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第四四話

「……どうして、こんなに逐一、報告が上がってくるんだろうね」

「それは俺の人徳がなせる業だな」


 咲耶のスマホを覗き込むと中学の後輩や先輩、他校生から明斗と結ちゃんの情報が送られてきていた。

 その情報量に優馬は眉間にしわを寄せる。


 まったく、どうしてこんなに顔が広いんだ?


 優馬とまったくの同意見だけど今は二人の様子が気になる。

 どうやら気になるのは私だけではないようで葵でさえ、遠慮がちだけどこちらをちらちらと見ている。

 和真先輩だけは準備が大切だと言いたいのか、休む事無く飾りつけを続けている。

 

 ……和真先輩はクールだと言うか。大人だ。

 一つしか年が違わないのにどうしてこんなに落ち着いているのだろうか?

 和真先輩の落ち着きようは気になるが今の私は二人の事の方が気になる 


「今のところ、問題は起きてないみたいだね」

「それは性的な意味でか?」


 現状で言えば、何を起きてはいない。

 ケンカもなくて安心して胸をなで下ろすと咲耶は楽しそうに笑う。


 ……この男は何を言っているんだ?

 別にそのような展開になるならなるで問題はないが、さすがに出会って直ぐは早すぎる。


「咲耶」

「さすがに冗談だ。明斗の事は信用しているからそんな事にはならないと思うけどな。結は人嫌いだし、そっちじゃなくて明斗にケガさせたら困るだろ」


 私の考えが理解できたようで優馬が咲耶に文句を言ってくれる。

 咲耶は笑いながら首を横に振ると結ちゃんではなく、明斗の事を心配しているようでため息を吐いた。


 いや、さすがに女の子相手にケガをさせられるほど明斗は鈍くないよ。

 手を上げる事もないよね?


「とりあえずは仲良くとは言わないけどしっかりとやっているみたいだね?」

「そうですね……と言うか、会話がまったくないみたいですけど」


 咲耶の言葉に若干、心配になった私だがそんな私の事を気にする事無く、咲耶のスマホを覗き込んでいたみあ先輩が声を上げる。

 スマホに寄せられる情報には二人の様子を映像で映しているものもあり、葵は二人で歩いていながらも話をまったくしていない様子が見えて首を捻った。


「待って。ここって……デートですな」

「そうだね。デートだね」


 咲耶と同じように菫のスマホにも二人の様子は送られてきており、そんな菫は何かに気が付いたようで声を上げた。

 どうやら、二人はファンシーショップに入って行ったようであり、みあ先輩は楽しそうに頷く。


 ……明斗、結ちゃんをしっかりとエスコートしているだと?

 どこで、こんな事を覚えたんだ。

 やはり、どこかに女の影が?


 二人でファンシーショップに入って行く時の明斗はどこか手馴れた感が見え、私は明斗の交友関係が気になり、眉間にしわを寄せてしまう。


「いや、あそこは姉ちゃんと良く行っている店だから」

「……あまり、覗き見と言うのは感心できませんね」


 その時、私の背後から翔馬の声と呆れた様子のレン兄の声が聞こえた。

 レン兄の声にみあ先輩以外は固まり、ゆっくりと後ろを振り返る。

 

「そんな事をしていないで準備を続けなさい。明斗が頑張って時間を稼いでいるのに準備をしている人間が遊んでいるのは良くありません」

「レン兄、どうしてここに?」


 きっと、音で表すとぎぎぎぎぎと壊れた玩具のような音がしただろう。

 振り返るとレン兄はため息を吐くと準備に戻るように指示を出す。

 私はみんなが思っている疑問を口にし、レン兄の答えを待つように店内は静まり、和真先輩が準備を続けている音だけが響く。


「和真先輩、手伝います」

「ああ、バカを構ってないで準備をするぞ」


 その沈黙に耐え切れなくなったのか翔馬は今回、自分には関係ないと言いたげに和真先輩の元に逃げて行く。


 裏切り者め……


 その姿を恨みがましく見るが助けなどない。


「僕も手伝いに戻ろう。深月ちゃん、お料理、どうするの?」

「みあ先輩、今はそんな事を言っている場合じゃないんじゃないですか?」

「何で?」


 追跡している人達はさすがに二人と同じ店内に入れば、明斗に尾行がばれてしまうと判断したようで二人の新情報は得られないのか、みあ先輩はスマホを咲耶に返すと平然と準備に戻って行こうとする。

 その様子は羨ましいが、今はみあ先輩もレン兄のお説教の対象者のはずだ。

 彼女の腕をつかみ、引き留めてみるがみあ先輩はレン兄の登場などまったく気にしていないようで首を傾げた。


 ……止めて欲しい。飛びつきたくなるから。


 首を傾げるみあ先輩の姿はとても愛らしく、飛びつきたくはなるが今はそれどころではない。


「だって、今は放課後だし、久島先生に怒られるような事はしてないよ」

「……確かに」

「まぁ、教師としては言う事はありませんけど、人生の先輩としてはこのような事をしないと忠告しないといけませんね。皆さんだって、自分達のデートを実況中継されたらいやでしょう?」


 みあ先輩の言葉に私達は頷きかけるが、レン兄はため息を吐きながら、自分達がされた時の事を考えるように言う。


 ……自分達のデート?


 現状で言えばまったく思い浮かばないのが悲しいところだ。

 優馬はファンシーショップなど付き合ってくれないし、出かける場所は基本的に夕飯の買い物だ。

 心の中では買い物デートと思い込もうとするが色気も何もない。


「……そんな場面になった事が無いからわかりません」

「深月、その反応はどうかと思うぞ」


 泣きそうになりながら、色気のあるデートなど経験した事が無いと言う。

 私の言葉に咲耶はなぜか優馬の肩を叩き、私を責めるように言い、菫と葵はどこか呆れ顔だ。


 仕方ないじゃないか。経験がないんだから。


「……まぁ、深月の経験の有無は置いておいて、早く準備に移りなさい。本当に二人が戻ってくるまでに間に合いませんよ」

「わかりました……あの、そう言えば、久島先生はどうして、フィリチータに?」


 レン兄はため息を吐くと準備に戻るように言い、私達は逃げるように準備に戻ろうとするが葵はレン兄が結ちゃんの歓迎会に来た事に疑問を持ったようで遠慮がちに質問する。


 確かにそうだ。いくらレン兄が生徒指導を兼任しているとは言え、一生徒の歓迎会に顔を出すのはおかしい。


「結城君から準備が終わらないから、一度、顔を出してまとめて欲しいと連絡があっただけです。結城君がいるから心配はしていませんがあまり遅い時間まではしゃがないように」


 和真先輩からレン兄に救援要請が出ていたようであり、レン兄は私達にもう一度、釘を刺すと仕事があるのか店を出て行く。


 和真先輩、私達の弱点を理解しているな。ちょっと悔しい。


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