第二四話
ロールキャベツが良い感じに煮えた時、明斗が居間に戻ってくる。
明斗は何をしていたんだ? まさか、入学したばかりでラブロマンスか? いきなり、逆ナンでもされたのか?
優馬、話を聞いてくれないかな?
突然、居間を出て行った明斗は女子から連絡でも受けたのかと思い、妙にそわそわする。
これは姉として負けているから悔しいわけじゃない。悔しいわけじゃないから、重要だから二回言っておく。
視線で優馬に話を振って欲しいと目で訴えるが視線をそらされ、私は心の中で舌打ちをすると人数分の食器を出す。
「姉さん、手伝うよ」
「俺も」
「ありがとうね。二人とも」
明斗はすぐにキッチンを覗き込むと食器を運んでいき、待ちきれないのか翔馬も顔を出し、ロールキャベツの入った鍋を運ぶ。
その様子に苦笑いを浮かべると二人の後を追いかけると四人分の夕飯を並べていく、この四人の場合、すでに役割ができており、私と明斗で夕飯を盛り付け、翔馬は夕飯が並んでいく様子を今か今かと待っている。
優馬は翔馬の様子にため息を吐くと手伝おうとするが、全てを明斗にかっさらわれており、何もできずに席に座った。
……要領は良いはずなんだけど、どうして、優馬は何もできないんだろう?
いつもの事だけど、疑問に思う。
優馬は別段、恋愛的な事以外は鈍感ではない。
まめに誰かが困っていると気が付くし、手を貸すのにご飯の時はなぜ、何もできないんだろう?
まぁ、明斗が私の行動を読んでいるだけか?
実際、私がご飯を茶碗に盛るとすでにそこに手があるからな……
「姉ちゃん、そこら辺はきっと深く考えたらダメだ」
考え事をしながらご飯を装っていると翔馬から優しい声で言われる。
……また、翔馬は私が考えている事を読んだのか? 納得がいかない。
翔馬の言葉に何か納得がいかないものを感じながらも夕飯の準備が終わり、食卓に着く。
「そう言えば、明斗はさっき何をしていたの?」
「咲耶さんにバイトの期間を延ばして貰おうと思ったんだよ」
夕飯を食べ始めて明斗が二階に上がって行った理由が気になる。
優馬や翔馬にはなんか誤魔化されたし……
私は好奇心には勝てずに明斗に聞くが返事はそっけなく、それがなぜか妙に気になった。
……やっぱり、彼女のか?
慌てて二階に上がったと言う事は何かねだられたのか?
考え始めると彼女ができたからとしかつながらない。
今度、明斗の後を追跡してみるか? 姉として弟の交友関係は知っておく必要がある。
これは姉として必要な事であり、決して私がブラコンなわけではない。
「……いや、姉ちゃんも大概だよ」
……翔馬、だから、私が考えている事にツッコミを入れるのは止めてくれないかな?
「それより、姉さん、せっかくに蓮夜兄さんが入学式を見られるように手を打ってくれたのに、また、怒られても知らないよ」
「それに関してはもう何も言わないで欲しい」
明斗はバイトの件をあまり追及されたくないようで私の痛いところを突いてくる。
正直、結ちゃんと言う大問題の陰で逃げ切れたが私はレン兄の厚意を無駄にしたわけだ。月曜日には呼び出される可能性が高い。
……どうしよう?
「清瀬さんの件もあるから、強くは言われないと思うよ。久島先生もその辺は理解しているだろうし、何かあるとしても何か手伝いを頼まれるだろうね」
「清瀬さん?」
「新入生の娘なんだけどね。妙に深月に懐いちゃって、咲耶の従妹なんだけど、入学式を欠席しちゃって」
悩んでいる私を心配して、優馬が励ましてくれたのだが聞きなれない名前に明斗が食いつく。
優馬は結ちゃんの事を思い出しているのか苦笑いを浮かべて、結ちゃんの事を話す。
「清瀬さん? ……うちのクラスだな。きっと」
「蓮夜兄さんに入学して初日で目を付けられる生徒がいるなんて思わなかったけどね」
「……そんな命知らずの事、この辺の出身者はしないだろうな」
結ちゃんの名前に明斗と翔馬は同じクラスのようであり、二人は眉間にしわを寄せた。
その通りだ。この近辺の出身者でレン兄にケンカを売るは死と同じ意味を成す。
成人してからは昔のような無茶はしないにしても、怒ったレン兄は恐怖だ。
おこの最上級と言われる『ビッグバンテラおこサンシャインヴィーナスバベルキレキレマスター』とかわけのわからないものでだって言い表せない。
まあ、使っている人間など見た事はないけど、レン兄の恐怖を知らない結ちゃんだからこそのあの行動だとは言え他人事とは言えない。
「レンさんを怒らせるのはきっと姉ちゃんの専売特許なんだろうけど」
……翔馬、待って。確かに私はレン兄を怒らせているが、だいたいはレン兄が何かを押し付けるつもりの時に罪状を作り上げられるだけだ。
それ以外だとたまに葵の巨乳に手を出して怒られるくらいだ。たまにだ。たまに。一週間で二、三回、揉みしだこうとして怒られるくらいだ。
同性同士だし、かわいい物だろう。
「まぁ、だいたい、合っているね。深月が在校生で一番、生徒指導室に連れて行かれている」
……私のイメージはそんな物か?
私が心の中で言い訳をしている隣で優馬は翔馬の言葉を全肯定し、優馬からのイメージに私の顔は小さく引きつる。
ちょっと、いや、かなりショックだ。
「姉さん、何をしているんだい?」
「別に何もしてないよ。レン兄に怒られるのはだいたい、葵の巨乳に手を出したからで友達同士のスキンシップじゃないか、怒られるようなことじゃないよ」
「……深月。清瀬さんの前であれは止めないと深月に回ってくるからね」
大きく肩を落として私を睨み付ける明斗。
ちょっと視線が痛いが私は無実だと主張したい……撤回する。気を付けよう。
私はドノーマルだ。女の子に恋愛感情はない。疑われる行為は止めよう。
葵が泣かない程度に陰で揉ませて貰うくらいにしよう。
優馬からのツッコミで私は自分の行動を見直そうと決意した。
「とりあえず、清瀬さんはいろいろと要注意しないといけないね」
「頑張れ。そう言うのはお前の仕事だ」
私と優馬の話を理解しきれないようだが、明斗と翔馬の間では結ちゃんは要注意人物と認定されたようで二人は苦笑いを浮かべている。
クラスが同じようだから、本当に頼むよ。二人とも、私の安全のために。