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第二三話

 ……とりあえず、夕飯の準備に戻ろう。考えていても仕方ないし。


 気分を切り替えようと今度は耐熱皿にキレイに剥がしたキャベツを載せて電子レンジのスイッチを押す。

 ボールにひき肉と水を切ったお豆腐を混ぜて、玉ねぎは冷えているね。

 ここで玉ねぎを投入。後は普通なら卵とパン粉でタネをまとめるんだけど、今回はカロリーを落とすためにかたくり粉だよ。塩コショウを入れて味を調えて……

 しかし、お豆腐はダイエッターの味方だよね。お豆腐でかさを増やして満腹感もある物が作れる。

 食感もふんわりとするし、良い事だらけだよ。

 後、ケーキをあれだけ食べたのに卵くらいと言われそうだが、あれだけ食べたからカロリーを抑えるんだ。

 ここは恋する乙女として外せないのだ。


 仲間はずれにされた事を忘れるために鼻歌交じりで料理を続ける。

 私の様子に優馬はくすりと笑い、その顔を見て私は一瞬、動きが止まってしまう。

 

 ……あの表情は反則だよね。そう言えば、結ちゃんには効果がなかったんだよね。同性愛者には同性愛者で何か感じるものがあったのかな?


 優馬の笑顔に何も感じなかった結ちゃんの顔を思い出す。

 咲耶が男嫌いだと言っていたけど、何かあったんだろうか?

 よく聞く、男嫌いの理由としてはチカン、セクハラ、片親だった母親の再婚とか?


 ……あまり、踏み込んだ事は聞かなかったからわからないよね。

 咲耶もいつもは口が軽いのに踏み入った事に口が堅いのはあいつの良いところなのだろうか?


 ひょうひょうとしていながらも状況を読む事に長けている友人の顔に小さくため息が漏れる。

 気にしても仕方ないかと電子レンジから温め終えたキャベツを取り出し、肉たたきで芯を粉砕する。

 手間だけどこうすると芯まで食べれるから良いんだよね。


「ロールキャベツ? ……豆腐? 姉ちゃん、俺、トマトを入れて欲しいな。温めたトマト美味いし、コンソメ味だけじゃ物足りないから」


 その時、疲れた様子の翔馬が居間に戻ってきて、キッチンを覗き込む。

 進捗状況を見て夕飯のメニューを察知したようだが、空になったお豆腐の容器を見て首を傾げる。

 しかし、聡い彼はすぐに何かを察したようであり、満面の笑顔でトマトを要求する。


 ……元々、入れるつもりだよ。トマトの中のリコピンはダイエッターのお友達だからね。


 すべてを察した上で私を助けてくれるなら、明斗が怒っている時にも助けて欲しいと思いながらも頷いてタネをキャベツで包んで行く。

 ロールキャベツを止めるのはパスタにしよう。つまようじは翔馬が外さずにかぶりついたら困るし。


「翔馬、深月の邪魔をするんじゃない」

「別に邪魔してないって、俺、姉ちゃんが楽しそうに料理している姿が好きだから」

「こうやって、味見をねだるんだよね。だけど、残念ながら、まだ生だから食べられないんだよね。その代り、これを進呈しよう」


 翔馬は夕飯が待ち遠しいのかキッチンを覗き込んでおり、そんな翔馬を見て優馬が声をかける。

 翔馬は優馬の言葉を気にする事無く、私を喜ばせるような事を言う。

 彼の魂胆などお見通しなのだが私はくすくすと笑い、咲耶からせしめたお土産用のケーキが入った箱を冷蔵庫から引っ張り出す。


咲耶さんのところ(フェリチータ)のケーキ? 食う食う……何個まで食べて良い?」

「あの不良夫婦どもの分は必要ないから、明斗と食べて良いよ。ボクもユーマも食べてきたし」


 フェリチータの名前が入った箱に翔馬はすぐに手を伸ばし、中を確認する。

 私はしっかりと二家族分のケーキをせしめていたため、箱の中には八個のケーキが詰められており、翔馬は目を輝かせてソファーに座った。

 その様子に私は嬉しくなってしまい、明斗と二人で分けて良いと言う。


「……翔馬、ケーキはデザート、夕飯を食べられなくなったら、深月に悪いだろ」

「大丈夫。デザートは別腹だから」


 ……翔馬、やっぱり、私の本当の弟はあんたなんじゃないか?


 翔馬の様子に苦言を言う優馬。

 翔馬はフェリチータで私が迷う事無く言った事と同じ事を言い切った。

 そんな彼の様子に家族とは血の繋がりだけでは絶対にないなと思いながらも鍋に水、顆粒のコンソメスープ、トマトケチャップ、カットトマトの缶詰を入れて混ぜて塩コショウで味を調えてロールキャベツを鍋に並べる。


 しかし、ロールキャベツだけだと夕飯が寂しいか?

 私は充分だけど、明斗と翔馬には足りないかな?

 ……どうするべきかな?


 翔馬に聞いてみようかな?


 ……ケーキは諦めたか?


 鍋に並んだロールキャベツに少しだけ、夕飯としては寂しいと思いながら、翔馬へと視線を移す。

 結局、優馬の苦言に折れたようで翔馬は名残惜しそうな視線をケーキの箱に向けている。

 その様子に私は少し面白くなって口元が緩んでしまう。


「ユーマ、翔馬、ロールキャベツだけなら、寂しいと思うから何か副菜で食べたいものある?」

「今から、作ると大変じゃない?」

「煮込む時間があるから、手持ち無沙汰なのですよ。ボクには充分だけど、正直、足りないでしょ?」


 少しだけ重たい空気の二人に向かい、声をかける。

 優馬は私の事を気づかってくれているようで無理はしなくて良いと言うが、煮込む時間に副菜を作りたい。

 落ち込んでいる翔馬に何かないかと聞く。


「肉」

「……メインは肉だよ。ボクが言っているのは副菜、できれば野菜、サラダ系かな?」


 翔馬はケーキを止められた事で私がダイエットをしようとしている事を忘れてしまったようで肉一択で答える。

 しかし、お豆腐でかさまししているとは言え、ロールキャベツは肉料理で主役を張るものだ。

 これ以上、メイン料理は要らない。


「一緒に野菜を煮込んだら、ポトフみたいにするのにウィンナーとか入れれば翔馬も納得するだろうし」

「それもそうだね……そうしよう。野菜はニンジンとジャガイモかな? カットトマトも入っているし、セロリや玉ねぎのスライスも入れよう」


 優馬は野菜が欲しいと言っていた私の事を考えてくれたようでロールキャベツと一緒に野菜を煮込むように提案してくれる。

 ジャガイモは腹持ちも良いから明斗と翔馬も納得してくれるだろうし、私は冷蔵庫の野菜室を引っ張り出して料理を続けて行く。


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