。
「おはよう皆ァァァ!特にマイエンジェルいっちゃん!」
「帰れ」
そう、先程から言っていた、特に個性的なモブ。
それが彼女、モブ子である。
実際は【クラスメイト7】という仮名もあるのだが、本人がそれを断固拒否したため、この名前に落ち着いたのである。まったくもってワガママを言うやつだ。
モブ子は長い髪と頭にある黄色のリボンを揺らしながら、クラスにいる総勢26人のモブ達に言う。
「さて皆!聞いてくれ!
ヒロイン、藤堂ルリとヒーローである高村勇気の恋愛の邪魔をしたことによって、また私達の命が助かったぞ!
さぁ私を崇め奉れぇぇぇ!」
拳を振り上げる彼女に従うように、全員が頭を下げた。
リーダーシップと行動力に秀でており、運動能力も劣ることがない彼女は、モブ達の頂点に君臨している。まぁ少し頭は悪いが。
そしてもう一つ、コイツには忘れてはならない特徴がある。
コイツは、筋金入りの変態だということだ。
しかも妙に僕だけを狙う変態である。
この二年生で同じクラスになってから、やけに僕に話しかけはじめ、挙げ句の果てにはストーカーと化してしまったのだ。
本当にあと十ヶ月もコイツと一緒に居なければならないのだ。そう考えると頭痛がしてくる。
思わずため息をついた僕に、早速と言わんばかりにモブ子は話しかけてきた。
「おぉ!どうしたいっちゃん!
ため息をつくと幸せが飛んでいくとかいうじゃん!
・・・ハッ、まさか悩みごとか!許嫁の私に隠して悩むなんて、水臭いじゃない!悩みがあるならいつでも私の胸に飛び込んでおいで!」
「いろいろ突っ込みたいがとりあえずどうしてそうなった」
僕はキラキラとした顔で手を広げるモブ子を無視し、なんとなく窓辺に目を向けた。
外では先生がグラウンドにラインを引いていて、僕は一時間目が体育だということを思い出した。
「モブ子、体育だから僕、着替えにいくからな。」
「なに!いっちゃんの着替えなら是非私も参加させて下さ・・・ってにぃちゃん!よっち!どうして私を抑えるの!?あ、いっちゃん待ってぇぇぇ!」
僕は叫ぶモブ子を抑える女子達にお礼を言うと、更衣室へ向かった。