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第二二話

「ただいま。お土産持ってきたよ……あれ? 靴がない?」


 帰り際におじさんから渡されたお土産用のケーキの箱を見てかなりのダメージを受けていた咲耶の事など気にする事無く、おじさんとおばさんにバイトをすると言っていた明斗と翔馬の事を頼んでから帰宅する。

 家のドアを開けて、お土産を持ってきた事を知らせるが玄関には明斗の靴しかない。


「姉さん、お帰り」

「ただいま。明斗だけ?」


 首を傾げている私の前に明斗が顔を出す。

 さすがにすでに制服から着替えており、もったいないと言う思いもするがどうせ毎日のように見られるものだ。

 今回は諦め、両親がどこに行ったのかを聞く。


「おじさんとおばさんと一緒に俺と翔馬の入学祝をするんだって、出て行ったよ。夕飯は要らないって」

「そう……」


 明斗はため息を交じりで両親が不在だと言う。

 その言葉に頷きはするものの、ちょっと待て。明斗と翔馬の入学祝なら、なぜ、明斗が家にいる?

 普通は二人の入学祝なら、明斗と翔馬も連れて行くはずだ。

 結局、いつものように、ただ、飲んで騒ぎたいだけか?

 ……不景気だ。なんだと言う割にうちと優馬の家にはお金があるのか? それなら、私のお小遣いをあげて欲しい。


「いつもの事でしょ。それより、着替えてきたら」

「そうだね。おじさんとおばさんがいないなら、夕飯は優馬と翔馬の分も用意しないといけないんだね」


 ……そして、明斗、どうして、あんたも私の考えている事がわかるの?

 

 明斗は私の考えている事など簡単に読めているようであり、私の持っているお土産のケーキの箱を持つと二階にある私の部屋を指差す。

 明斗の言葉にため息を吐き、私は階段を上がって行くが明斗にまで簡単に考えが読まれている事に納得がいかない。


「さてと、夕飯は何にしようかな?」


 部屋に着くと先ほど、咲耶に罰を与えるために食べ過ぎた事を思い出す。

 線が細いとは言われるが、食べた分、しっかりとお腹は膨らんでおり、少しだけ考えもなしに自分のやった事に後悔しながらパソコンを立ち上げる。

 

 カロリーは抑えつつも食べ盛りの明斗と翔馬がいるからな……


 インターネットをつないでダイエット料理を検索する。

 お母さん、おばさんがいるなら、ダイエット料理を出しても反対意見など無言の圧力で抑えきれるのだが、今日は味方がいない。

 見るからにダイエット料理ですと言う物をだせば、翔馬は食い足りないと文句を言うだろうし、優馬は咲耶の家での事を見ているため、絶対にお説教だ。それに明斗が便乗するとさらに面倒になる。

 

「お豆腐が入ったロールキャベツ? これは作った事がないね。お豆腐はあるし、キャベツも一玉あるし、ひき肉もあるから大丈夫かな? 炭水化物はお肉になるからボクはご飯を減らして……ふむふむ」


 インターネットのなかから、ダイエットの簡単レシピを見つける。

 この間、買い出ししたばかりの冷蔵庫の中味を思い出すと問題なく、これに決めようと思い調理法へと目を移す。

 

「……翔馬が来たね」


 一通り、調理法を読み終えて着替え始めた時、いつものようにインターホンがけたたましくなり、ご立腹の明斗が玄関に出て行く足音が響く。

 その場面が容易に想像でき私は苦笑いを浮かべるとケンカになっても困るため、部屋を後にする。


「ユーマ、翔馬、いらっしゃい」

「姉ちゃん、お邪魔します」

「明斗、玄関で騒がないで近所迷惑だから」


 階段を降りると明斗が翔馬に向かいがなり立てている。

 その様子に優馬は困ったように苦笑いを浮かべているがこの二人の事を止めるのは無理だと思っているのか止める事はしない。


 ……優馬、少しは止めてよ。と言うか、一緒に来たなら、インターホンは優馬が押して欲しい。いや、翔馬の性格を考えると無理か?


 優馬の様子に私は小さくため息を吐くものの翔馬の性格を考えてしまうと無理な事はわかり、明斗を翔馬から引き離す。


「姉ちゃん、入学式の途中で居なくなっただろ?」

「……ごめんね。あまりにつまらなくて」


 居間に移動すると私はキッチンで夕飯の準備を始めるが、翔馬はソファーからキッチンへと視線を向けるとすぐに入学式から脱走した私を責める。

 結ちゃんと遭遇してしまった事もあり、脱走しなければ良かったと言う後悔が頭をよぎるがすぐに結ちゃんの性格を考えれば、今日を乗り切っても近いうちに見つかってしまった事も予想できてしまう。

 私の中では後悔などいろいろなものが渦巻いており、翔馬から視線をそらしてしまう。


 ……そう言えば、入学式から脱走した事でレン兄にお説教を受ける可能性もあるのか?

 いや、レン兄の事だ。私が入学式から脱走する事などお見通しのはずだ。お説教は無い。と思う事にしよう。


 わざとらしく視線をそらしてはやましい事があると気づかれてしまうため、そのまま、冷蔵庫を開ける。

 中から出てくる冷気がレン兄の放つ寒気と一瞬、重なり、怒られる可能性が頭をよぎった。

 背後を伝う寒気にお説教は無いと言い聞かせてお豆腐に重石をして水を切り、玉ねぎのみじん切りを開始する。

 

「姉さん、入学式、見てなかったの?」

「去年と話の内容があまり変わらなくて、つまらなかったんだよ」


 翔馬の言葉に明斗が食いついてしまい、私を責めるような視線を向けた。

 私は思った事を口にすると話を振った翔馬へと非難するような視線を向ける。

 翔馬は苦笑いを浮かべて謝るように右手を顔の前に出して笑う。


 ……翔馬め、話を振ったなら、私をフォローしろ。


 玄関で明斗から助けたんだから、今度は私をフォローするべきだろと思いながらも助けがない事はわかっている。

 明斗の視線から逃げるように私はみじん切りを終えた玉ねぎを耐熱カップに移してラップをかけて電子レンジに突っ込む。


 ……良いレンジは加熱時間とか短いのかな?


 この間、優馬におねだりしてみた最新型のスチームオーブンレンジの事を思い出す。

 翔馬、私の反撃を喰らえ。


「翔馬、そう言えば、バイト代が出たら、ボクに日頃のお礼をしてくれるんだよね?」

「そのつもりだけど、何か欲しい物でもあるの?」

「ネットで最新型のスチームオーブンレンジが諭吉様が十七人(十七万円)で買えるんだけど」

「……バイトは短期なので無理です」


 翔馬は私の反撃に困ったように笑うと首筋をかいた。

 その様子に私は少しだけ気分が晴れ、加熱の終えた玉ねぎを電子レンジから取り出す。


「姉さんは最新型のスチームオーブンレンジが欲しいんだね」

「おい。明斗、流石に短期じゃ、そんな大金を稼ぐのは無理だからな」

「それなら、短期じゃなくて継続させて貰えないか聞いてみる」


 明斗は何かあったのか急いで居間を出て行き、翔馬は彼の後を追いかけて行く。


「ユーマ、何かあったの?」

「深月は気にしなくて良いと思うよ」


 二人の足音に私は一人取り残された優馬に何があったかと聞く。

 私の質問に優馬は苦笑いを浮かべているが、私だけ仲間はずれにされているようで若干、気分が悪い。


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