第三十話
「みあ先輩、同性愛について教えてください」
「BL本?」
文芸部の部室に着くと私は結ちゃんの行動を予測するためにみあ先輩に教えを請う。
みあ先輩は私の趣味を理解しているため、最新のBL本制服の中から五冊取り出して傾げる。
……さすが、みあ先輩、私の趣味を理解している。と言うか、みあ先輩はどうやって、こんなに大量のBL本を仕舞い込んでいるのだろう?
いや、気にするのは止めて置こう。
「……受け責め反転だと? これはこれで……本題はGL本です」
「GL本? ……目覚めたの?」
私の手は欲望に負け、すぐにBL本を受け取るとぱらぱらとページをめくり、いつもと違う内容に胸を躍らせてしまう。
……いや、これはこれだ。本来の目的を達成しなければ。
何とか欲望を押さえつけてBL本を閉じると文芸部の本棚からGL本を取り出す。
みあ先輩は私の手にしたBL本を手に可愛く首を捻った。
「いえ、ボクはノーマルです。二次元は二次元、三次元は三次元と理解しています」
「それじゃあ、どういう事?」
「えーとですね。話せば長くなるんですけど、良いですか?」
「長いなら、何か用意するね。座ってて」
私は百合になど興味はない。
信じて欲しくてみあ先輩に詰め寄ると彼女は今まで興味すら示さなかったGLを教えて欲しいと頼む私に何か感じたようであり、立ち話ではなんだと思ったようでイスを出してくれる。
ご厚意を素直に受けてイスに座るとみあ先輩はなぜか部室に備え付けているカセットコンロでやかんを火にかける。
「缶のおしることおでん、どっちが良い?」
「……どうして、その二択ですか?」
「それなら、コーンポタージュ? 青汁?」
湯せんで温めるつもりなのか、みあ先輩は手に缶ジュースを選ばせるかのように軽い調子で聞く。
考えてもいなかった二択に眉間にしわを寄せてしまうが更なる追加の選択肢が現れる。
……どれが正解? と言うか、何を常備しているんですか?
ホットが立て続けにきたあとに青汁でも冷たいものが出てくると頼みたくなるのなぜだろう。
「夕飯前だから、飲み物でお願いします」
「美味しいのに?」
「……先日、色々とありまして減量中です」
「それなら、仕方ないね」
現状でみあ先輩の提案に乗れず、私は第五の選択肢を選ぶ。
頬を膨らませるみあ先輩に私はダイエット中だと告げるとみあ先輩は紅茶を出してくれる。
「それで、どうしたの? 深月ちゃんはBL本だよね?」
「あのですね。先日なんですか……」
……すでに文芸部の人々が聞き耳を立てているのだが、この部の方達はほとんどが同志だ。
私の秘密を広めて回るような裏切り者はいない……きっと、そう信じたい。
私の話に聞き耳を立てている部員の気配を感じながらもぽつぽつと結ちゃんとの出会いと彼女が百合娘なのではないかと言う推測を話す。
「清瀬結ちゃんか? 深月ちゃんはお姉さまになったんだね」
「その呼び方、止めてください」
説明を終えるとみあ先輩は楽しそうに笑っている。
しかし、私としては『お姉さま』と呼ばれるのに抵抗があるため、恨めしそうな視線を向けた。
「うーん。そこまで気にしなくて良いんじゃないかな? 話を聞くとその結ちゃんは深月ちゃんを先輩として年上として尊敬しているんじゃないかな? きっと、遠くからの受験生だろうし」
「そうですか? ……結ちゃんにお姉さまと呼ばれると背中に寒気がするんです。レン兄に睨まれたような寒気が。身の危険を感じるんです」
みあ先輩は気にする必要はないと笑ってくれるが、わかっていない。
結ちゃんは危険だ。
レン兄とはベクトルが違うけど、私の第六感がビシビシと危険を告げているのだ。
「大丈夫だよ。これを見て」
「……どうして、プロジェクター?」
みあ先輩は私を安心させるようににっこりと笑うと指を鳴らす。
その合図に部員たちはプロジェクターとスクリーンを引っ張り出す。
……文芸部の部室の備品はなぜレン兄に怒られないのだろうか? 何か裏があるのだろうか?
何か準備されているが状況が理解できない私は顔を引きつらせると部室にいる葵へと助けを求めるような視線を向けるが、彼女はにっこりと笑い返すだけである。
……さっきの事で怒ってるのかな? 仕方ないじゃないか。生物としておっぱいを揉みたいと思うのは当然の欲求なのだから。
葵に見捨てられた事に先ほどの行動を改めようと少しだけ考えるが、すぐに考えを改める。
「見て、深月ちゃん」
「は、はい?」
「どうどうの一位だよ。おめでとう」
……お姉ちゃん、お姉さまと呼びたい先輩ランキング? これは何?
その時、みあ先輩に呼ばれて顔を上げるとスクリーンには少し理解しがたい順位が乗っている。
ランキングでは私は堂々の一位に名前があり、みあ先輩と部員たちは紙ふぶきを飛ばしてお祝いしてくれている。
「あ、あの、みあ先輩、これは何でしょうか?」
「新入生に聞いたアンケート? まだ、二日目なのに大人気だよ」
……ダメだ。話が通じない。
いい先輩なのだけど、基本暴走しっぱなしだから、どうしよう?
状況が整理できないため、みあ先輩に話を聞いてみようとするが、みあ先輩は自分の事のように喜んでくれている。
話を折るわけにも行かずに私は苦笑いを浮かべる事しかできずに再度、葵へと助けを求める視線を向けた。
「あの、みあ先輩、一度、落ち着いてください。深月ちゃんが困っています。それにあまり大騒ぎをすると久島先生に怒られますよ」
「そうなの?」
「少し、これも良くわからないんですけど、どうして、これと結ちゃんが関係するんですか?」
苦笑いを浮かべた葵はみあ先輩に声をかけてくれ、レン兄の名前にみあ先輩以外はすぐに後片付けに移って行く。
本当によく訓練されている部活だと思う。
下手な体育会系の運動部より統制が執れているみあ先輩の人望だろうか?
しかし、当の本人であるみあ先輩は首を傾げており、私は一度咳をした後、アンケートと結ちゃんの関係について聞く。