ヒロインに復讐した傍観者にヒロインの親友が復讐する話
私は何時でもお姫様だった。
生まれた時から、両親に可愛がられていて、家も裕福だった。
おかげで何時もフリフリのドレスを着て、大きなリボンをつけていることができた。
周りの大人も、みんな褒めてくれた。
それが当然だと思っていた。
幼い頃、読んだ絵本では、綺麗なドレスを着たお姫様が素敵な王子様と結ばれていた。
私にも、こんな素敵な王子様が来るものだと信じていた。
絵本のお姫様は、みんな綺麗で、私も綺麗になるための努力は惜しまなかった。
家政婦がお姫様は頭も良いと言うから、勉強だってたくさんした。
おかげで、小中学では満点のテストしかとったことがなかった。
そして、私立高校に入学。
小中学校では出会えなかったけど、きっと高校生になったら王子様に出会える。
そう、信じていた。
確かに、王子様のような男の人は居た。
でもそれは、一人じゃなかった。
誰が私の王子様なのか、わからないから、仕方なく全員と仲良くしたの。
そうしたら、王子様候補はみんな私を好きだと言ってくれた。
でも、変わりにどんどん友達は離れていって。
最後には、幼馴染だけが残った。
それなのに私は、どの王子様候補にもときめかなくて、曖昧な返事ばかり繰り返してた。
そんなことばかり続けていたから、きっと罰が当たったの。
王子様候補も唯一の友達も、ある女子生徒に取られてしまった。
取られた…なんて言い方は駄目ね。
だってそれは彼らの意思で、そうなったんだもの。
悪いのは私。
女子生徒は、私に言ったわ。
「貴方のせいで、私の友人がたくさん泣いたわ。あの子の痛みは、こんなもんじゃない。それでもあの子は、貴方の事を許すと言うの。今回は、あの子に免じて見逃してあげる。その代わり、次も同じようなことをしたら、こんなんじゃ済まないから」
そうして、王子様候補も口々に私を罵った。
どうしてお前なんかに惚れていたのか、自分の気が知れない。
貴方は私に本気の笑顔を教えてくれた。その事だけは、感謝しています。
でもー、裏でこそこそ何かするのは良くないよー?
人に迷惑はかけちゃ駄目だよねー?
ひーちゃんって、そんな子だったんだねー。
知らなかったー。
失望したよ。
………姫…俺、嫌い。
生徒会長さんは、いつも通りの傲慢な態度で言った。
副会長さんは、まるで興味のないような目で私を見た。
双子の総務と会計は、女子生徒の腕に抱きつきながら、上目遣いで言った。
最後の書記さんの言い方では、私が書記さんのことを嫌いと取れるかもしれないけれど、おそらく、自分は私のことが嫌いだと言いたいんだと思う。
幼馴染は、何も言わなかった。
私は、一人ぼっちになった。
裕福だった家も、大手の取引先が突然、契約を取り消したらしくて、一気に落ちぶれた。
両親の仲は徐々に険悪になり、ある日家に帰ると、二人が天井から吊り下がっていた。
二人のお葬式には、誰も来て、くれなかった。
親戚からの連絡も一切なく、私は日々の生活でさえ、ままならなくなった。
まるで、シンデレラの逆再生みたいだわ、と思った。
外は雨が降っていた。
家に帰りたくなくて、傘もささずに公園のブランコで暇を潰していた。
何が悪かったんだろう。
私はどこで、間違えてしまったのだろう。
幼馴染が、公園のそばを通りがかった。
あの女子生徒と一緒に歩いている。
二人は私に気づかない。
まるで、私が透明人間にでも、なってしまったようだ。
どうせ、私がいなくなったところで、もう心配する人間はいなくなったんだけども。
「ねぇ、お嬢ちゃん、暇なの?」
しばらくぼーっとしてたら、お腹の出たおじさんが、私に話しかけてきた。
一言二言話したら、おじさんがこのままでは風邪をひく。
一緒にホテルへ行こうと行ってきた。
大丈夫。
と言ったら、
お金を上げるから。
と言われた。
今の私には、お金がない。
でも、生きるためには、お金が必要だ。
幾らくれるの?
持ち合わせは五万しかないんだ。
じゃあ、それでいいよ。
私は、その日、女になった。
それから、度々、同じように体を売って、お金を得た。
私が未来の王子様のために、長年かけて作り上げたこの体は、おじさん方に好評だった。
でも、そんな生活にも疲れてしまった。
なんだかもう、いいかな?
そう、諦めようとした。
あの日みたいに、雨の中、傘もささず、公園で、カッターナイフを手首に当てた。
私の隣には、いつもお姫様がいました。
初めて出会ったのは、幼稚園の頃。
私は、新しくこの土地に引っ越してきて、友達がいなかったのです。
その頃から私は大人しい性格で、積極的に他の園児に話しかけることができませんでした。
そんな私に、初めて声をかけてくれたのが、私のお姫様、姫香ちゃんでした。
姫香ちゃんは、乙女チックで可愛くて、そして誰に対しても優しかったです。
幼稚園の頃から、男の子にも女の子にも好かれてました。
私も、そんな姫香ちゃんが大好きでした。
そんな姫香ちゃんは、絵本のような王子様に、幼い頃から憧れていました。
小学校の高学年には、ませた男子達に告白もされていましたが、それらを全て、姫香ちゃんは断っていました。
私は時に、そんな彼女に嫉妬したものです。
一度、中学生の時に、大喧嘩をしました。
原因は私の嫉妬から。
いつも姫香ちゃんばかり褒められて、私の心はやさぐれていたのです。
それがついに爆発して、姫香ちゃんにも引火、お互いに叩き合い、殴り合いの大喧嘩です。
姫香ちゃんは最終的に私に体当たりをして、倒れた私の上に乗っかったのです。
そして、泣いて怒りながら、私の頬を両手でペチペチ叩きながら言いました。
私は、お姫様になるために、ずっと努力してきた!
嫌いな人にも、いい顔して、優しくして…!
それを、一番近くで見ていた貴方が言うの!?
悔しかったら、もっと努力しなさいよ!!
私みたいになりたい、なんて言ってるうちは、絶対に、私を超えることはできないんだから!
姫香ちゃんはいつも通りの、堂々とした足取りで去って行きました。
私は一晩中考えに考え抜いた結果、翌日には姫香ちゃんに謝り、元サヤに戻ったのでした。
しかし、高校に入ってから、姫香ちゃんは王子様探しに没頭し始めたのです。
私よりもイケメンを優先して、逆ハーレムを着々と作り上げて行きました。
段々、姫香ちゃんが変わってしまったような、遠くなって行くような気がしてきました。
たまに姫香ちゃんとお話しする時、それとなく王子様候補達のことを聞きました。
すると意外なことに、彼女は惹かれる男性がいないとのこと。
それなのに告白もされて困っているということ。
私は、やはり姫香ちゃんは姫香ちゃんなのだと、少し安心しました。
そんな誰得状態が続いていたある日、同じクラスの斎藤さんが私に言いました。
貴方、お母様が癌を発病されたようですね。
助かる可能性も低いとか。
お金も足りないようですし。
どうです?
私に協力してくれたら、料金も良心的ないい医者を紹介しますよ。
斎藤さんの狙いはわかっています。
姫香ちゃんへの報復。
斎藤さんの親友が一方的に生徒会長を想っていたらしく、よく姫香ちゃんを目の敵にしていました。
その親友さんに、私は問いたい。
会長を振り向かせるために、必死になって努力したのか。
例え冷たくされても、何度も何度もアタックしたのか。
姫香ちゃんは、学校のみんなにはビッチだとか尻軽女だとか、散々言われているけれど、そんなんじゃないです。
姫香ちゃんのことだから、きっとキスだって済ませてないはずです。
全ては王子様のため、今でも努力を惜しんでいない。
そんな努力をして、それでもまだ振り向かせることができないのなら、それならまだライバル関係を認めますけど、今の親友さんは、同じ土俵にすら立っていないと私は思います。
その事を言ったら殴られました。
バランスを崩してしまい、机に背中をぶつけてしまいました。
頬も背中もじんじんして、とても痛いです。
ねぇ、知ってる?
私は、貴方くらいの小物を壊してしまうのなんて、簡単なの。
貴方も、お家が潰れてしまうなんて、嫌でしょう?
家が潰れるのは困ります。
私には、弟が三人に、兄が二人います。
そのうちの弟はまだ三才です。
しかし、そんな脅迫まがいなことまでするなんて、貴方らしくないですね。
貴方なら、もっと慎重にやると思っていたのですが。
また、殴られました。
大方、王子様候補達の心が思ったよりも固くて、中々攻略できていないのでしょう。
私は、薄ら笑いを浮かべました。
目の前の彼女が滑稽で滑稽で。
そんな私を、彼女は蹴りました。
お腹を蹴られたため、息を吐き出しました。
お腹の中のものも逆流してしまいそうです。
うう、痛い。
ねぇ?
協力してくれるよね?
それでも私は、いいえと首を振りました。
姫香ちゃんには、もう私以外のお友達がいないのです。
私が、姫香ちゃんを裏切るわけにはいきません。
そんな強情な私に、斎藤さんは呆れをなしたのか、携帯を取り出しました。
見て、これ。
それは、私のすぐ下の弟の写真でした。
アングルからして、おそらく盗撮でしょう。
弟って、可愛いわよね。
例え反抗期真っ盛りの、おバカな弟だって。
ええ。
可愛いですね。
私は、今すぐ、この子を消すことができる。
数人の男を派遣して、輪姦してやってもいい。
ねぇ、選んで?
私に協力して医者を得るか、私の協力を断って、家族が一人減るか廃人になるか。
貴方は、どちらを選ぶの?
私は、心の中で、姫香ちゃんに謝りました。
他の方をどうやって堕としたのかは、知りません。
でも、おそらく、彼等の言葉から察するに、あることないこと吹き込んだのでしょう。
そしてとうとうその日がやってきました。
制裁の日、だそうです。
私は、口々に罵られる姫香ちゃんに何も言えませんでした。
目も合わせられなくて、視線もそらせていました。
そしたら、斎藤さんに足を踏まれました。
この方、すぐ暴力に訴えますね。
姫香ちゃんとは大違いです。
ごめんなさい、姫香ちゃん。
姫香ちゃんのお家は、倒産したそうです。
斎藤さんの言っていたことは、本当だったようですね。
でも、私も、準備は着々と進んでいます。
姫香ちゃんを救う準備です。
近頃、姫香ちゃんに良くない噂が流れています。
それは、姫香ちゃんが体を売っているという噂。
噂の出処は、斎藤さんでしょう。
彼女と一緒に私も見ました。
姫香ちゃんが公園でぼーっとしていると、気持ち悪いおじさんがやってきたのです。
そして、二人は消えて行きました。
噂は当てにならないと言いますが、この噂は嘘だと言い切れないのです。
私が不甲斐ないばかりに、ごめんなさい姫香ちゃん。
斎藤さんに感くぐられないように、今は貴方に話しかけることはできないのです。
でも、決戦の日は近いです。
待っててください姫香ちゃん。
果たし状と書かれた紙を持って、斎藤さんは現れました。
私は屋上で髪を縛って仁王立ちをして、準備万端。
彼女を待っていました。
「何の用かな?鈴木さん」
「貴方にお話しがあります」
「どんなお話し?」
私早く帰りたいんだけど。
斎藤さんはその言葉を飲み込んだように感じました。
人と話す時にその態度はどうかと思います。
「斎藤さん、貴方はあの飼葉コーポレーションの社長さんの娘さんらしいですね。苗字が違うのは、母親が離婚して、そちらについていったから。間違いがあったら、訂正してください」
「間違いない」
「そうですか、では続けます。今回、貴方がしたことは二つ。一つ目は、生徒会のみなさんに姫香ちゃんの悪口を吹き込んだこと。二つ目は、貴方のお父様に頼んで、姫香ちゃんの会社の契約を破棄したこと。これも、間違いがあったら訂正してください」
「間違いない」
「そうですか。今の飼葉コーポレーションの景気は如何ですか?」
「貴方に教える筋合いはないわ」
「そうですね。失礼しました。では質問を変えます。貴方は、今、生きていて楽しいですか?」
「もちろんよ。生徒会はベタベタしてきてウザいけど、佳奈は元気になったし、ゲームが終わった以上、私は自由だもの」
ゲームあたりからは小声でしたが、私は聞き取りましたよ。
「ゲーム?なんのゲームですか?」
「…この世界自体が、ゲームなのよ。貴方が姫香ちゃんと慕う人間がヒロインで、生徒会を落とすゲーム」
「なるほど、そのヒロインポジションを貴方が奪ったわけですね」
「奪いたくて奪ったわけじゃないわ。仕方なくよ、仕方なく」
「人間には、少なからず、ハーレム状態に憧れる傾向があるそうですよ。そう言っておきながら、実は貴方も憧れていたのではないですか?ハーレムというものに」
「なにバカなこと言ってんの?そんなわけないじゃない」
「そうですか。すみません。推測で物を言いました。知ってます?ハーレムって、昔ヨーロッパの王様が、側室のためだけに作らせた宮殿の名前からきたらしいですよ。何事にも、起源があるのですねぇ」
「…なに?そんなくだらない話をするために、私は呼び出されたの?」
「あぁ、いえ。少し話が逸れてしまいました。謝罪します」
「謝罪はいいから、早く本題に入ってくれない?」
「はい、わかりました。では、本題に入ります。もう、姫香ちゃんに手を出すの、やめてくれませんか?」
私がそう言うと、斎藤さんは面白そうに笑いました。
「何?一度彼女を裏切った貴方がそれを言うの?」
「はい。私は確かに一度、姫香ちゃんを裏切りました。例え貴方に家族を傷つけると脅されていたとしても、裏切ったことに変わりはありません。しかし」
「私たちは深い友情で結ばれてるから平気って?バカみたい。それこそフィクションの中のセリフだわ」
「そんなこと言いません。逆です。私はこの事を姫香ちゃんに言うつもりはありません」
「は?何偽善者ぶってんの?」
「やらない正義よりやる偽善ってよく言うじゃないですか」
「よく舌が回るわね」
「回ってるのは思考回路ですね。舌は回してません」
「そんな意味じゃなくて…はぁ、まぁいいわ。で?手を出すのをやめろって?いいわよ、最近飽きてきたところだし、お父様に言ってあげる。それだけ?」
「あと一つ。私、実は執念深いのです。エガオ動画って知ってます?」
「知ってるわ。それがなに?」
めんどくさそうに私の話を聞く斎藤さんに、私は笑って言いました。
「今、この話し合いを生放送で放送してます」
「は?」
ピリリリリと、斎藤さんの携帯電話が鳴ります。
画面を見て、お兄様…?と彼女は呟きました。
実は先日から、これは計画していたことなのです。
生放送の視聴者を集めるために、様々な掲示板でこの事をお話ししました。
斎藤さんがお兄様と慕う男性は、飼葉コーポレーションの社長に養子として引き取られていたのですが、その前は私のお家のお隣さんだったのです。
当然、姫香ちゃんのことも知っていて、だいぶ前から相談をしていました。
この計画も、ほとんどその男性が考えたものでした。
男性は顔も良く頭もいいのです。
まぁ、ネタばらしはこの辺でいいでしょう。
「では、私はこれで」
私はそう言って、屋上を去りました。
興奮を冷ますため、図書室へ寄ってしばらく本を読みました。
外には雨が降ってきました。
姫香ちゃんはどうしているのでしょうか。
見るだけなら、と私は席を立ちました。
姫香ちゃんはあの公園にいました。
しかし、今日はなんだか雰囲気が違います。
手に持ってるのは…カッター!?
「姫香ちゃん!!」
私は思わず駆け出します。
姫香ちゃんは私の金切り声に驚き、こちらを振り向きました。
私は姫香ちゃんの胸に抱きつきます。
「ごめんなさい!ごめんなさい姫香ちゃん!!私が、私が悪かったです!なんでもするから、お願いだから死なないで!!」
「歌佳…?どうして…」
「何も言わないのです!何も言わなくていいのです!私は、私は!」
雨に紛れて、頬には涙がつたいました。
姫香ちゃんが死んでしまうなんて、そんなの!
そんなの悲しすぎます!
ギュッと抱きしめていたら、姫香ちゃんに抱きしめ返されました。
「歌佳…歌佳だ…。私の歌佳…」
姫香ちゃんは涙声で、私の名前を呼びます。
「はい、歌佳です。昔からずっと、姫香ちゃんの歌佳です」
私たちは雨に奪われて行く体温を守るかのように、ピッタリと抱きつき合いました。
今、私たちは一緒にお風呂に入っています。
私のお家のお風呂です。
体を洗い、雨で冷えた体を温めます。
私のお家は一般家庭なので、ちょっと狭いですが、私は久しぶりに入る姫香ちゃんとのお風呂に満足していました。
…これが、最後だとしても。
「…歌佳はいつも私の隣にいたね」
姫香ちゃんは、思い出したようにポツリと言いました。
私は、その何気無い言葉に、非常に申し訳なく思います。
ずっと一緒に居たのに、姫香ちゃんが自殺しようとするまでずっと離れていたのですから。
「はい…。私は、姫香ちゃんが大好きです。一番大変な時にそばにいれなくてすみません」
シュンとしながら言いますと、姫香ちゃんはゆっくり首を振りました。
「…いいよ、許す。だから…」
「はい」
「…その、召使いみたいな言葉遣いをやめて、また、私の隣に並んでくれる…?」
姫香ちゃんの言葉に、私は一瞬ほおけてしまいました。
ポカーン。
思わず心の中で言ってしまうくらい、びっくりしました。
そんな、そんな!
「いいのですか…?私は一度、姫香ちゃんを裏切ったのですよ?」
「いいよ。そんなこと。許すって言ったでしょう?」
姫香ちゃんは、私を安心させるかのように、優しく微笑みました。
ひ、姫香ちゃん…!!
「ありがとうございます…もう、許してもらえないかと…思っ、て」
ああ、駄目ですね。安心したら、涙が出てきました。
「もう…歌佳ったら」
姫香ちゃんが私を抱き寄せ、背中をさすります。
雰囲気壊しちゃうかもしれませんが、ちょっと思ったのです。
お風呂で裸で抱き合う女子…ちょっとアレですね。
うちの弟らへんの少年が喜びそうな図ですnすみません。
でも、本当に嬉しいのですよ。
また、姫香ちゃんと一緒にいられるのが。
願わくば、姫香ちゃんに幸ありますように…。
僕にはとても美人な彼女がいる。
平凡な僕には勿体無い、モデル顔負けの彼女だ。
しかも、仕事もできる。
出会ったのはこの会社で、僕の後輩として、彼女はやってきた。
彼女は頭が良くて、仕事もすぐに覚えた。
それを褒めたら、田中さん(僕)の教え方が上手いんですよ。
なんて言う、気だての良い子だ。
そんな彼女が何をトチ狂ったか、いや、これは彼女に失礼だな。
僕のどこに惹かれたのかわからないけれど、告白をしてきた。
始めは、こんな美人と付き合えるなら遊びでもいいやと思っていたのに、段々気持ちが膨らんでいって、ついに一年前、僕からプロポーズした。
その頃は付き合い始めてもう六年経っていたし、僕らもある程度貯金がある。
何より、彼女が本気で僕のことが好きなんだと、知った。
いや、自意識過剰などではなく。
その証拠に、彼女は泣きながら頷いた。
そして、実は、明日が僕らの結婚式なんだ。
彼女の親友が手伝ってくれて、ずいぶんと準備が簡単になった。
彼女の親友には、だいぶ前から恋愛相談を持ちかけていたこともあり、もう頭が上がらない。
最近では、彼女の見ていないところに限り、顎で使われるようになってしまった…。
まぁ、いいけど。
「なぁに考えてるの?」
後ろから、彼女が抱きついてきた。
さっき一戦目が終わったばかりなので、当然僕らは裸。
わざと押し付けるように、僕に抱きつくあたり、経験豊富なんだなぁと思う。
「とうとう、明日なんだなーって思って」
「七年って、長いようで短いよねぇ」
「そうだなぁ」
本当、彼女が来てから時間が経つのが早くなった気がする。
今まではただなんとなく生きてただけだったのに、今では立派なマイホームを建ててやるという夢もできた。
彼女は色々なものを届けてくれた。
優しさや生きる希望、夢、僕なんかには、本当に勿体無い彼女だ。
かと言って、誰かに譲る気なんてさらさらないけど。
「君にはいっぱい返していきたいものがあるからね」
彼女のくるくるとした長い髪をいじる。
「私も、隆司さんには色々返したいもの、あるよ」
「返していくのに、一生かかるかも」
「私も」
「だからずっと一緒にいてくれる?」
「もちろん。それを神様の前で誓うのが明日なんでしょう?」
「はは、そうだった」
急ぐことはない。
ゆっくり、ゆっくり、彼女との時間を過ごしていこう。
「あぁ、楽しみだなぁ」
「なにがー?」
「姫香と一緒に生きるこれからの未来」
「なんかおじいちゃんみたい」
「まぁ、姫香よりも四歳年上だからねぇ。こんなおじいちゃんは嫌かい?」
「嫌なわけないじゃない。隆司さん、大好きよ」
「僕もだよ」
僕らは誓いの口付けをする。
周りには、たくさんの人がきてくれていた。
彼女の方の親戚も集まってくれた。
友達もたくさんいる。
みんな僕らを祝福してくれている。
投げられたブーケは彼女の親友の元へ。
隣のイケメンが、驚く彼女を優しく見守っている。
次は僕らが祝福する番になりそうだ。
「姫香、今、君は幸せ?」
今にも泣き出しそうな彼女に問いかける。
すると彼女は僕を見上げ、にっこり笑った。
「これ以上ないくらい」