第四一話
帰りのSHRが終わって直ぐに明斗に出したメールに明斗が指示通りに動いてくれるか気になってため息が漏れる。
結ちゃんが掃除当番と言うのはすでに咲耶から情報提供を受けており、知っているのだが、先日の明斗と結ちゃんの様子からは不安しか感じない。
翔馬にもメールを出したけど、翔馬からはすぐに二人にした方が面白そうだから、準備班に合流すると返信があった。
「大丈夫かな?」
「そんなに心配?」
菫と葵ともに廊下に出て優馬と咲耶と合流し、フィリチータに向かうなか、不安が言葉になってしまった。
私の言葉に気が付いた優馬は私の顔を覗き込む。
近い、近い、近い。
まったく、本人は同性愛者だから、私との距離は気にしないんだろうけど、私は正真正銘の乙女だ。
優馬の顔を近距離で直視するのは心臓に悪い。
真っ赤になりそうな顔に気が付かれないように慌てて優馬から距離を取ると一つ深呼吸をする。
「やっぱり、心配だよ。明斗と結ちゃんは険悪な空気だし、ケンカになって結ちゃんがすぐに帰ってきたら、準備を見られてかっこ悪いよ。歓迎会だし、驚かせてあげたいし」
「まぁ、明斗の場合、キレてネタばらしをして、結が深月に抱き付きに帰ってくる可能性が高いな」
「……明斗だからね」
結ちゃんの歓迎会はやはりサプライズでやってあげたい。
そう考えて、明斗と翔馬に時間稼ぎを頼んだわけなのだが、咲耶が私の不安をあおるような事を言う。
それも満面の笑顔でだ。
咲耶の言葉に菫は眉間にしわを寄せ、葵は苦笑いを浮かべている。
確かに咲耶の言い分はもっともだ。明斗の事だ。結ちゃんの態度に怒ってしまうのは目に見える。
しかし、この男はもう少し、結ちゃんの事を気にしてやれないのだろうか?
楽しそうに笑っていないで結ちゃんを引き留める策の一つでも出せばいいのに。
「まぁ、俺はただ、明斗に結を連れまわせなんか作戦もないメールを送らないけどな」
「……咲耶、今、ボクをバカにしたね」
「当たり前だ。やるなら、こうだ」
私の心の内に気が付いているのか咲耶はため息を吐く。
バカにされた私は咲耶を睨み付けるが、咲耶は口元を緩ませると彼も結ちゃんにメールを送っていたようで彼女へと送ったメールを見せる。
「……おつかい? なるほど」
「ああ、店の備品の買い物を押し付けた。荷物になるようなものもあるだろうから、明斗を連れて行けとな。明斗からは許可を取っていると」
「あ、あの、明斗くんに同じようなメールを出さないと話がかみ合わないんじゃないでしょうか?」
咲耶のメールに感心する私に咲耶は勝ち誇ったように笑った。
その顔に若干、イラッとするものの、咲耶の方法は間違いではない。
少し悔しいが認めてやろうと思った時、葵は遠慮がちに手を上げた。
「……明斗には今からメールを出すところだったんだ」
……抜けているな。
そして、葵、グッジョブ。
咲耶は葵の指摘通り明斗にメールを出す事を忘れていたようでそそくさとメールを撃ち始め、葵は苦笑いを浮かべる。
「だけど、よく考えたら放課後デートね?」
「デートになるかな? 登校の様子とかを見ると険悪だけど」
菫は何か思う事があったようでニヤニヤと口元を緩ませる。
それは私も思ったけど、あの二人ではありえないかな?
首を捻る私と同じことを考えたようで優馬も不安を漏らした。
「うん。ボクもユーマの意見に賛成、ケンカしなきゃ良いけど……」
「心配なら、生温かく見守る?」
「追跡か? ……面白そうだな」
「菫ちゃん、大河君、それは目的から外れます。私達は清瀬さんの歓迎会の準備をするために集まったんですから」
どうしても二人がケンカしている様子か目に浮かばずに肩を落とす。
仲良く買い物と言うのはこの場にいた誰もが想像つかなかったようであり、菫は眉間にしわを寄せて言う。
咲耶はメールを打ち終えたようで菫の言葉に口元を緩ませ、菫は同調するように口角を上げた。
二人の表情の変化にイヤな予感がしたのか葵が二人をいさめようとするが、すでに遅い。
「とりあえず、戻るか?」
「深月、葵、優馬、私と咲耶はちょっと、二人を尾行してくるから、準備は任せるよ」
「待ってください!? そんな軽いノリで尾行とかしたらダメだと思います」
咲耶と菫は学校に戻ろうとするが葵は二人の腕をつかみ、引き留めようとする。
しかし、葵では二人を引き留める事が出来ず、引きずられて行く。
「……優馬、どうしたら良いと思う?」
「尾行が見つかったら、歓迎会も何もなくなると思うから、引き留めないと」
「二人のデートを邪魔したらダメだよ」
葵が引きずられて行く姿に私は言葉を失ったが何とか言葉を引っ張り出す。
優馬は結ちゃんの性格を考えれば尾行は止めた方が良いと言い、三人の後を追いかけようとした時、みあ先輩が咲耶と菫に飛びついた。
二人は飛びつかれたものの、何とか倒れる事はなく、みあ先輩を受け止める。
「みあ先輩、和真先輩、お疲れ様です」
「良いタイミングだったか? みあでも極まれに役に立つときがあるか」
「そうですね」
みあ先輩の後から、和真先輩は遅れてやってきた。
私と優馬の表情を見た和真先輩はなんとなく状況を理解してくれてようで小さくため息を吐いた。
その物言いはきついが私は苦笑いしか浮かべる事しかできずに頷く。
「それで、主役は上手く引き留められたのか?」
「一応は、咲耶が結ちゃんにおつかいを頼んだみたいです」
「おつかいね。まぁ、悪い案じゃないな。店長と奥さんの言う事はよく聞くし、店の事だと言えば素直に聞くだろうからな」
みあ先輩はどこから話を聞いていたかわからないが、明斗と結ちゃんの追跡の件についてお説教をし始める。
完全に葵はとばっちりだけど、こっちに来ても困るのでとりあえずは無視して和真先輩と話し込む。
和真先輩は咲耶のご両親の言う事を聞く結ちゃんの姿はしっかりと記憶されていたようで良い案だと頷いた。
出会って数日しか経ってないのに結ちゃんの行動をしっかりと把握している和真先輩に少し恐怖を覚えるが今は気にしないで置こう。
変に追及すると後が怖いから。