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第五話

 今回は優馬視点です。

「キッチンまで運ぶよ」

「良いよ。ここまで持ってくれただけで充分」


 それなりに買い物をした事もあり、女の子が一人で持つのには重たいからキッチンまで運ぶと言うが深月は笑顔で断った。

 彼女は制服のそでをまくると小さく気合いを入れてエコバックを僕から奪い取る。

 急な夕飯の材料の買い物だったにも関わらず、彼女のカバンの中には教科書類が一切入っていないのにエコバックが入っている事に疑問が残るが、おばさんが深月に夕飯の買い出しを頼む事は多々あるから気にする事ではない。

 そうは思いながらも教科書類を持って帰らないで家で勉強してもいないのに関わらず、成績は上位をキープしている彼女は只者ではないと思う。

 その事を聞いたら、授業中に睡眠学習をしているから問題ないと笑っていた。

 彼女が真剣な表情で授業を聞いているのは同じクラスになった時に見ていたので冗談だとは知っているが睡眠学習で成績が上がるなら、寝ている事を教師に責められても睡魔に魂を引き渡す人間は増えるだろう。僕だってそうしたい。


「それじゃあ、後でね」

「うん」


 笑顔の深月が家に入るのを確認し終えて自分の家に戻り、机の上にカバンとスマホを置くと緊張が一度緩み、僕は肩を落とした。

 制服からネクタイを抜き取り、ジーンズとシャツに着替える。


 僕、『波瀬優馬』は幼馴染の少女『弓永深月』に恋をしている。


 この想いに気づいたのはいつだろうか?

 いつから好きだったかももう記憶にない。

 そんな昔から、僕は彼女に恋焦がれていた。


 彼女はかわいく、運動神経も抜群で人当たりも良く彼女の周りには友人達が絶えない。

 僕はそんな彼女を振り向かせたくて、いつもそばに居たくて彼氏(特別な関係)になりたくて彼女に見合う男になろうと努力した。

 努力のかいもあり、中学を卒業する頃には多くの友人達が背中を押してくれていたし、女の子の友達からは深月が小学生の頃から僕の事を好きだと言う事も教えて貰った。

 その時は今まで頑張ってきた事が報われたと思い、一人、部屋で喜びの声を上げた。

 しかし、僕と彼女の関係は未だに幼馴染のままである。


 なぜだと首を傾げるだろう。


 彼女には一つの欠点があったのだ。

 致命的な欠点だ。

 彼女は思い込みが激しいのである。


 友人達が気を利かせてくれて高校に入学してしばらくした時に、一度、彼女からの告白と言う絶好のシチュエーションになったわけだが、僕は彼女になぜか同性愛者だとおかしな勘違いをされている事を知った。予想すらしていなかった言葉に僕は固まってしまい、自分の気持ちを伝える事が出来なかったのだ。

 その話を友人にしたら、もの凄く優しい目で「もっと、頑張れ」と肩を叩かれた。

 なぜ、そのような事になったのかと僕は古い記憶を引っ張り出した。

 

 彼女が長かった髪を突然、切った日の事を思い出す。


 よく考えれば、あの時からすでに深月は僕が男の子を好きなのではないかと勘違いしていたのではないだろうか?

 僕は小さな頃は深月が友達とは言え、男の子と一緒に居るのを快く思っていなかった。

 彼女が男友達と笑っているのが面白くなかったし、その様子をずっと見ていた事がある。

 子供の頃とは言え、今、考えると行き過ぎた独占欲だとは思う。

 それでも男の子の可愛い初恋だと思って目をつぶって欲しい。

 ただ、どうやら深月は僕が彼女のそばに居る男の子に熱視線を送っていると思い込んだようであり、男の子に容姿を近づけようとしたようである。

 

 彼女は髪を短く切り、自分の呼び方を『ボク』に変えた。

 当時、彼女の気持ちがわからなかった僕は彼女の髪が短くなったのを残念に思ったが、短い髪も良く似合っており、直ぐに目を奪われてしまった。

 僕と同じように思った人は多かったようで、元々、人気もあった彼女はさらに男友達や年下の女の子にまで人気が上がった。

 彼女の周りには前以上に人が集まり出した。

 僕は彼女を振り向かせようと一層努力をしたし、深月と一緒の進学校にも入学できた。

 だけど、その結果がこれである。


 正直、泣きたくはなるが、未だに彼女に彼氏ができないため、希望を捨てきる事はできない。

 深月に告白して彼女の勘違いだと説明できればすぐにでも上手くいくのではないかと思う事もあるがその時にはなぜかタイミング悪く邪魔が入る。

 僕と深月の事を応援していた友人達の多くは僕の男の子好きと言う深月の勘違いに面白くなったようであり、援護は望めなくなったのである。

 

「どうにかして、誤解を解けないかな?」

「兄貴、入るぞ」


 彼女の誤解を解く方法を考えるが良い考えが浮かばずに肩を落とす。

 その時、部屋のドアをノックする音がし、一つ年下の翔馬がドアから顔を覗かせた。


「どうかした?」

「ちょっと、友達と遊びに行くから、夕飯は要らないって姉ちゃんに伝えておいてよ。後、明斗はすでに拉致してあるから……二人きりなんだ。上手くやれよ」

「しょ、翔馬!?」


 首を傾げる僕に向かい、翔馬はニヤニヤと笑うと僕の返事を聞かずに階段を下って行く。

 取り残された僕は困ったように頭をかくが深月と二人で居られると言う事に心が躍り始める。


「取りあえず、深月に翔馬と明斗くんが居ない事を伝えないといけないから早く行こう。と言うか、明斗くんを拉致したってどう言う事だろう……」


 彼女に会いたいと躍る気持ちを翔馬のせいにして、僕は部屋を出て行こうとするとカバンと一緒に置いたスマホがメールの受信を告げる。

 メールボックスを開くと翔馬からすでに両親達に僕と深月を二人きりにすると言う話は伝わっていたようであり、彼女の父親から『義息子むすこへ』と言う題名でメールが入っている。

 メールの内容に何かイヤな予感がするが重要な話もあるかも知れないからと僕はメールを開いた。

 そして、すぐに後悔する。

 メールの本文には『上手くれ』と一言だけ書かれており、それを見た僕は持っていたスマホをベッドの上に叩きつける。

 自分の娘を押し倒せとは本当にあの人は何を考えているのだろうか?


 ……とりあえず、深月にも似たようなメールが送られていない事を祈ろう。


 僕はおじさんの行動に頭が痛くなってはきたがスマホを壊すためにも行かない。

ベッドの上からスマホを拾い上げてすぐにおじさんからのメールを削除すると急ぎ足で深月の家へと向かう。


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