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第三八話

「深月ちゃん、お弁当食べよう」

「葵、ちょっと、外で食べない?」

「は、はい」


 お昼休み、突然のみあ先輩の襲撃。

 その瞬間、菫は葵を引っ張って教室から撤退しており、他の女友達もみあ先輩の暴走モードを警戒しているのか一定の距離を保っている。

 そのため、彼女の前には私しかいない。

 なんと友達がいがない事か、泣きそうになる。

 

「……恥ずかしくて死にそうです」

「帯を回してないのに?」


 朝の件があったためか、みあ先輩は私が浴衣や着物に着替えた写真を机の上に並べて行く。


 学校なのにプリントアウトされているかは気にしないでおこう。


 恥ずかしいと顔を両手で隠す私の事など気にする事無く、みあ先輩は持ってきていたお弁当箱を広げて私の前に座る。

 

 みあ先輩らしくはあるけど、迷う事無く、後輩の教室でお弁当を食べるのはどうなんだろう?


 この写真で脅されてしまえば私は素直に頷くしかないのだから、どこにだって行く。

 脅迫されて更なる脅迫材料を作る事になる。

 なんて悪循環だ。でも、仕方ないじゃないか。世の中はそういう形で出来上がっているんだ。


 みあ先輩の更なる要求に怯えつつ、お弁当を食べなければいけないため、卵焼きを頬張った。

 ……涙でしょっぱい。


 いつも通り甘く作っているはずの卵焼きがしょっぱく感じる。


「……みあ先輩、それで何かご用でしょうか?」

「これを届けに?」


 ……くっ、年上なのに可愛いじゃないか? こういうところは完全に私は乙女として負けている。

 しかし、こんな写真(恥辱)を受けても嫌いになれないのは彼女の魅力だと思う。


「届けないでできれば処分してくれたら良かったのに」


 以前、悪乗りしたみあ先輩が無理やり着替えさせられた私のコスプレ写真を優馬に見せた。

 衣装としてはみあ先輩を筆頭にした手芸部が縫ってくれたものだ。元ネタはわからないが可愛い制服だった。

 これはちょっとかわいいかな? 優馬ももしかしたら反応をしてくれるかな? と淡い期待を持ったものだが。

 その時の優馬は完全に呆れていたのか言葉を失っており、しばらくは私と目を合わせてくれなかったのだ。


 ……あれは傷ついた。


 あの時の私のダメージは計り知れない物であり、二度とこんな事はしないと思っていたが先ほども言った通り、一度、握られた弱みはいつまでも続くんだ。


 改めて、みあ先輩には逆らえないと実感しながらも、机の上に広げられている大きなお弁当箱へと視線を移す。

 うん。相変わらず、大きい。翔馬と同じくらいのお弁当箱だ。

 中身は料理部でも腕を振るっているみあ先輩のお手製と言う事ですべて美味しそうだ。


 みあ先輩は女の子の割に結構食べる。これくらいの量は簡単に食べてしまう。

 ……私がケーキを大量に食べていた事は気にしないで欲しい。

 何度も言っているが甘い物は別腹だ。

 話を戻そう。

 普通はこれくらい食べていれば、女の子の体重は簡単に増えてしまうはずだ。

 しかし、まったく増量する事はない。不思議だ。

 私はこの間のケーキのせいか脇腹辺りがぷよぷよしてきているのに……


「みあ先輩、以前から思っていたんですけど、太りませんか?」

「うん。僕は食べても太らないからね」


 恨めしそうな視線を向けてみるが、みあ先輩の返事は私の内臓をえぐる。

 

 ……何が違うんだ?

 

 私になくて、みあ先輩にある物……

 やっぱり、胸か?

 胸には夢やロマンだけではなくカロリーを消費する何かが詰まっているのか?

 確かに葵の巨乳(果実)が揺れている姿を見ているとあそこは良く揺れている。

 良く揺れると言う事は運動だ。運動と言う事はやはりカロリーを消費しているだろう。

 脂肪の塊だから重いだけだと言う娘もいるけどそんなものは持っている人間の言い分だ。

 持たざるものに言わせれば、自慢にしか聞こえない。


「平均より、小さいって事はその分、需要もあるんだし、問題はないと思うけどね。ほら、売り手市場だってどこかの偉い人も言っていたし」

「……偉い人はそんな事を言わないと思います」

「それなら……エロい人?」

「それはちょっと言いそうです」


 私の視線はみあ先輩の胸に釘付けだったようであり、みあ先輩は私を励ますように言う。

 しかし、その言葉はどこかおかしく首を捻るみあ先輩。

 可愛いけど、言って良い言葉かは微妙です。


「それでね。本題なんだけど」

「これじゃなかったんですか?」


 突然、みあ先輩は思い出したかのように言う。

 さっきはコスプレ写真を見せるためだって言ったのに?

 

 先ほどと違うみあ先輩の言葉に私は机に広げられている写真を一枚手に取った。


「それはそれ、これはこれ」

「そうですか?」

「それでね。結ちゃんの事なんだけど」


 みあ先輩は結ちゃんの事を相談しに来てくれたようだが、どんなおかしな事を言われるかわからない私は身構えてしまう。

 仕方ないじゃないか。

 今朝はこれだったわけだし、みあ先輩が結ちゃんにコスプレを強要したら、絶対に結ちゃんの人間嫌いは酷くなる。


「あの、これとは関係ありませんよね?」

「結ちゃんに着せたい物が有るの? 僕はね。結ちゃんはサイドポニーだから、魔法少女のひらひらでふわふわなスカートで行こうと思うんだ。べただと言う意見があるかもしれないけど基本に忠実なのも時には必要だと思うんだよ」


 手にしていた写真を見せて聞く。

 ……下手な事を言ってしまった。

 みあ先輩の頭の中では結ちゃんに着せる衣装が出来上がって行っているようであり、みあ先輩は拳を握り締めて叫ぶ。


 ど、どうしよう?


 助けを求めて周囲を見回すがクラスメート達はさらに距離を取り始めている上に黒板には私の名前とその下に『みあ先輩係』と書かれて小さなくすだまがつるされている。


 ……完全に逃げ道が無くなった。そして、なぜ、そんな物を用意しているんだ?


「みあ先輩、本題に戻りましょう。それで結ちゃんがどうかしたんですか?」

「あ。そうだね。本題から外れたらダメだよね。これはメインイベントだから、あのね。今朝、言い忘れたんだけど、結ちゃんはまだこっちに来て日が浅いみたいだし、歓迎会をしようと思うんだよね」

「歓迎会?」

「うん。さっくんの従妹なんだし、僕も関わる事が多そうだから、みんなでやろう?」


 結ちゃんの歓迎会か?

 確かにやってあげたいけど……さっき、メインイベントと言う不吉な言葉が聞こえたような?


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