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第十七話

「終わったね」

「そうだね。本当に入学式を見せて貰えて安心したよ」


 入学式が始まると私と優馬は一先ず、仕事から解放された。

 体育館の二階から見ていても良いとレン兄から許可を得て、少し距離があるけど明斗と翔馬の姿を探す。

 

 明斗は落ち着いているけど、翔馬は落ち着きがないな。


 先ほど廊下で遭遇したため、二人のクラスには当たりが付いており、すぐに二人の姿は見つかった。


 明斗はお世辞にも面白いとは言えない来賓のあいさつをしっかりと聞いているが翔馬は周囲を見回すと私と優馬に気が付き、小さく手を振る。


「翔馬」

「まあ、仕方ないよ。来賓のあいさつってつまらないし、話す事ってまとめてきてあるんだから、もう少し簡潔にまとめられないのかなとは思うよね」


 翔馬の姿にため息を吐く優馬。

 しかし、私も翔馬の気持ちがわかるのだよ。

 去年、私もつまらなくて死にそうだったからね。

 優馬の方が後ろに座っていたから、優馬の顔を見て至福の時間を得る事も出来なかったし。


「だけど……ちょっと、入学式を見たいって言ったのを後悔しているよ」

「ありがたい話って言っても、去年も同じような話を聞いたからね」

「同じようなと言うか、同じだけど」


 正直、来賓の話はつまらない。

 まあ、レン兄曰く、つまらなくても忍耐と言うものを学ぶのに必要な事らしい。


「だけど……限界だ。もう良いや」

「弓永さん、どこに行くの? と言うか最後まで見ないと明斗くんに後でまた小言を言われるんじゃないか?」


 つまらない話を聞いているのも飽きてしまった。

 入学式の始めも見たし、ここから先は来賓の方々のつまらなく内容も去年と変わらない話だ。多少、時事ネタは入ってくるだろうがこれ以上、聞いているのもしんどい。

 体育館を出て行こうとすると優馬が私の手をつかむ。


 ……ちょっと、幸せな気がするがそれでも飽きた。


「ユーマ、後で何かあったら教えてよ。ボクはちょっと出てくるから」

「弓永さん!? ……まったく、あれ、そう言えば、開いている席がある。欠席者がいるのかな? まさか、サボりかな?」


 優馬の手を振りほどくと一目散に体育館を出て行く。


 悪いね。優馬、自分で言うのもなんだけど、私は落ち着きがないのだよ。


 優馬に心の中で謝ると私は無人に近い学校内を歩く。

 しかし、静かな学校と言うのも何か、いつもと違って新鮮だね。


 私と同じく入学式の手伝いを頼まれた生徒達と時折すれ違うもの、校内は静かであり、普段とは違う様子に楽しくなってきてしまい鼻歌を歌いながら歩く。


 屋上でも行ってみようかな? 今日は天気も良かったし。


 天気も良いため、滅多に行く事のない屋上へと足を向ける。

 重いドアを開けるとまだ春先のため、冷たさの残る風が頬を撫でる。


 少しだけ寒いかな? とも思ったもののそれでも日差しが温かくなってきているため、そこまでは気にならない。


 周囲を見回して誰もいない事を確認すると備え付けのベンチへと向かう。

 

 あれ? 電話? 入学式で何かあったかな?


 ベンチに腰を下ろして身体を伸ばした時、制服のポケットに入れていたスマホが着信を告げる。

 入学式で何か有ったかなと思いながらスマホを取り出すとディスプレイには咲耶の名前が表示されている。

 

 なんで、咲耶? 何か有ったかな?


「もしもし、どうかしたの?」

「そろそろ、入学式から飽きて、屋上辺りで休憩している頃かと思ったんだけど」

「お察しの通りだよ」


 咲耶の名前に首を捻りながら、電話に出る。


 ……レン兄と言い、翔馬と言い、咲耶と言い、私の考えはわかりやすいのか?

 いや、それはない。ポーカーフェイスは完璧なはずだ。なぜなら、私には『ボク』がいるんだから。


 咲耶は私の行動パターンが読めているようで私のヒマつぶしに付き合うつもりのようで電話をかけてきたようである。

 咲耶に行動が読まれている事に納得はいかないものの、実際、ヒマなのは事実であり、ため息を吐く。


「やっぱりな」

「それで、電話をかけてきたって事はなんか話題があるんだよね? まさか何もないとは言わないよね」

「何もないな。ただ、聞きたい事として……可愛い女の子はいたか?」


 電話先で苦笑いを浮かべる咲耶に少し面白くない私は面白い話題を振るように言う。

 しかし、咲耶は特に話題を持っているわけではなく、新入生との遭遇の前に新入生のリサーチをしたかったようであり、声の質は真剣なものに変わっている。


「……電話をかけてきたと思ったら、そんな事?」

「重要だろ。お前らと違ってこっちは相手もいないんだ。年下の可愛い子っているのは萌える」

「萌えるって、その言い方だと彼女を作りたいって聞こえないんだけど」


 咲耶の言葉にため息が漏れる。

 私の反応に彼の口調はいつも通りの軽い感じに戻っており、これが咲耶だと思いながらも本当に彼女を作りたいのかと聞く。


「いや、実際はまだ彼女が欲しいって気もしてないけど」

「彼女が要らない? と言う事は……」


 ……まさか、優馬を?


 そんな推測が頭をよぎる。


 咲耶は男の子が好きだから彼女の作らないと言う可能性は?

 腐女子仲間(友達)からも優馬と咲耶が二人で居るのは絵になると聞いているし。

 こんなすぐそばにライバルがいるとはな。


「言っておくけど、俺は女の子が好きだからな。お前の趣味と重ねるなよ」

「重ねてないですよ」

「言っておくが俺は女の子が好きだ。外見だけで選ぶなら巨乳が好きだ」


 忌々しいと思った瞬間、私の考えを読み切っているのか、咲耶は大きなため息を吐いた。

 

やはり、こいつは侮れない。そして、こいつは親友の皮をかぶった敵だ。


 私は平静を装いながら返事をするものの、巨乳が好みと言い切った咲耶へと殺意が漏れる。


「外見だけだとな。彼女にするならそれ以外も見るだろ? っと悪いな。忙しくなってきたから切るわ」

「わかった。そうだ。明斗と翔馬のバイトの件、ありがとうね」

「気にするな。あの二人なら集客率は絶対に上がるからな。後……わかったよ。すぐ手伝う。悪いな。切るぞ」


 電話先にも殺意が溢れて行ったのか、咲耶は電話を切ろうとする。

 それなりに時間も潰せた事もあり、昨日、翔馬から聞いたバイトの件のお礼を込めて感謝の言葉を贈る。

 咲耶は電話先に苦笑いを浮かべて利点もあると言うと何か言いかけるが実家の喫茶店が忙しいようで電話を切ってしまう。


 そろそろ、時間かな?


 咲耶との通話を終えるとスマホのディスプレイで時間を確認する。

 もうすぐ、入学式も終わる時間に近づいており、ベンチから腰を上げた。

 その時、屋上と校内を仕切っているドアが開いた。


「見つけましたわ。お姉さま!!」


 お姉さま? 私以外に屋上に誰かいたかな?


 ドアが開くと長い髪の毛をサイドポニーにまとめた少女が現れて『お姉さま』と叫ぶ。

 私は屋上を見回すが少女と私以外、屋上には誰もいない。


「お姉さま?」

「会いたかったですわ。先ほどは助けていただいてありがとうございました」


 意味がわからずに首を傾げた私に向かい、少女が一直線に駆け出してくる。

 呆気にとられている私に少女は抱き付くが私は妹など持った記憶はない。


 ……な、何なの?


 状況が理解できない私は助けを呼ぼうとするが屋上には私と少女以外には誰もいない。


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