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第二八話

 今回は明斗視点です。

「弓永君と波瀬君、同じお弁当? すごい偶然だね」

「明斗の姉ちゃんに作って貰ったからな」


 昼休みになり、俺の前に当然のように翔馬が来ると二人の弁当箱を覗き込んだ女子が声を上げた。

 翔馬は女子に向かい笑顔を向けているが、俺としてはそんな気にはなれない。


 ……他人の弁当の中身を覗き込むのは失礼とは思わないのかな?

 

 いただきますと手を合わせて卵焼きを頬張る。


 ……砂糖か? まぁ、優馬さんの分を作っているから仕方ないけど、やっぱり、ムカつく。


 卵焼きの味で姉さんが誰のために弁当の味付けをしているのがすぐにわかる。

 好みで言えば、家の家族は出汁を使った卵焼きの方が好きだ。翔馬は食えればなんでも良いようだけど、優馬さんは確実に砂糖で甘くした卵焼きの事が好きだ。

 一つ年上の姉さんは翔馬の兄さんの優馬さんの事が好きだ。

 小さい頃から二人の様子を見てきたからわかる。

 応援したいとも思うけど……優馬さんの煮え切らない態度がムカつく。

 美味いはずの姉さんの弁当のはずなのにふつふつと湧き上がってくる優馬さんへの怒りで味がわからなくなってくる。


「明斗、お茶飲むか?」

「ありがとう」


 そんな時、タイミング良く翔馬からお茶を渡され、少しだけ怒りが治まる。

 このタイミングの良さは翔馬の才能だな。

 両親が仲良かったから、昔から知っているけど雑なところが多いけど、気が利くし、こう言うところは羨ましいと思う。

 そのせいか翔馬は女子からモテる。まだ入学してから二日目なのにすでに他の中学から来た女子から声をかけられている。

 弁当を覗いてきたのも話をするきっかけが欲しかったんだろう。


「弓永君のお姉さんって、入学式の手伝いしていた先輩だよね。優しくてキレイで憧れるな」

「そう。深月姉ちゃん、子供の頃から世話になっているから頭は上がらないね。そして、見てくれよ。この弁当、見た目、栄養、そして、カロリーの割に高校生男子を満足させる腹持ちの良さ、何より、美味い。凄いだろ」

「翔馬、あんたは深月先輩の信者か?」


 この間、姉さんは蓮夜さんの頼みを聞いて入学式の手伝いをしていた。

 さすが、姉さんだ。

 違う中学からきた女子でさえ、感心している。

 そして、翔馬、見せびらかしたくなるのはわかるけど、少しは静かにしてくれ。

 姉さん特製の弁当を高々と持ち上げ胸を張る翔馬に同じ中学から友人達が冷やかしの声を上げる。


「信者? 違うね。しいて言うなら、お姉ちゃん、大好きっこで」

「……それは明斗だろ」


 ……中学からの友人達のツッコミになぜか教室が沸く。

 待て。俺は別にシスコンってわけじゃない。

 姉さんは目立つし、危なっかしいから、気にかけているだけだ。

 弟として当然の事だ。


 姉さんは本人にその気はなくとも周りの目を引く……そして、どこからともなく厄介ごとを運んでくる。


 ……姉さんの名前に一人の女子生徒が反応する。

 清瀬結。長い髪をサイドポニーテールでまとめた見た目は可愛い女の子。

姉さんと優馬さんの友人で俺や翔馬も世話になっている咲耶さんの従妹らしい。

そして、この間の入学式から姉さんに付きまとっている迷惑な娘だ。


 姉さんも困っているし、どうにかしないと。


「明斗、難しい顔していたら、せっかくの姉ちゃんの弁当が不味くならないか?」

「味は変わらないよ。いつも通り美味い。ただ、卵焼きが甘い」

「それは仕方ないだろ……気になるのか?」


 集まっていた生徒達も自分達の弁当を食べなければいけないため、自分達の席に戻って行く。

 どうやら、清瀬さんの事を考えていたせいか、表情が険しかったようで翔馬は弁当を頬張りながら顔を戻せと言う。

 卵焼きの味が不満だと言い、翔馬は呆れ顔でため息を吐いた後、俺の視線が清瀬さんに向けられていた事に気が付いたようである。


「別に……」

「そうか? だけど、友達いなさそうだよな?」


 清瀬さんの事など気にしていないけど、翔馬の言葉を否定するようにご飯を頬張る。

 翔馬は苦笑いを浮かべると清瀬さんの背中へと視線を向けた。

 その言葉に少しだけ気になる。


 咲耶さんの従妹がこの辺に住んでいるなんて聞いた事はなかった。

 それだけじゃなく、咲耶さんの家に転がり込んだって事は実家から月宮学園はそれなりに距離があるんだろう。

 月宮学園はこの辺では一番の進学校だし、遠方からの受験者も多いって聞く。

 そう考えると知り合いなんて一人もいないのかも知れない。


「……これは今までにない反応だ」

「何が?」

「いや、何でもない。そろそろ、姉離れの良い時期なのかなと思っただけだ」


 改めて、清瀬さんへと視線を向けると翔馬はおかしな事を言うが聞き返すと一人で納得してしまっている。

 意味がわからない……

 こうやって清瀬さんを観察してみると、一人の姿が少しだけ気になる。いや、彼女は姉さんの身を襲おうとしている危ない子だ。周囲に女子がいればその子が危ない。

 だけど、彼女が仮に同性愛者なら、他の女子には悪いけど友人を作れば姉さんに目が行かなくなるのか?


 姉さんの安全を第一として考える。このさい非人道的かは置いておこう。

 翔馬のそばに居れば自然と友人も増えるだろうし、姉さんの危機も防げるかも知れない。

 ……とりあえず、一度だけでも話して見よう。もしかしたら、姉さんの勘違いも考えられるし。


「明斗、どこに行くんだ?」

「ちょっとね……清瀬さんって、咲耶さんの従妹なんだよね?」

「……」


 清瀬さんに話しかけようと決め、弁当箱を手に立ち上がる。

 彼女の前まで移動すると空いている席からイスを拝借して彼女の前に座り、声をかける。

 清瀬さんは目の前に座った俺を見て、親の仇でも見るような目で睨み付けてくる。


 ……本当に同性愛者なんだろうか?


 この目は明らかに敵意が混じっている。

 これは本当にどうにかしないと、姉さんが危ない。


「明斗、お前は何をしているんだよ。清瀬さん、悪いね。咲耶さんには俺達二人とも世話になっているから、それに今度、俺達はフェリチータでバイトするからその時はよろしくね。ほら、明斗も」

「お世話になります」

「……私に言っても仕方ないですわ」


 清瀬さんに睨まれて言葉が続かなかった俺の後ろから、翔馬が顔を出す。

 翔馬へも清瀬さんは敵意のこもった視線を向けているが当たり障りのない返事をしてくれるが俺達の相手をしたくないのか弁当箱のふたをすると弁当箱を持って教室を出て行ってしまう。


 ……幸先が不安だ。


 彼女の態度にクラスメート達も良く思わなかったようで小さい声だけど悪口が上がり始める。

 ……まったく、放っておけばいいはずなのに。


「行ってらっしゃい」

「とりあえず、明斗は清瀬さん係と」


 清瀬さんの様子が気になり、身体が動いてしまう。

 弁当箱のふたをして彼女の後を追いかける。

 背後から翔馬と同じ中学の友達のおかしな声が聞こえるけどかまっているヒマはない。


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