第三一話
「結ちゃんって、遠くから月宮学園を受験したんだよね?」
「咲耶の言い方だとそう思います」
みあ先輩は小首を傾げながら、結ちゃんの出身地がこの辺ではないのではないかと確認するように聞く。
自信はないけど、咲耶の家に居候と言う形になっているんだ。ご両親はこの近くにはいないと思い頷く。
私の言葉にみあ先輩はうんうんと頷いた。
こういう姿は同性から見てもイラッとする時があるのだけど、みあ先輩がやるとわざとらしさはない。
その姿に文芸部の部室の中の空気は和らいでいく。
年上ではあるが可愛い人だ。
「それなら、やっぱり不安でしょ? さっくんは男の子だし、学年も違うし、なんとなく友達を作るのは苦手そうだしね」
「知らない場所に一人ですもんね」
みあ先輩はわずかに与えられた結ちゃんの情報で彼女の性格などを分析しているようであり、苦笑いを浮かべる。
彼女の口から出た言葉に人づきあいが上手くない葵は結ちゃんの気持ちがわかったようで大きく頷いた。
言われてみれば、確かに不安だとは思う。
咲耶は気づかいをしてくれるとは思うけど、学年が違うと難しい。
知らない人ばかりのところで高圧的な態度でナンパをしてくる男子生徒達に囲まれば不安だと思う。
困った時に助けに来てくれるヒーローなんて普通はいないからね。
まったく、彼女が欲しいとか言うなら、困っている女の子を見たら助けに行けば良いじゃないか。
そこから始まるラブイベントだって絶対にあるはずだ。
……そう言えば、私と優馬は基本的に私が助ける側だな。仕方ないか。優馬は絶対に受けだし。颯爽とヒロインの前に駆け出すような登場は絶対に無理だ。
「確かに不安だとは思いますけど……それがどうして、お姉さまになるんですか?」
「だから、さっきのアンケートだよ」
「……すいません。まったくつながりません」
みあ先輩の口から出る結ちゃんの状況に納得する部分もあったが、それとお姉さまは話が別だ。
説明を求める私にみあ先輩はアンケートを思い出せと言う。
……ダメで。まったく理解できない。
「深月ちゃんは頼りになる先輩だって事だよ。今日は結ちゃんの事が有って新入生と関わってないのにこれだけ人気があるんだから、入学式の手伝いの時に深月ちゃんがいっぱい頑張った結果だよ」
「みあ先輩」
みあ先輩は笑顔で私の頑張りを誉めてくれた後に頭を撫でてくれる。
これがきっとナデポとか言う奴なんだろう。
どうしよう? ちょっとだけ、同性を好きになる気持ちがわかりそうだ。
いや、考え直せ。私はドノーマル、いくら好きな男が同性愛者でも私はドノーマル。私の恋愛観は普通。
ただ、ちょっとおっぱいが大好きな女子高生だ。
顔を上げるとみあ先輩の笑顔と一緒にみあ先輩の胸の膨らみが目に映る。
その瞬間に私の理性はグラつき、みあ先輩の胸に飛びついた。
やっぱり、柔らかい。ずるい。私のは芯があるのに。
少しだけ、さっきのみあ先輩の言葉で傷ついている私がいるのだ。
貧乳の傷は胸でしか癒せないんだ。
「深月ちゃん、そろそろ、離れた方が良いんじゃないでしょうか?」
「いや、この柔らかさをもっと堪能する」
みあ先輩の胸に顔をうずめる私を見て、葵は何かを感じたようであり、私の身体を引っ張る。
しかし、私はみあ先輩の背中に両手を伸ばして必死に抵抗を試みる。
胸は揉む以外にも楽しみ方があるな。
次は葵の巨乳にも顔をうずめてみよう。
そう思った瞬間に葵の手が私の背中から放れる。
……身の危険を感じ取ったか?
葵も腕を上げたね。
「深月ちゃん、そろそろ離れて、離れてくれないと……外すよ」
「ラ、ラジャー」
もう少しみあ先輩の感触を味わっていようと思っていたのだが、みあ先輩から止めるようにと忠告が入る。
外すと言われて私の本能は彼女が私のブラジャーを狙っていると気づき一気にみあ先輩から距離を取り、彼女の瞳の奥へと視線を移す。
あの目は本気で私のブラジャーを外す気だ。
以前に調子に乗りすぎて外された上に制服から抜き取られた事がある。
あの早業はどこで覚えたんだろう?
「と言う事で、深月ちゃんも葵ちゃんもおかしな警戒なんてしないで結ちゃんに優しくしてあげる事、皆もね」
みあ先輩は話を結ちゃんに戻すと文芸部の部員達に言い聞かせるように言う。
その言葉に苦笑いを浮かべながらも頷き、部員達の姿に私の表情も緩んで行く。
みあ先輩に言われると素直に頷いてしまうのが不思議だ。
これが彼女の魅力なんだなと思っていると葵と視線が合わさる。
彼女の様子からも私と同じ事を考えている事がわかり、二人で笑う。
「良し。解決。と言う事で深月ちゃんの悩みを解決した僕に見返りが有っても良いと思うんだよね」
「見返り? こ、後輩の悩みを聞くのは先輩のやさしさじゃないでしょうか? みあお姉さま」
部室内に広がった優しい空気はこの空気を作り出した本人の手で破壊される。
みあ先輩は笑顔で私が逃げないように肩をつかむとこの場で何が起きるか察したようで男子生徒はぞろぞろと部室から出て行く。
その瞬間、これから起きる惨劇に私の中の警笛はけたたましく鳴り響き出す。
「今日は何が良いかな?」
「ど、どこから、そんなものを取り出すんですか!?」
「制服」
みあ先輩は制服の中から、アニメやマンガで見るような色取り取りの制服を取り出し始める。
本当に彼女の制服の中には何が入っているんですか?
顔を引きつらせながら聞く私に迷う事無く、制服と言い切るみあ先輩は最強だとは思うが物理とかいろいろな法則を無視していると思う。
「乙女の制服のなかは不思議でいっぱいなんだよ」
「それに関して言えば、同感ですけど、みあ先輩の制服のなかはいろいろおかしいですから!? 着替えませんよ。絶対にイヤです」
「深月ちゃん、さっきの五冊が交換条件だよ。今月厳しいんだよね」
「何でも来い」
制服を手に近づくみあ先輩の恐怖に私は後ずさりするがすぐに背中が壁にぶつかってしまう。
このままではみあ先輩の着せ替え人形にされてしまうため、必死に抵抗しようとするがみあ先輩は私の耳元で悪魔のささやきをする。
そのささやきに私の理性は欲望に簡単に屈服してしまう。
……仕方ないじゃないか。趣味はお金がかかるんだから。