第二七話
「で、結ちゃんの説得はしてくれたの?」
「……落ち着け」
結ちゃんの襲撃は一先ずなかったものの、彼女の恐怖に怯えて過ごすのは心臓に悪いため、昼休みに咲耶を襲撃する。
咲耶の周りには優馬だけではなく、男友達が集まってお弁当を広げており、私の登場とともに厄介ごとに巻き込まれたくないのかそそくさと撤退して行く。
……それは失礼じゃないか?
男友達の様子にイラッとしながらも空いた席に座り、持ってきた弁当を広げる。
「いたいた、私達も混ぜて貰うよ」
「お、お邪魔します」
教室からいなくなった私の行動は菫と葵にはお見通しだったようで二人が遅れて教室に現れた。
菫は他のクラスの教室に入るのを気にする様子もないが、葵は少し緊張しているようで苦笑いを浮かべている。
……葵は可愛いな。
「まったくだ。あの様子を見るためなら嫌がる本宮の巨乳を揉みしだきたくなる」
「……弓永さん、咲耶、犯罪だから」
葵の様子に口からよだれがあふれ出しそうになる。
私の考えを読み切っているのか咲耶は大きく頷き、優馬は呆れ顔でため息を吐いた。
……少し考えを読まれないようにしないといけないね。
どうやら、私の考えている事はやはり読みやすいらしい。
付き合いが長いとは言え、このままではいろいろとやりづらい。
「深月、バカな事をやってないでお昼食べるよ」
「別に変な事なんて考えてないよ……それで咲耶、結ちゃんの様子はどう?」
菫に促されてお弁当へと箸を伸ばす。
お弁当から卵焼きを頬張り、気持ちを落ち着かせると結ちゃんの事を聞く。
「……相変わらずの愛妻弁当だな。俺にもお弁当を作ってくれる可愛い巨乳の彼女がいないものか?」
「そう言うわけじゃないよ。それに今日からは翔馬も明斗くんも同じ弁当だし」
……人の話を聞け。そして、咲耶、巨乳を強調するのは私に対する当てつけか?
私の質問は完全に無視されており、咲耶は私と優馬の弁当箱を交互に見てため息を吐く。
明斗と翔馬もお弁当が必要になったから、今日から八人分だ。
……間違いじゃない。うちのお母さんをキッチンに立たせるわけにはいかないため、お父さんとお母さんの分を作っていて、おばさんに優馬の分も頼まれ、気が付いたらおじさんとおばさんの分までそして、今回、給食が無くなった明斗と翔馬の分だ。
さすがに量が多いがキッチンが爆発するより良いに決まっている。
おばさんは私がお弁当を作るようになってから食費が減ったと言っているが、それなら、私に臨時収入くらいくれても良いと思うんだ。
「深月、優馬が自分のだけ、特別性にして欲しいって」
「ん? 足りない? それともご飯を炊けるお弁当箱にする?」
「……深月、あんたはところどころ、乙女を主張するわりにはどうして、そこの方向はずれているの?」
お弁当を特別性にするとなると炊き立てのご飯しかないと思うのだが、菫の反応が悪い?
そうなると別の物か?
「温かいお弁当を食べられるだけでも午後からのつまらない授業を頑張れると思うんだ。そうなると……おみそ汁か? 確かに保温効果のあるお弁当箱もあると聞くし」
「……あの深月ちゃん、おみそ汁もきっと違うと思いますよ」
「なぜ、ボクの考えている事がわかるの!?」
「……いや、口に出しているから」
葵にまで考えている事が読まれて驚きの声を上げる私だったが、どうやら口に出していたらしい。
そう考えると今まで考えが読まれている事があったのは気づかずに口に出していたせいか?
「……弓永さん、お弁当はこのままで良いから話を戻さない?」
「そ、そうだった。咲耶、結ちゃんはその後、大丈夫なの?」
「そうだな。とりあえず、シスコンの明斗とフェリチータでぶつからなければ良いなと思う」
このままでは話が進まないと思った優馬が無理やり話を戻そうとしてくれる。
それで私は我に返り、咲耶につかみかかるように聞く。
しかし、咲耶は私の心配より、フェリチータの心配をしており、私の身などどうでも良さそうだ。
……こいつ、私が結ちゃんに怯えている間は財布の心配をしなくて良いと思っているから、どうでも良いんだな。
これは私に対する挑戦だ。
絶対に結ちゃんの目を盗み、フェリチータに行って咲耶の奢りでメニュー全制覇をしてやる。
「確かに話を聞くと明斗くんと結ちゃんは絶対にぶつかり合いますよね」
「そう? 案外、似た者同士って気がするけど、シスコンって感じで、しばらく、落ち着くまで翔馬が大変だろうけど翔馬だし、どうにかするでしょ」
私が新たな目標を立てていると私を余所に葵が明斗と結ちゃんの関係を心配している。
それに対して菫は興味がなさそうにお弁当を頬張っているが、彼女の考えは甘いと思う。
私も葵と同じで明斗と結ちゃんは絶対に仲良くできない気がするよ。
「咲耶、とりあえず、清瀬さんにはなんて言ったの?」
「一先ず、二年の教室の方には来るなとは言っておいた。注意するのは登下校の時間と移動教室だろうな」
「咲耶、ちなみに結ちゃんの登校時間は?」
咲耶は結ちゃんにはしっかりと言い聞かせてくれているようであり、私はそれでも結ちゃんの行動力は侮れないと思う。
少しでも私の安全を確保するために結ちゃんの行動パターンを聞く。
「とりあえず、深月の事だから、今日は結に見つからないように早い時間に登校すると思ったから、いつも遅刻ギリギリだと言っておいた」
「……ありがとう」
「心がこもってないな。一応、俺だって従妹が犯罪者になるのは遠慮したいからな」
咲耶もやる事はやってくれていたようでため息を吐く。
しかし、その表情からは結ちゃんの事を心配しているのがわかり、私はそれがなんか面白くない。
「登下校は優馬がいるし、何とかなるでしょ」
「優馬はわりと役立たずだからな。とりあえず、しばらくはバイトの仕事を叩きこまないといけないから、帰りはしばらく拉致して帰るから問題ないだろ」
「……従妹にセクハラか?」
「しない」
菫はニヤニヤと笑っているが咲耶の言う通り、優馬は女の子相手だとわりと役立たずだ。
告白をされている時の態度を見れば一目瞭然だ。
一先ずは、結ちゃんの事は咲耶に任せて逃げ切る事を考えようと改めて、心に誓った。