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第三四話

「出てくれるかな?」


 部屋に戻るとスマホから一人の電話番号を探す。

 目的の相手は『結城和真ゆうきかずま』先輩。

 知り合いからはカズとかカズ先輩とか呼ばれている。

 私が中学二年生の時に転校してきた先輩だ。

 その後はみあ先輩に妙になつかれてしまい、困ったようにため息を吐いている姿が印象的である。

 高校に進学してからは多くのバイトを掛け持ちしており、フェリチータでも働いている。

 そんなにバイトをしてお金を稼いでどうするつもりだろうとは思うけど、あまり深く追及した事はない。


 なぜ? って、私は和真先輩が苦手なのだ。

 初めて会った時に話のきっかけに家族の事を聞いたら、もの凄く冷たい目で見られた。

 家族の人と上手く行ってないのかな? と思い、それ以上はその件には触れていない。

 私と同じように和真先輩を怒らせた人間は多く、和真先輩と付き合って行く上でその件に触れないのは暗黙の了解である。


 ただ、みあ先輩だけは理由を知っている気がするのだ。

 まさか、付き合っているのかな? とは思ってしまうが、みあ先輩はどうも恋愛と言うのはかけ離れているため、何とも言えない。

 彼女の好きはLOVEよりはLIKEと言った感じに見えるのだ。


 アドレスから和真先輩の番号を選び、電話をかける。

呼び出し音が鳴り始め、その音に私の鼓動は大きくなる。

 いきなり、怒られたらどうしよう?

 それより、和真先輩ではなく、みあ先輩とか女の人が出たらどうしよう?


 乙女としていろいろな妄想が頭をよぎるが変な事を考えて、和真先輩に知られたら後が怖い。

 呼吸を整えて和真先輩が電話に出てくれるのを待つ。


「もしもし、和真先輩、弓永ですけど、ちょっと良いですか?」

「弓永さん? 和くんは今、お風呂に入っているんだけど、ちょっと待っていてね。和くん、弓永さんって子から電話」


 ……女の人の声? まさか、本当に女の人が出るとは。

 電話の先の声は和真先輩ではなく、女性の声であり、私の胸はどきんとなる。

 不味い時に電話をかけてしまった。

 彼女か? しかもお風呂に入っているなかを呼びに行くだと相当、親密な関係なのか?

 気を利かせて後にした方が良いだろうか?

 

 頭の中でいろいろな妄想が加速して行く。

 仕方ないんだ。だって、同年代の恋愛話は気になるじゃないか。

 

……なぜだろう。みあ先輩の泣きそうな顔が頭をよぎってしまった。


 内心ドキドキしながらも電話を切る事が出来ずに和真先輩を待っているとみあ先輩の泣き顔が頭をよぎる。

 いや、私が考えても仕方ない事だ。それにみあ先輩と和真先輩が彼氏彼女ではないはずだ。


「待ってね。和くん、すぐに上がってくるから」

「は、はい。あ、あの」

「あ、もしかして、変な勘違いしている? 初めまして、私、和くんの姉の『結城洋子ゆうきようこ』です」


 みあ先輩の泣き顔を頭から振り払うように大きく首を横に振った時、電話から先ほどの女性の声が聞こえる。

 しどろもどろになっている私の様子に電話先の女性はくすくすと笑いながら、名前を教えてくれた。


 結城洋子さん? あれ、どこかで聞いた事がある名前?


「ゆ、弓永深月です。和真先輩にはいろいろとお世話になっています。か、勘違いしないでください。そう言う関係ではありませんので」


 その名前には聞き覚えがあるが私は思い出す事が出来ない。

 どうやら、緊張しているらしい。

 声が震えてしまうが何とか自己紹介と和真先輩とは無関係だと主張する。

 勘違いされては私が和真先輩からあの冷たい目で見られるから、それは絶対に避けたい。


「弓永深月さん? 入学式の時は手伝ってくれてありがとう。弓永さんと波瀬君が手伝ってくれて助かりました」

「い、いえ、私は特に何もしていません」


 入学式の手伝い?

 結城洋子? ……結城先生? めちゃくちゃ、知っている人だった!?

 授業は一度も担当して貰った事はないけど月宮学園の先生ではないか。それも今年は明斗と翔馬のクラスの担任のはずだ。

 和真先輩のお姉さんが結城先生だと? なぜ、隠していたのだ。

 いや、関わるのは止めよう。また、あの冷たい視線は受けたくない。

 

「あ、あの、結城先生、和真先輩がお風呂から上がった頃に電話をかけ直します」

「五分くらいだから、このままでも良いじゃないですか? それに蓮夜くんが妹みたいに可愛がっている弓永さんの話は聞いてみたいなって」


 悪い事はしていないがどうも先生と言うものは苦手である。

 レン兄と言う規格外の人間を知っているせいかも知れないけど、私は逃げるように電話を切ろうとするが、結城先生は楽しそうに笑っている。


 ……蓮夜くんだと? 俄然、話をしたくなってきた。

 

 結城先生のレン兄の呼び方に私の乙女としての直感が何か特別な物を感じ取った。

 下手をすれば和真先輩だけではなく、レン兄さえも敵に回す可能性があるが乙女の好奇心の方が当然強い。


「あの、結城先生はひょっとして、レン兄の」

「……弓永、何の用だ?」

「か、和真先輩、お時間よろしいでしょうか?」


 好奇心に負けて結城先生にレン兄との関係を聞こうとした時、結城先生から電話を取り上げたようで冷たい声質の和真先輩の声が聞こえる。

 言いかけていた言葉を飲み込む。

 きっと、声は裏がっているだろう。

 私の言葉に電話先の和真先輩は返事をしない。


 返事があるまでの時間がものすごく長く感じる。

 以前、怒らせてしまった時のあの冷たい視線を向けられるのか、う、迂闊な事をしてしまった。


「……だいたい、察しはつくからな。話くらいは聞いてやる」

「お、お願いします」


 私が電話で話したい内容を察してくれたようでため息交じりの声が聞こえる。

 特に怒ってはいないようで胸をなで下ろす。


「ねえねえ、和くん、弓永さんって和くんの良い人なの? 和くんは吉井さんと付き合っていたんじゃないの?」

「……少し待ってくれ。部屋に行くから」

「は、はい」

「和くん、意地悪しないで姉さんにも教えてよ」


 電話の先からは結城先生の何か勘違いしている声が聞こえる。

 和真先輩は結城先生の様子が気になるようであり、待っているように言い、私は素直に頷く。

 和真先輩が部屋まで移動する後ろから結城先生の残念そうな声が聞こえる。


 その声に少し結城先生と仲良くなれる気がした。


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