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第四十話

「……これって、どういう事?」


 バイト先のフィリチータが定休日のため、高校に入学して初めて予定のない放課後。

 翔馬を誘ってどこかに行こうかとも考えていた時にスマホがメールの受信を告げた。


 姉さんからフィリチータで清瀬さんの歓迎会をやろうと言う連絡だった。

 歓迎会自体は別にかまわない。

 仲良くできる気はしないけど、姉さんの欲しがっている最新のスチームオーブンレンジのためにバイトは続けたい。そうなると一定の関係を築かないといけない。

 これは仕方ない事だ。

 ただ、準備をしている間、清瀬さんを連れまわして時間稼ぎをして欲しい。

 これだけは遠慮したい。

 だいたい、こう言うのは俺じゃなく、翔馬の仕事だ。

 

 そう思い、翔馬を探すが翔馬はすでに自分の席を立ち、廊下まで移動すると俺に気が付いたのか笑顔で手を振り、廊下を駆け出して行く。


 しまった。逃げられた。


 清瀬さんと二人きりなんて絶対にありえない。

 姉さんの頼みだから、準備が終わるまで清瀬さんをフィリチータに帰らないように協力はしたい。

 だけど、そんなの無理に決まっている。

 絶対に翔馬を捕まえなければいけない。

 幸いと言って良いかわからないけど、清瀬さんは教室の掃除当番だ。

 翔馬を早く捕まえてくれば何の問題もない。


 急いで立ち上がり、逃げた翔馬を追いかけようと廊下に出る。


 翔馬は運動神経が良い。

 人で溢れかえっている廊下を人とぶつかる事無く、すり抜けて行く。

 捕まえる事が出来ないかと思い、舌打ちをしてしまう。

 しかし、どうにかしないといけない。

 目線をしっかりと翔馬に合わせて駆け出そうとする。


「波瀬君、止まらないと撃ちますよ」


 その時、さほど、大きくはないが良く響く声が俺の背後から聞こえる。

 その声が聞こえた瞬間、廊下の人混みが割れた。

 

 まだ、入学して数日しか経っていないのにもう知られているのか?


 翔馬までの一本道ができた様子にこの廊下にいる新入生すべてが彼の事を畏怖の対象として見ている事がわかる。

 

 背中から感じる恐怖から逃げるように道の先の翔馬へと視線を移すが、翔馬はまだ気が付いていないのか、それとも俺と同じく背後から感じる恐怖から逃げるように走っている。


「翔馬、止まれ!?」


 翔馬へ警告の意味を込めて叫ぶ。

 その瞬間、耳の後ろから風切音とともに白い物体が翔馬めがけて飛んで行く。


「……レン兄?」

「波瀬君、学校内では久島先生と呼ぶように」


 白い物体は翔馬の足元に当たり、小さな炸裂音が廊下に響いた。

 白い物体へと視線を移した翔馬は足を止めると顔を引きつらせながら、こちらへと振り向く。

 振り返った翔馬を見て、白い物体を投げつけた人物はため息を吐きながら、俺を追い越して行く。


「久島先生、何をしたんですか?」


 翔馬を狙撃した人物は姉さんの担任であり、生徒指導担当の久島先生だ。

 何が起きたかわからずに顔を引きつらせながら、遠くなって行く久島先生の背中に声をかける。


「ただのチョークです。教師はおかしな事をしている生徒にはチョークを投げるものです」

「……古いです。と言うか、チョークは風切音も炸裂音もしません」


 久島先生はゆっくりと振り返ると笑顔で言い切るが絶対にそんな事はあり得ない。


「波瀬君、元気なのはかまいませんが、廊下を走っては行けません。誰かにぶつかってケガをしてはいけませんから」

「……久島先生のチョークの方がケガ人を出します」


 久島先生はすでに動けなくなっている翔馬に向かって話しかけるが、絶対に廊下を走っている人間より、久島先生のチョークの方が凶器だ。

 俺の言葉は廊下に居た多くの生徒の共感を得たようでみんなが頷いてくれている。


「たかがチョークを飛ばしただけでケガ人なんか出ませんよ。弓永君は大袈裟です」

「そ、そうですか?」


 ……廊下にぶつかったチョークがすでに粉々になっているんだけど、下手な事を言うとこっちにも危害が及びそうだから止めよう。口は禍の元とも言うし。


 久島先生の笑顔には圧力があり、下手な事を言ってこっちに矛先が向いても困る。


「波瀬君は少しお話をしないといけませんね。生徒指導室に来てください」

「えーと、俺、今日はちょっと……」


 久島先生は最初が肝心と言いたいのか翔馬を生徒指導室へと誘う。

 翔馬は目で助けを求めているが、あいつは俺から逃げようとしたんだ。

 今は見捨てよう。

 さっきも言ったがとばっちりはごめんだ。

 

「明斗、裏切ったな!!」

「騒がない。行きますよ」


 翔馬を見捨てて教室に戻る。

 廊下から翔馬の声が聞こえるが、先に見捨てたのはあいつだ。

 言われる筋合いはない。


 さてと……だけど、問題は何も解決していない。

 

 教室に戻り、掃除をしている清瀬さんへと視線を向ける。

 掃除当番の女子は清瀬さん以外にもいるのに清瀬さんのそばには誰もいない。

 女子達はおしゃべりをしながら掃除をしており、あまり進んでいるようには見えない。

 俺から見ていても、清瀬さんは態度が悪いのがわかるから仕方ないんだけど、仲間はずれにするのはどうかなとは思う。

 どうやって話しかけよう?


「邪魔です」

「あ、ごめん」

「……」


 一人だから、話しかけやすいかな? と思いながらもやっぱり、あまり話した事のない女の子に話しかけるのは緊張する。

 どうしようかと首を捻っていると清瀬さんは俺のそばの机を運びに来たようで俺を睨み付けて言う。

 彼女に謝り、場所を移動すると清瀬さんは机を運ぼうとするが、机は思っていたより重かったようで持ち上がらない。


 ……せめて、ロッカーに入れとくとかしないのかな?


 机を覗いてみると机の中にはびっしりと教科書とノートの他に辞書まで詰め込まれており、女の子には重たいように見える。


「清瀬さん、その机、俺が運ぼうか?」

「必要ありませんわ」


 清瀬さんに声をかけて見るが、即座に拒否される。

 その様子を見ていたクラスメート達はざわつき始めた。


 ……ざわつくなら、誰か手伝ってあげなよ。そして、掃除中なんだから黒板を汚すな。


 そして、残っていた掃除当番の男子の一人が掃除をしていた黒板に清瀬さん係『弓永明斗』と俺の名前を書く。

 完全にからかわれている。

 どうして、こんな事になったんだろう?


 この後に清瀬さんを捕まえておかないといけない事に不安しか感じないが姉さんとの約束を破るわけにも行かない。

 どうしたら良いかな?

 

 もう一度、清瀬さんへと視線を移すが彼女は一人で黙々と掃除を続けている。


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