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第九話

 とりあえず、お母さんが帰ってきたら優馬に返すお金を回収しないとね。


 夕飯の後片付けと明日の朝食、お弁当の下準備をまとめて始める。


 こういう時にキッチンが広いとやりやすくて良い。

 優馬の家で料理をした事もあるけど、あっちはちょっと手狭だからね。


 お母さんが料理の腕が残念なため、必然的に身に付いた料理の腕だけど、美味しいものができるのは嬉しいし、食べてくれる人達の表情がほころぶのを見ているとやっぱり嬉しいものだ。

 優馬のお金で材料を買った事もあり、それをエサに明日の彼の分のお弁当を作る事にもこぎ着けたし、胃袋をつかむのも大切だからね。

 あの特殊な性癖だ。優馬には最終的に相手などできない可能性だって高い。

 その時は何とか戸籍上でも夫婦になれば、そのためには完全に奴の胃袋をつかむのだと張り切った時もあるからね。

 優馬はだしを利かせた卵焼きではなく、砂糖を入れた卵焼きの方が好きだ。私はどちらも好きだけど、優馬のお弁当を作る時は必ず、砂糖を入れる。

 優馬の好みの味付けは完璧だ。覚悟しておけよ。優馬。

 

「ただいま。姉さん。明日の弁当?」


 鼻歌交じりで料理を続け、卵焼きが焼きあがった時、タイミング良く明斗が家に帰ってくる。

 手にしていたリュックをソファーに投げるとキッチンを覗き込む。


「そうだけど」

「味見」

「夕飯、食べてきたんじゃないの?」

「食べたけど足りなかった」


 明斗のねだるような声に私は小さく肩を落とすとまだ湯気の上がっている卵焼きに包丁を入れる。

 菜箸でお弁当に入れるには見栄えの悪い端の部分を取ると彼の口先に運ぶ。

 明斗は躊躇する事無く、その卵焼きを頬張るが焼きたてのため、熱かったようで若干、涙目になっているが熱いうちに食べたいのか必死に口を動かしている。

 

 まったく、食い意地が張っているのはどうかと思うけど、男の子だし、仕方ないか。


 明斗のその姿に私の頬は少し緩むと多めに作って冷蔵庫に入れておいたチキンライスの残りを引っ張り出す。 


「夕飯の残りだけど、食べる?」

「食う」

「わかったから、手洗い、うがいをしてくる。こっちに直接来たんでしょ?」


 明斗は迷う事無く返事をし、私はチキンライスを電子レンジで温めるとフライパンとスープの入った鍋に火を入れる。

 明斗は待ち遠しいのかキッチンを覗き込んでいるが、彼の事だ。すぐに居間に上がってきているだろう。

 暖かくなってきたとは言え、春先はいつ体調を崩すとも限らない、料理をしているキッチンでうがいと手洗いは少しだけ邪魔だし、お弁当を作っているためなんとなく汚い気がするので明斗を追い払う。

 明斗は私に注意された事にバツが悪そうな表情をすると洗面所に向かう。


 彼の背中に苦笑いを浮かべながら、オムライス用の卵をボールに割り入れる。

 明斗はタンポポの方が好きなので卵は多めだ。今日だけで卵の消費量が多いなと思いながらもオムライスを作ったのだから仕方ない。

 入学式まで明斗は休みなわけだし、明日の日中にでも買ってきて貰おう。


 その時、テーブルの上に置いてあったスマホがメールの受信を告げている。

 念のため、一度火を止めてスマホを手に取った。


 ……翔馬から? ご飯のおねだりかな?

 

 メールボックスからメールを開く。

 題名には『お納めください』と書かれており、写真が添付されている。

 

 ……翔馬、あんたはできた弟だよ。


 添付された写真を見るとなぜか頭を抱えて悶えている優馬の姿があり、私はその写真を優馬でまとめたデータフォルダへと移動する。

 

 メールの本文を見ると予想通り、夕飯が足りなかったと泣き言がつらつらと書かれており、そのメールに少し表情が緩む。

 私はくすくすと笑いながら『オムライスだけど卵は薄焼き? タンポポ? どっちが良い?』と返す。


 翔馬からはすぐにメールが戻ってきて『絶対、半熟とろとろのタンポポ!! ケチャップはもちろんハートで』と返信してくる当たり、翔馬は私の扱い方を誰よりも理解していると思う。

 『了解。速くおいで』とメールを返すとキッチンに戻り、翔馬の分の卵も溶く。


「姉さん、何か手伝う事ある?」

「特にないよ。ただ、翔馬もくるみたいだから、来たらカギを開けてあげて」

「翔馬も?」

「明斗と一緒で足りなかったって、あんた達は帰ってきても食べるんなら夕飯要らないって言わないでよね」

「いや、外食って食いたい量が合わなくて、こんなに足りないとは思わなかったんだよ」


 手を洗い終えた明斗が対面式のキッチンの前に立ち、覗き込む。

 普通に食べてきたのにそこまでがっつきたくなるのは成長期だからか?

 私は胸には肉が付かないのにお腹に付くから羨ましくなるが男の子と女の子の消費量は違うと考えて自分を納得させる。

 特に手伝って貰う事もないため、座っているように言うと明斗は素直に頷き、ソファーの前に移動してテレビを付けるが特に興味がある番組もないようでチャンネルを切り替えている。

 その様子に私は苦笑いを浮かべると翔馬が来る事を伝える。

 なぜ、翔馬がと首を傾げる明斗の様子にあんたと一緒だと教えると少し気まずいのか鼻先をかく。


 その時、家のインターホンがけたたましくなる。


「……翔馬、インターホンは連打しても人は速く出てこないよ」

「あいつは何度、言ってもわからないんだ」


 インターホンを連打するのは翔馬の悪い癖であり、私は苦笑いを浮かべるが、明斗は額に青筋を立て玄関に向かって走って行く。


 ……いや、明斗がいる時は別か?


 明斗の様子を見て、翔馬が全てを理解した上でインターホンを押している事に気付いた私は玄関で二人がケンカしなければ良いなと思いながらも、二人の事だから大丈夫だなと思い直して上手く焼きあがった完成したオムライスの上にケチャップでハートをかく。

 ハートの書いたオムライスを見て、明斗までこれが良いと言い始めたため、結局、二人分、書いたわけだが姉相手で空しくならないのかと二人の事が心配になったりもした。


 そして、翔馬は上手くできているからと言ってなぜかハートの書かれたオムライスを写真に撮っていたけど何がしたかったんだろう?

 意味を教えてくれないのは姉として少しだけ寂しかった。


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