第六話
……夕飯、何にしようかな?
家の前まで優馬に持って貰ったエコバックを調理場に置くと本当に冷蔵庫の中に何もないかを確認する。
うちのキッチンは対面式であり、かなり広い作りになっている。
料理ができない母親がお腹の中に私がいる時に、私と並んで料理を作るのだと言い、張り切って決めたらしいが主にここを使っているのは私と明斗だ。
母親はその姿を見て嬉しそうに笑っているが正直なところキッチンの事を考える前に料理の腕を磨いて欲しかった。
本当に空になっている冷蔵庫に食材を詰め込むと時間の事もあるため、お米を研いで炊飯器のスイッチだけを入れ、着替えるために二階にある自分の部屋に向かう。
そう言えば、明斗はどうしたんだろう? 玄関に靴はあったかな?
夕飯のメニューの意見を明斗に聞こうと思い、自分の部屋の隣の明斗の部屋をノックする。
しかし、反応はなく寝ている可能性もあるため、首を傾げながらドアノブを回す。
出かけているみたい。しかし、我が弟ながらこのきっちりとした性格はどうにかならないのか?
部屋に明斗の姿はなく、生真面目な明斗の性格が出ているのか整理整頓され、掃除の行き届いた部屋だけが目に映る。
優馬もそうだけど、男の子の部屋のなんだから床にマンガ本くらい積んであっても良いとは思う。
こう言うのばかりを見ていると翔馬の少し大雑把なところに共感ができるよ。
完璧な優馬がそばに居たせいか、弟の明斗は彼を手本としてなんでも完璧にこなすような男の子に育った。
そして、翔馬は完璧な二人のそばで窮屈だと言いたげに多少奔放に育ったものの、それでも優馬と同じDNAを引き継いでいるだけあって優秀である。
中学の後輩達からは明斗も翔馬も大人気だと聞かされているがなぜか二人とも彼女はいない。
姉として心配だと話をすると後輩達は「だって敵わないから」となぜか肩を落としていたが何が言いたいのかわけがわからない。
とりあえず、着替えようかな?
明斗もいないため、いつまでもここで時間をつぶしているわけにも行かず、自分の部屋に戻る。
カバンを机の上に置き、スマホを机の上に置こうとした時、スマホが鳴る。
誰からだろうと相手を確認すると明斗の電話番号が表示されている。
「もしもし、明斗、夕飯、何が良い?」
「姉さん、悪いんだけど、友達と夕飯を食べてから帰るよ」
立って話すのもなんだからと机の前のイスを引っ張り出して腰を下ろし、すぐに明斗に夕飯のメニューについて聞く。
しかし、電話先の明斗は申し訳なさそうな声で夕飯は要らないと言う。
「そうなの?」
「うん。翔馬も合流するみたいだから」
「翔馬も?」
夕飯を作る前に聞いた事で作る量が減るなと思っている私に向かい、明斗は翔馬も居ない事を告げる。
二人きりの夕飯だと知り、鼓動が速くなるのを感じた。
ど、どうしよう。少し露出を多く……いや、相手は優馬だ。そんな事をする意味などない。でも、万が一っていう事もあるし。いっそ、裸エプロンでも試して見ようか?
私の顔はきっと、今は真っ赤になっているだろう。
諦めると決めたものの、やはり、好きな男性と二人きりの夕飯、それもすぐに押し倒されても良い場所。
はしたないとは思うが女の子だって性欲くらいある。
明斗との電話の途中と言う事を忘れて服装を考え出す。
「姉さん、姉さん、聞いてる?」
「な、何!?」
私の反応がなくなった事に電話先の明斗は気が付いたようで何度も私を呼ぶ。
その声に私は正気に戻るもはしたない事を考えていてしまった事もあり、声を裏返してしまう。
「良いかい。二人きりなんだ。相手が優兄だろうが気を抜かない事。間違いが起こらないようにしてくれよ」
「ボ、ボクとユーマでそんな事にはならないよ」
「その油断がダメなんだよ。姉さんはスキが多いから、良いかい。いくら信用している優兄だって年頃の男なんだから気を付けないとダメだよ。変に露出の高い服とかにしない事、何なら、俺の部屋のジャージを着ていてもいいから」
……弟よ。流石にジャージ姿は好きな男性に見せたくないよ。相手が私に興味がなかろうがそれくらいのプライドは私にもある。それくらいの女心は理解しろ。だから、あんたには彼女の一人もできないんだ。
明斗は優馬が女の子に興味があると思っているようで電話先で口うるさく、服をどうしろだと言い始める。
私は心配性な明斗の様子に苦笑いを浮かべるも、正直、鬱陶しくなってきたので電話を切る。
おかしな事に熱くなっている今の明斗なら、しばらくは電話が切れている事には気づかないだろう。
それに友達も一緒と言っていたし、電話先で姉の服装に文句を言っていれば誰か彼か止めてくれるだろう。
しかし、友達か? ……女の子も一緒なのかな?
スマホを机に戻すと明斗の交友関係が気になる。
口うるさいところはあるけど、私の弟にしては何でもそつなくこなす弟だ。後輩達も言っていたがモテるだろうし……先に彼女を作られると姉としてかっこが付かないよな。
別に彼女を作って欲しくないわけではないが、姉としてのプライドがあるため、そんな事を考えながら着替えようと服を探す。
しかし、自分で言うのもなんだけど、貧相だ。
優馬には止められたが、やっぱり、葵の胸を揉んでおけば良かった。
制服から着替える過程で下着姿になったのだが自分の胸の残念さにため息が漏れる。
……裸エプロン? いや、流石に無理だ。いくら、相手がBLな優馬とは言え、反応一つ示されなければ私は女の子としてのプライドをズタズタに引き裂かれる。
いや、恋愛対象から除外されている事を考えればすでにずたぼろに引き裂かれていると言う可能性も高いがその辺からは目をそらそう。
自分の身体つきに色気がないなと思いながらもない物をねだっている時間は無いと考えて私服に着替える。
スマホを取り、キッチンに戻ろうとした時、手の中のスマホがメールの受信を告げた。
……明斗かな? おばさんから?
電話を切った明斗が怒っているのではないかと思いながら、メールボックスを開く。
相手は優馬の母親からであり、題名は『お義母さんから、義娘へ』と書かれてある。
この題名はおばさんから私に送られてくる時のお約束であり、私は気にする事無く、メールを開く。
……おばさん、あなたは知らないけどあなたの息子は悔しいが同性愛者なのだよ。
メールには『まだ、おばあちゃんになりたくないから避妊は忘れずにね』と書かれており、私は大きく肩を落とす。
四人はすでにお酒が入っている事は予想が付き、私は優馬にもお父さん辺りから変なメールが行っている事を確信すると頭が痛くなってくる。
その時、私の考えなど気にする事無く、私のお腹が空腹を告げた。
誰にも聞かれていないが少し恥ずかしくなり、鼻先を指でかくとキッチンに向かう。
明斗はシスコン。(爆笑)
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