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第十五話

「姉ちゃん、飲み物貰って良い?」


 家に帰り、夕飯の準備をしていると明斗の部屋にいたようで翔馬がキッチンに顔を出す。

 波瀬家は両親共働きであり、弓永家の方はお父さんが雑誌の編集者でお母さんは作家をやっているらしい。

 らしい? どう言う事と首を傾げるだろう。

 らしいなのだ。

 私も明斗もどんなものを書いているかを知らない。

 ただ、若い頃にお父さんの会社に持ち込みに来たお母さんが知り合い。

 その伝手でおじさんとおばさんが知り合ったと言う話だ。

 共働きの波瀬家は小さな子供を二人で家に留守番させておくわけには行かず、自称作家のお母さんのいる家に預けていたのだ。

 そう言う事で翔馬は明斗の部屋にいる事が多い。

 

「姉ちゃん、明日、入学式に来るって本当?」

「そうだよ。って、翔馬、どこでそれを聞いたの? ユーマから?」


 ドタバタと歩いてきた翔馬の姿に苦笑いを浮かべると冷蔵庫からお茶を取り出し、明斗の分も合わせて用意を始める。

 翔馬は私の様子を覗き込んでいたが思い出したかのように明日の入学式の事を聞く。

 私は頷くものの、なぜ、翔馬がその件を知っているのかわからずに首を傾げた。


 翔馬は私がレン兄に怒られた事まで知っているのか?

 さっき、レン兄にそれこそ、年上の威厳に付いてお説教された身だ。

 姉の威厳を守るためにも翔馬に事のてん末を知られているのは避けたい。

 翔馬に教えたのが優馬なら私の恥ずかしいところは隠されているはずだ。

 そんな希望を持って聞く。


「咲耶先輩からメールで」

「なぜ?」


 ……咲耶ヤツか? 間違いなく知らされているな。

 

 翔馬は笑顔で答えるが私としては最も聞きたくない名前だ。

 廊下でレン兄に捕まっていた姿も見られるだけではなく、その痴態をしっかりと写真に撮られているのだ。

 舌打ちをしたい気分だが、姉としての威厳がある。


 そのため、とぼけるように首を傾げて翔馬と咲耶の関係を聞く。

 翔馬は私が首を傾げた姿をなぜかスマホで写していた。


 ……当然、完璧な笑みを浮かべてやったよ。女の子として当然じゃないか。


「いや、レン兄ちゃんが兄貴と姉ちゃんに手伝い頼んだって言う話だよね?」

「そう? 知っているんだ。レン兄にはお世話になっているからね。お願い事をされたらボクもユーマも断れないよ」


 翔馬は首を傾げているが翔馬の事だ。知っている上でとぼけている可能性が高い。

 翔馬は私の扱いを一番心得ている男なのだから油断はできない。


「姉ちゃん、俺が咲耶先輩とメールしていた理由が気になる?」

「少しね」

「実はね。俺と明斗で咲耶先輩のところで短期のバイトで雇って貰えないかって話をしていたんだよね」


 バイトとな? ……女の子か? 女の子に貢ぐ気か? やっぱり、昨日は女の子と一緒だったのか?


 私の顔を覗き込む翔馬に苦笑いを浮かべた。

 翔馬は隠す気ないのか屈託のない笑顔で明斗ともにバイトをしたいと言う。

 

「バイトって、何か欲しい物でもあるの?」

「部活もする気もしないから色々と試して見ようと思って、一先ずはバイトからやってみようと思ってお金にもなるからね」

「そんな事を言いながら、彼女にプレゼントとか?」


 姉として翔馬の目的を聞きたいと言うのは建て前で女の子が関係しているのかが知りたくて前のめりで聞く。

 

 ……流石にがっつきすぎたかな? いや、姉としてここで諦める気などない。


 私の態度に翔馬は苦笑いを浮かべて首を振るが、相手は年下ながらに私の扱い方を知り尽している男だ。

 私は更なる追求をする。


「いや、残念ながら、今のところはそんな色気のある話はないね」


 そう? ……待てよ。同性愛者な優馬の弟だと考えるともしかして翔馬も?

 幼馴染とは言え、改めて、考えると明斗と翔馬は仲が良すぎないか?


 考えてはいけない事を考えてしまう。

 

 確認するべきか? しかし、兄弟そろって同性愛者だった場合、私は今まで通りで居られるか?

 ……当然だ。私は翔馬の姉だ。

 翔馬が同性愛者だろうと偏見など持つわけにはいかない。

 趣味の範疇だからではない。

 ここは強く主張しておく。


「翔馬、確認しておくけど……同性愛者とかじゃないよね?」

「同性愛者? 今のところ、男に興味はないね。明斗と妙な噂を立てられた事があるけどね。俺は女の子が大好きです」

「……迷いなく言うところが翔馬だよね」


 恐る恐る尋ねるが翔馬は迷う事無く答える。

 私はそんな彼の姿にため息は吐くものの、安心して胸をなで下ろす。

 

 優馬みたくどもられたらどうしようかと思って内心、ドキドキだったよ。


「姉ちゃんの部屋にある薄い本みたいな展開じゃなくて悪かったね」

「大丈夫だよ。二次元それ二次元それ三次元これ三次元これと理解しているよ」

「まぁ、言っている女の子達も本気では言ってないよな」

「ああ言うのは趣味で楽しむから良いんだよ。まぁ、そう言う人がそばに居ても咎める気はないけど」


 翔馬は私の部屋に並べているBL本(研究資料)の事を知っており、苦笑いを浮かべる。

 私は優馬が同性愛者だと知った後、彼の味方になろうとも考えて腐女子(そちらの専門家)に色々と教えて貰った。

 その過程で多くのBL本も読んだ。

 

 ……いや、はまってなどいない。そんなわけ、あるわけがない。

 と自分に言い聞かせて日々を送っている。私は腐女子ではないとだけど公然の事実になっているらしい。


「まあ、バイト代が入ったら、姉ちゃんに何か送るよ。日ごろ、兄貴ともどもお世話になっているからね。夕飯とか弁当とか、朝飯とか受験の時の夜食とか」

「……翔馬、あんたにとってボクは食事係か?」


 翔馬は日頃のお礼にバイト代を使ってくれると笑う。

 しかし、その言葉に私は少し引っかかる。


「そう言うわけじゃないって、でも、姉ちゃんの飯は美味いから仕方ない」

「乗せられて置くことにしておくよ。それより、そろそろ、戻らないと明斗がうるさいんじゃないの?」

「そうだね。それじゃあ、今日の夕飯も楽しみにしているから」


 翔馬に笑顔で言われるとなんとなく許したくなるのが不思議だ。

 彼の笑顔につられるように笑うとお盆に乗せた二人分のお茶を渡す。

 翔馬はお茶を受け取るとドタバタと音を立てて二階に上がって行く。


 ……お茶、こぼさないよね?


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