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第八話

今回は優馬視点です。

「じゃあ、明日ね。お弁当は明日の朝に渡すよ」

「うん」


 夕飯を終えると女の子一人で留守番は危険だから明斗くんが帰ってくるまで居ようかと提案したけど、深月に笑顔で断られてしまう。

 深月に押し切られてしまい、僕は肩を落としながら帰宅する。


 今日も言えなかった。


 二人きりの夕飯と言う事でおじさんにメールで応援された事まで持ち込むつもりは無かったけど、何とか誤解を解こうと意気込んでいた。

 だけど、始終、深月のペースに巻き込まれてしまい、何も言う事が出来なかった。

 ベッドに横になると自分の情けなさに涙が出そうになる。

 しかし、これはいつもの事、明日こそはと決意をして勉強机に向かい、習慣になった予習復習を始める。


「ただいま。兄貴、何もなかったと確信しているけど上手く行ったか?」

「……翔馬」


 予習復習を始めてしばらくした時、帰宅した翔馬が部屋に顔を出す。

 その言葉は僕の胸を抉るには充分であり、僕は恨めしそうな視線を翔馬に向けた。

 翔馬は僕を見て、やっぱりかと言いたげにため息を吐くとベッドに腰を下ろす。


「進歩がないな」

「悪かったね」

「早く告白しないとどこの馬の骨かわからない奴にかっさらわれるぞ。姉ちゃん、人気あるんだし。今日だって本当に兄貴と姉ちゃんが付き合ってないか聞かれたし」


 ムッとした僕に呆れ顔の翔馬はスマホをいじりながら、聞き捨てならない事を言う。

 その言葉に僕の顔は間違いなく歪んだであろう。

 翔馬はそんな僕を見て楽しそうに笑っている。


「冗談だよ。うちの中学の奴らは全員、兄貴と姉ちゃんの事を知っているからな誰も狙ってないよ」

「そ、そうか」

「卒業式、誰も兄貴に第二ボタンを取りに来なかっただろ。姉ちゃんが貰うものだって、噂になっていて女子達が仕方ないって言っていたぞ。姉ちゃんが取りに来なかったから、兄貴に中学の学生服には第二ボタンが残ったままだけど、あの時に自分で第二ボタン渡して告白でもすれば良かったんだよ」


 翔馬は冗談だと笑った事で僕はほっとして胸を撫で下ろす。

 翔馬は僕の様子にため息を吐くと僕と深月が中学の間に噂になっていたと言う初めて聞く事が混じっている。


 中学で公認? どう言う事だろうか? ……そうか。そう言う告白の仕方もあったのか?

 だ、だけど、自分で第二ボタンを渡すのは何か違わないかな?


 意味がわからずに首を捻っている僕に向かい、翔馬は僕の古傷を抉った。

 当時の僕には考え付かない告白方法にはっとするがすでに遅い事もあり、更にダメージは積み重なって行く。


「まぁ、兄貴がヘタレなのはもう仕方ないけど、問題は、姉ちゃんに近づこうとするものなら明斗を敵に回す事になるからな。俺達の仲間内じゃ、そんな馬鹿な事はする奴はいないよ」


翔馬は僕の傷を抉りながらも深月の特別になりうるなら明斗を味方に引き入れる必要があると笑う。

 

……確かに明斗くんが味方になれば、状況は作りやすいだろうけど。


 実際、僕が深月に告白しようとすると明斗くんがタイミングを見計らったかのように現れて邪魔をする。

 まるで、どこかから様子をうかがっているかのように……

 その様子からも僕自身が明斗くんに認められていない事はなんとなく察しがついていた。

 彼女の両親はおかしなくらいに好意的だけど、明斗くんをどうにかしないと深月の彼氏にはなりえない。

 明斗くんを味方にするにはどうしたら良いんだろう?


 ……いや、先に誤解を解くのが先じゃないか?

 それをどうにかしないと結局、何も変わらない気がする。

 だけど、深月は鈍いし、どうしたものか?


 頭を抱える僕の姿を翔馬はスマホで写しており、楽しそうに笑っている。

 それに気が付いた僕は視線を彼に移した。

 翔馬は少しだけ気まずそうに頭をかくとコホンと一つ咳をした後、真面目な表情になる。


「明斗は結局、あいつはシスコンだからな。姉ちゃんが喜ぶなら、嫌がらせをするような事はしないって」

「わかっているよ。明斗くんの事だって小さな頃から見ているんだから、翔馬と違って気づかいもできるし、良い子だよ」

「まぁ、兄貴がへたれているから、認めないんだろうけどな」


 明斗のフォローを忘れない翔馬の姿に弟とは思えないくらいに気が利くと思う。

 僕にはできない事だと思いながらも、翔馬と同じようにずっと面倒を見てきた可愛い弟だ。

 ……いや、将来は義弟と言うわけだし、険悪な空気になるわけにはいかない。

 そして、翔馬、お前は僕の傷を抉る趣味でもあるのか?

 フォローしていると見せかけて的確に僕の傷を抉ってくる翔馬に殺意にも似たものが芽生えるが彼に当たるわけにも行かない。

 それを振り払うように深月の隣に立ち、明斗くんに義兄と呼ばれる幸せな妄想を巡らせる。


「気を付けないと入学式が終わったら、姉ちゃんに憧れる新入生が増えるぞ。姉ちゃん、人当たりも良いから、慣れない高校で困った様子の新入生を見かけた日にはすぐに助けに行っちまうからな」

「そんな事、わかってるよ」

「まぁ、せっかく、俺と明斗も月宮学園に入学するわけだし、できるだけ、フォローはするけど学年が違うんだから、結局は兄貴しだいだぞ」

 

 しかし、翔馬が僕の幸せな妄想を叩き壊し、現実へと引き戻す。

 言われるまでもなく深月のそんな事は知っている。

 今だって彼女を狙って近づいてくる男子生徒が多いのだ。

 彼女は気づいているのか気づいていないのかわからないがその告白を交わしており、僕は気が納まらない日々を過ごしている。

 幸せな妄想で僕が立っていた場所に僕ではない他の誰かが立っている悪夢へと変わった。

僕の顔色はそれで変わってしまったようで、それに気が付いたのか翔馬は僕の肩を叩く。

 

「わかっているよ」

「それじゃあ、俺は明斗のところでオムライスの残りを食ってくるから。後、俺は兄貴と姉ちゃんはお似合いだと思っているからな。さっさとまとまってくれよ」


 僕の傷を抉りながらもフォローをする翔馬に何とか笑顔を見せると翔馬は屈託なく笑い、最後に僕の背中を押すと深月に家に行くと言って部屋を出て行く。

 翔馬の笑顔にどこか心が軽くなったような気はするが、重くなったのも翔馬の言葉だと思いだして僕は納得がいかなくなり、乱暴に頭をかいた。


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