第三三話
「まあ、今回はわりとまともな事を言っているかな?」
「そうだよね。みあ先輩は良い事を言っているよね?」
みあ先輩に相談した時の事を二人に話す。
もちろん、コスプレの代わりにBL本を貰った事は内緒だ。
しかし、明斗はみあ先輩の事をあまり信用していないようで眉間にしわを寄せており、私は助けを求めるように翔馬へと視線を移す。
「確かにクラスでも一人だったし、友達を作るのは不得意そうだったからな。顔だけは広いみあ先輩が気にかけてくれればすぐに友達もできるんじゃないかな?」
「……俺は人嫌いが悪化するように思うよ」
翔馬は苦笑いを浮かべると私の言葉に頷いてくれるが、明斗は反対の結果が目に浮かんでいるようで大きく肩を落とした。
……それは否定できない。いきなり、みあ先輩が今日みたいにいろんな衣装を手にして結ちゃんを襲撃する姿は簡単に予想が付く。
あ、悪化したらどうしよう? 咲耶に何か言われる気がする。
明斗の言い分もなんとなく予想ができてしまい、私の顔は引きつって行く。
どうしよう? みあ先輩に釘を刺すべきか? ……いや、無駄だな。
みあ先輩を信じよう。うん、そうしよう。
みあ先輩をなるべく結ちゃんから遠ざけようとも考えるがすぐにその考えは無駄だと思い直し、私は現実逃避に走った。
「大丈夫。大丈夫。うちのクラスには明斗がいるし、クラスでも清瀬さん係に明斗は就任したから」
「何それ? まさか、明斗、結ちゃんとそう言う関係に?」
「……バカな事を言わないでよ。姉さん、さっきも言ったけど、俺は清瀬さんと意見が合わないんだよ。それと翔馬、それは何なんだよ」
結ちゃん係だと? 翔馬の言葉に明斗と結ちゃんの関係が気になる。
確かに可愛い娘だったけど、まさか、明斗がそんな風になるとは思ってもみなかった。
長期バイトを頼んでいた事を考えるともしかしたら、入学式の前に明斗と結ちゃんは会っていたのか?
仮に明斗と結ちゃんが入学式前に出会っていて彼氏彼女になっていれば、私の事をお姉さまと言っても間違いではないはずだ。
そう考えるといろいろとつじつまが合う。
……姉として応援するべきなのか? そうなると私は本当に結ちゃんのお姉さまになるのか?
結ちゃんが百合娘ではないならそれはそれで悪くない。
先輩として姉として慕われるのは悪い気がしないし、何より、かわいい弟の彼女だ。
付き合い方をいろいろと考えないといけない。
私がおかしな事をして明斗が振られるのは絶対に遠慮したい。
しかし、私が思っている事とは反対に明斗はバカな事を言うなと言いたいのか眉間にはくっきりとしたしわを寄せている。
結ちゃん係と言う良くわからない役職に不満の声を上げる明斗。
……私の勘違いか?
明斗の反応に残念だと思う私と安心した私がいる。
やっぱり、姉としては複雑な気分だ。
「とりあえず、明斗は不満だろうけど結ちゃんの事を頼むよ。結ちゃん係になったみたいだし」
「それはなるべく気にはかけるけど……正直、不安しかない」
「姉ちゃんがみあ先輩に話を持って行った事で確実に状況は悪化するだろうからな」
一度、咳をすると改めて、結ちゃんと同じクラスの二人に彼女の事を気にかけるように頼む。
明斗は頷いてくれるがあまり乗り気ではないようでため息を吐いており、翔馬は自分とは無関係だと思っているようで楽しそうに笑っている。
「翔馬」
「だって、面白いだろ。実際、明斗のそばに同級生の女の子がいる事になるなんて、なかなかない」
私は翔馬の様子に非難の視線を浴びせるが彼は私に顔を近づけて笑う。
……それに関して言えば、私もそう思う。
同じ中学の後輩の女の子からは明斗は観賞用だからと言われたし、確かにきついから彼氏となると難しいのか?
そう考えると結ちゃんと仲良くなる事でお互いの性格が軟化すれば良いとは思う。
でも、難しいかな?
「翔馬、飯を食い終わったなら、帰ったらどうだ?」
「別に良いだろ。食後にすぐに動くのは良くなし」
私と翔馬が内緒話をしているのが気に入らないのか明斗は翔馬の身体を引っ張る。
翔馬は悪びれる事無く、笑うとテレビのリモコンを手にチャンネルを変えて行く。
「別にすぐそこだし、気にする事はないだろ。それより、どうするつもりだ?」
「どうするって、根気よく話をするしかないだろ」
「いや、そっちもだけど、みあ先輩の襲撃、早ければ明日の朝にでもおかしな衣装を持って押し掛けてくる可能性が高いぞ」
特に面白い番組もなかったようでテレビを消すと翔馬は明斗にこれからの事を聞く。
肩を落とし、根気よく結ちゃんに話をすると言う明斗だが翔馬の心配事は別であり、彼の言葉にその場は微妙な空気が包み込んだ。
……やっぱり、不安だ。
後でみあ先輩を抑え込めそうな先輩に連絡しておこう。
手芸部の部長? 料理部の部長? レン兄?
……レン兄はダメだ。なんかおかしな空気になりそうだ。
みあ先輩の運動神経は時にレン兄を凌駕するからね。
可愛い女の子にコスプレをさせようとするみあ先輩は無敵と言っても言い。
そうなると一人しか思い浮かばない。今日はバイトだっただろうし、結ちゃんとも面識があるはずだし、どうにか説得してみよう。
みあ先輩の暴走を止める事が出来る人が一人だけ思い浮かぶが、私はその人があまり得意ではない。
「とりあえず、明斗、結ちゃんの事をよろしく頼むよ」
「……姉ちゃん、今、問題を丸投げしただろ」
「そんな事はないよ。ボクはみあ先輩を抑えるために一つ策を講じてくるから、明斗、後片付けを頼んだよ」
「わかったよ」
私は無理かな? と思いながらも改めて、結ちゃんの事を明斗に頼む。
私の様子は逃げにも見えたようで翔馬からは冷たい視線が向けられた。
明斗は頷くもののその視線は少し冷たい。
二人の冷たい視線に私は逃げるようにキッチンから出て行く。
う、疑わないで欲しいけど、この場合は仕方ない。
私だって結ちゃんをどうにかしてあげたいと思っているんだ。
みあ先輩に話をしたから、被害が拡大したなんて思いたくないとかそんな事はない。