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第三二話

「九時? そろそろかな? 賄いは出ているだろうけど、お腹減らしているかな?」


 文芸部の部室(魔窟)から戻り、夕飯を済ませるとお母さんは締め切りの追い込みだと言って自分の部屋に戻ってしまった。

 今日はお父さんも編集の仕事で帰ってこないと言う話だし、明斗は初のバイトで久しぶりにお母さんと二人の夕飯であり、手伝うと張り切っていたお母さんを何とかキッチンから追い出したため、若干、疲れた。

 ソファーに腰を下ろして時計を見るとすでに九時を回っている。

 初めてのバイトに疲れているであろう明斗の事を考えてもう一度、キッチンに立つ。


「ただいま」

「姉ちゃん、腹減った」

「お帰り、初めてのバイトはどうだった? ……何かあった?」


 しばらくすると明斗の声と一緒に翔馬が家に上がってきてキッチンを覗き込む。


 その様子に私は苦笑いを浮かべるが明斗は何かあったのか不機嫌そうに顔を眉間にしわを寄せている。


「別にないよ。それより、翔馬、先に手を洗え、と言うか、何か食いたいなら家に帰れよ」

「良いだろ。家に帰ってもどうせ何もないし、姉ちゃんは絶対に用意してくれているし」


 明斗は首を横に振ると翔馬の首根っこをつかむ。

 翔馬はお腹が減ったと言い、私の顔を覗き込んだ。


「翔馬の事だからお腹減ったって泣きついてくると思ったからね。でも、明斗の言う通り、手を洗ってくる。二人とも手を洗ってくる」

「了解」


 翔馬にこう言われると弱い私は明斗をいさめると翔馬はバタバタと洗面所に向かって行き、明斗は眉間にしわを寄せながら彼の後を追いかけて行く。


 二人は良いコンビだよね。さてと急いで作らないとね。


「それで何かあったの?」


 テーブルに二人のご飯を置くと明斗はしっかりと手を合わせるが翔馬は席に座るなり、がっつく。

 正反対だな。と改めて思いながらも明斗の機嫌が悪い理由を聞く。

 咲耶がいるのだから、大きな騒ぎもなかっただろう。それだと明斗が機嫌の悪い理由がわからない。

 ただ一つだけ、もしかしたらと言う原因が思い当たる。


「何もないって」

「清瀬さんと明斗がかみ合わない。それでイライラが募ったんだよ。それでも咲耶さんがいたからどうにかなったけど」


 首を横に振る明斗を見て、私は翔馬に説明を求める。


 ……やっぱりか。


 翔馬は苦笑いを浮かべながら、結ちゃんと明斗の仲が悪いと教えてくれた。

 

 予想が的中してしまい。苦笑いしか浮かべる事の出来ない私の様子に翔馬は困ったように笑う。


「俺は短期予定だけど、明斗は長期を頼んだんだろ。少しは仲良くやれよな」

「こっちはそのつもりだけど、清瀬さんが聞き入れる気がないんだから仕方ないだろ」


 翔馬はおかわりと茶碗を私に出しながらも明斗と結ちゃんの事を心配してくれているようで明斗に注意を促す。

 明斗は自分は歩み寄るつもりだと言っているが、結ちゃんの反応は悪いようで上手く行っていないようである。

 結ちゃんの様子を思い出したのか寄ったままの明斗の眉間のしわはさらに深くなって行く。


「明斗、落ち着いて。もう少し柔らかい言葉で話しかけてあげてね。結ちゃんはきっと知り合いがいないから不安なんだと思うから、明斗はきついところがあるし」

「きつい? そんな事無いよ。俺は正しい事を言っているんだ」

「……いや、明斗はきついから、明斗の言う事は正論が多いけど、それだと反発したくなるからな」


 このままでは不味いと思い、大盛りにした茶碗を翔馬に渡すと明斗に落ち着くように声をかけてみる。

 しかし、明斗は生真面目な性格が災いしてか、愚直であり、自分は間違っていないと言う。

 翔馬は苦笑いを浮かべて結ちゃんの気持ちもわかると彼女の味方をすると意味がわからないと言いたいのか明斗は大きく肩を落とした。


「明斗、結ちゃんに優しくしてあげてね。女の子なんだし、それに結ちゃんは不安なんだから」

「それはわかるけど……」

「姉ちゃん、どうしたんだ? 今朝までは清瀬さんの事で怯えていたのに」


 明斗に結ちゃんの事を気にかけて欲しいと釘を刺す。

 私に言われて少し頭の血が下がったのかもごもごと何か言っている。


 わかってくれたのかなと安心している私の態度に疑問を思ったのか翔馬が首を捻った。


 ……隠す事でもないよね。

 姉としての立場もあるけど、悪い見本になってはせっかく相談に乗ってくれたみあ先輩に悪い。

 私は一つ咳をすると苦笑いを浮かべた。


「そうなんだけどね。ボクも不安でいろいろとみあ先輩に話を聞いてもらったんだよ」

「みあ先輩に? ……人選的に間違ってない?」

「そう言いたくなるけど、大丈夫。あれでかなり頼りになるから」


 みあ先輩の名前に明斗と翔馬の眉間にはくっきりとしたしわが寄る。

 二人の言いたい事はなんとなくわかるがみあ先輩はかなり頼りになるそこのところはしっかりと強調しておかないといけない。


「あれで? ……姉さん、だまされて無い? みあ先輩のおかしな空気に毒されたらダメだよ。と言うか関わっちゃいけない」


 ……明斗、それはかなりひどい。


 二人の誤解を解こうと試みようと決心するがその前に明斗はみあ先輩の事を全否定する。


「明斗、みあ先輩の事を悪く言わない。行動はちょっと暴走気味だけど頼りになるんです。今日だって、結ちゃんの事で相談に乗ってくれたんだから」

「みあ先輩の場合、姉ちゃんをだまして目の前で百合娘を堪能とか考えてそうだけどな」


 ……翔馬、おかしな事を言わないで、そんな事ないはずだから。


 みあ先輩のフォローをしようとする私だったが、翔馬が私の心を挫こうとする。

 確かに生粋の腐女子であるみあ先輩だ。目の前で起きている事なら楽しそうに観賞していそうだ。


「……姉さん、もう1度、聞くよ。みあ先輩にだまされてない?」

「な、ないと思いたいです。そ、そうだ。まずは話を聞いてから判断して、話を聞けばみあ先輩だっていつも、いつも暴走しているとは限らないってわかるから」


 動揺してしまった私の様子に大きく肩を落とす明斗。

 いや、話自体は良い話だったんだ。

 私はみあ先輩を信じる。

 明斗と翔馬だって話を聞けば信じてくれるはずだ。

 決して、みあ先輩の事を疑っているわけじゃないんだからね。


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