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第二一話

「ごちそうさまでした」

「……お粗末さま」

 

 昼食とデザートのケーキを4つほどごちそうになった時、流石に優馬の視線が痛くなってきたため、ごちそうさまと手を合わせる。

 咲耶のおじさんとおばさんが作るケーキは絶品だ。

 お小遣いの少ない私としては滅多に食べられないもののため、咲耶の奢りの時には遠慮などしないようにしたい。

 しかし、乙女として、好きな男の子のそんなにどこに入るんだ? と言う視線はかなり痛い。

 そのため、泣く泣く手を合わせた私だが、今回のカロリー摂取がどのように影響するかは考えない事にする。

 それほど、美味しいのだ。


「……こんだけ、食っても胸にいかないのが皮肉なものだな」


 瞬く間に胃の中に消えて行ったケーキと私の様子に顔を引きつらせた咲耶はため息を吐く。


 ……チョコレートパフェとパンケーキも追加だ。


「おじさん、チョコレートパフェとパンケーキ、咲耶の奢りで追加」


 せっかく、手加減をしてやったのに余計な事を言った咲耶へ罰を与えるためにカウンターの中のおじさんに手を上げて注文する。

 おじさんは私の様子に苦笑いを浮かべながらも小さく頷き、フライパンに火を入れる。


「ちょっと、深月、流石に食べすぎだって」

「大丈夫。甘いものは別腹だから」

「……残したら、全額払って貰うからな」


 慌てる優馬に私は最高の笑顔で言う。

 優馬、女の子の別腹をバカにしてはいけないよ。


 咲耶はこれ以上無理だと言いたいのか残して見ろと言う意味を込めて脅しにかかってくる。


「それなら、食べられたら咲耶の奢りでお土産を貰ってくからね。ユーマ、お土産、何にしようか?」

「み、深月、流石にそれはずうずうしいから」


 咲耶、この間、レン兄に捕まった時に見捨てた分もしっかりと返してやるよ。

 不敵に笑う私は昨日の昼休みの事を思い出して更なる攻撃を仕掛けるが、優馬は私の味方をしてくれはしない。


 ……やっぱり、優馬は男の味方か?


 心の中で舌打ちをするとお土産を選ぼうとしない優馬を無視してお持ち帰り用のケーキを選ぶ。

 優馬と咲耶は私の様子に呆れているのか眉間にしわを寄せているが気にしないで置こう。

 私の胸をバカにした罰だ。

 カロリーを敵にしても咲耶には罰を与えるんだ。

 

「……本当に食ったよ」

「当然、さてと、お土産は」

「深月、それは流石にやりすぎだから」


 私はパンケーキとチョコレートパフェを食べきると咲耶はなんと言って良いのかわからないようで眉間にしわを寄せた。

 少しお腹が重たいが、私は執念深い女だ。

 私の残念な胸をバカにした罰はきっちりと受けて貰う。

 口元を緩ませ、メニューを覗き込む。

 優馬はため息を吐くとメニューを私から取り上げる。


「ユーマ、返して。ボクはボクの残念な胸をバカにした咲耶を許すわけには行かないんだよ」

「……自分で残念だって言うなよ」


 優馬からメニューを取り返そうとするが手は届かず、咲耶はこれ以上、奢れないと言いたいようで優馬の手にあるメニューを持って行ってしまう。


「……ちっ」

「舌打ちをしない。それで清瀬さんの事はどうするの?」


 ……逃げられたか?


 咲耶の背中を見て舌打ちをする私を見て、優馬は大きく肩を落とすと結ちゃんの話に戻そうとする。


 ……結ちゃんか? 考えるほど情報も手に入れられなかったし、後輩とは言え、特に関わらなければ良いだけじゃないかな?

 いや、あの子の性格を考えれば学年など関係なく、教室に入ってきそうだ。


 改めて、現状を確認してみる事にし、私は両手を残念な胸の前で組んで首を捻る。


 結ちゃんと咲耶の関係を知れたのは良いけど、身の安全を確保するには全然役に立ちそうにもない。

 そして、結ちゃんの性格を考えれば逃げ切るのは難しそうだ。


 ……あれ? 私、ひょっとして結ちゃんに食べられちゃう?


 背中に冷たいものが伝う。

 どうしよう?

 ……それに何か寒気がする。

 食べすぎで体調を崩したか?


 最悪の事態が頭をよぎる。

 結ちゃんの行動力や勢いを考えるとスキを見せれば私は襲われてしまう可能性が高い。

 咲耶の言う事を信じれば、同性愛者までいかないらしいが、頼りにならない咲耶の事だ。

 結ちゃんを同性愛者と仮定して警戒をするのは間違っていない。

 そうしよう。


「とりあえず、学校では一人にならないようにする」

「そうだね。葉山さんや本宮さんとなるべく一緒に居るようにしなよ。クラスが一緒だとそばに居られたんだけど」


 力なく笑いながら、一人にならない事を宣言する私に優馬は大きく頷く。

 優馬は私の事を心配してくれているようで嬉しいのだが、それはそれで私は優馬のファンの子達に睨まれるんだろうなと言う心配も出てくる。


「菫と葵には事情を説明しておくよ」

「その事ならもう手を打っているから心配ないぞ。深月お姉さま」

「……咲耶、本当にお土産頼むわよ。メニューなんか無くたって、ボクの頭の中にはここのメニューはすべて入っているんだよ」


 同じクラスで親友とも言える二人に協力を仰ぐことは必要な事であり、私は巻き込んでしまうのではないかと言う心苦しいものを感じながらも小さく頷く。

 そんな私の姿に大量に奢らされた咲耶は反撃だと言わんばかりに口元を緩ませて私をお姉さまと呼ぶ。

 その言葉に私は口角を上げ、咲耶を挑発するように笑う。


「……悪かった」

「咲耶、手を打ってあると言うのはどういう事?」

「結の事だからな。二年のフロアに平気で上がってきそうだからな。いきなり、お姉さまと聞かされて引かないように」


 素直に謝る咲耶の様子に私は勝ち誇ったように彼を見下ろす。

 私と咲耶の様子に優馬は大きく肩を落とすと私と咲耶の間に割って入り、咲耶が何をしたかと聞く。

 彼はため息を吐きながら、すでに私が結ちゃんにお姉さまと呼ばれていると言う、できれば隠したい事を面白おかしく菫や葵に伝えているようであり、私はおじさんに視線でお土産を頼む。

 おじさんは私の表情を見て、全てを察してくれたようで小さく頷くとお土産用のケーキを詰め始める。


 ……咲耶、これで終わると思うなよ。


 結局、咲耶は私が結ちゃんに巻き込まれて困っている様子を見て楽しんでいるだけだと理解した私は更なる罰を与えようと決心をした。


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