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第二十話

 私と優馬は入学式の手伝いを終えると咲耶の実家である喫茶店『フェリチータ』へ向かう。

 フィリチータとはイタリア語だったかで幸せと言う意味らしい。

 咲耶のご両親がお客様に幸せな一時を過ごして欲しいと言う事で付けたらしいが、こんな良い人達からどうして咲耶のような腹黒い男が生まれたかが謎だ。


「いらっしゃい……深月お姉さま」

「その言い方、本当に止めて」


 そんな事を思いながら店のドアを開けると私達を見つけた咲耶が出迎えてくれる。

 彼は店の制服であるウェイター服をしっかりと着こなしており、店の中の女の子達が頬を赤らめて彼へと熱視線を送っているのが視界に映った。

 

 咲耶は私達の様子に眉間にしわを寄せるが、私が結ちゃんに気に入られてしまった事も聞いているためかわざとらしく私の事を『お姉さま』と呼ぶ。

 その言葉にいつもなら怒りを覚えるところだが、今の私にそれだけの余力はない。


 なぜなら、私の腕には結ちゃんが抱き付いているからだ。


 優馬と一緒にフェリチータに向かおうとしていたところを結ちゃんに見つかったのだ。

 一度、帰宅をしようとも考えたがそう言っても離れてはくれず、彼女の従兄の咲耶なら結ちゃんを引きはがせるのではないかと言うかすかな希望を持ってここに足を運んだ。


「結、深月と優馬は俺の客なんだ。離れろ」

「イヤです。私は深月お姉さまと甘い一時を過ごすのです」

「そうか? 言う事を聞かないと実家に送り返すぞ。そう言う約束だしな」


 咲耶は私の気持ちを汲んでくれたようでため息を吐くと結ちゃんに向かい離れるように言う。

 しかし、結ちゃんは咲耶を威嚇するように私から絶対に離れないと主張する。

 彼女の様子にげんなりとする私を見て、咲耶は手持ちのカードを一枚切ると結ちゃんは咲耶を睨み付けた後、私から放れて喫茶店の奥に入って行く。

 店の奥には咲耶の家と繋がっているドアがあり、私と優馬はなぜ、結ちゃんが家の中に入って行くのかわからずに顔を見合わせる。


「いろいろ有って、結が月宮に通う間は家で預かる事になったんだよ」

「可愛い従妹いもうとと同棲? ……あんた鬼畜ね」

「変な事を言うな。と言うか、腐女子以外に百合娘になったお前に言われたくはない」


 咲耶は私達をボックス席に案内するとメニューを渡す。

 結ちゃんが咲耶と一つ屋根の下に住み始めると聞き、私だけからかわれているのも面白くないため、咲耶に攻撃してみるが、即座に反撃を食らう。


 ……ダメだ。現状で言えば圧倒的に不利だ。


 そう思いメニューへと視線を移す。


「わかっている。今回は俺の奢りだ。だけど、考えてくれな」


 咲耶に面倒事に巻き込んだんだから、奢りよね? と言う視線を向けると咲耶は大きく肩を落とす。

 こう言う気前の良い部分も見せてくれるから、咲耶は人気があるんだろうなと思いながらもなぜ、彼女がいないのかも不思議に思う気持ちも出てくる。

 

 ……やっぱり、優馬と一緒?


「……おかしな事を考えるな」


 私がまた咲耶が同性愛者なのではないかと疑った時、私の考えを読み切った咲耶は手に持っていたシルバートレイで私の頭を軽く叩く。


 ……やっぱり、私の考えは読みやすいのか?


 注文してしばらくすると三人分の食事を持ってきた咲耶がテーブル席に座る。


「咲耶、あんたもここで食べるの?」

「悪いな。デートさせてやりたいのも山々なんだけど、結の話をしないといけないからな。それに俺も飯休憩をしないといけないんだ。一緒に済ませても良いだろ」


 優馬とご飯と少し期待していた私の気持ちを返せと思いながらも、私も結ちゃんから身の安全を確保するために情報は欲しい。

 自分の考えが外に漏れないように水を飲み、気分を落ち着かせる。


「それで、清瀬さんって……女の子が好きなの?」

「……男嫌いではあったと思うけど、俺が知る限り同性愛の気はなかったと思うけど」


 優馬は周囲を確認した後、同性愛と大きな声で言えなかったようで声量を押さえて咲夜に聞く。

 結ちゃんは同性愛者ではなかったと思うと首を横に振る咲耶。彼も結ちゃんに何があったかわからないようで眉間にしわを寄せている。


 同性愛への偏見は大きいだろうからね。優馬が不安になるのはわかるよ。

 そして、美形の男の子二人の内緒話は萌えるよね。


 人気のある咲耶が同席してしまった様子に女性客の視線が集まっている。

 その咲耶が優馬と内緒話をしている姿はあらぬ誤解を招きそうな空気を醸し出しており、女性客は腐女子的な発想に行きついたのか何かこそこそと話し出している。

 腐女子要素を多大に含む私は近距離の美少年の内緒話に持っていたフォークを落としそうになるが何とか我慢する。

 しかし、この距離だと頭に話が入ってこないのが問題だ。


「深月をお姉さまって言って慕っているって事なのかな?」

「と言うか、なんで、そんな慕われる状況になったんだよ?」

「ボクが聞きたいよ。ボクは助けたつもりもないんだから、明斗から逃げるために廊下を爆走していただけなんだから」


 咲耶から同性愛者ではないと言う情報を得た事で胸をなで下ろしたが、結ちゃんが私の事をそこまで慕ってくれる理由がわからない。

 私はため息を吐きながら、結ちゃんに慕われるきっかけになった経緯を話す。


「とりあえず、廊下の爆走は初めて聞いたんだけど」

「そうだっけ?」

「昨日も言っただろ。深月はおっちょこちょいなんだから、もう少し落ち着いて動かなきゃダメだって」


 優馬には結ちゃんの出会いをちゃんと話していなかった事もあり、優馬は私が男の子達に絡まれそうになった事を聞いて眉間にしわを寄せている。

 苦笑いを浮かべる私に優馬は怒ったような口調で言うが、その様子は口うるさい明斗と若干、重なる。

 ……優馬と明斗が兄弟だと言った方がみんな信じるだろうな。


「深月、聞いている?」

「聞いているよ。咲耶、それでボクはどうしたら良い?」

「とりあえず、あんまり、深月に迷惑かけないように注意はしておく。後は久島先生を怒らせないように」


 優馬の注意を空返事で答えて咲夜にこれからの結ちゃんの事を聞く。

 咲耶は困ったように頭をかくと結ちゃんに話をしてみると言う。


 しかし、咲耶が敵に回したくないのが私よりレン兄の事だと透けて見えるのが悔しいところだね。


 明日から朝に更新します。

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