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第十四話

「失礼しました」


 結局、すぐにはボクのテンションが下がらないため、レン兄にコーヒーをごちそうになって一息ついてから生徒指導室を出る。

 

 ……学校でコーヒーメーカーは羨ましい。教室にも欲しいくらいだ。今度、持ち込んでみるか?

 イヤ、去年、電子レンジを持ってきた時は長々とお説教されたし、また、あのお説教は勘弁して貰いたい。


 レン兄はインスタントではなく、コーヒーメーカーを生徒指導室に持ち込んでいる。

 職権乱用だとは思うがたまにごちそうになるため、責める事はできない。

 

 ……一度、コーヒーが飲みたくて忍び込んでガッツリ怒られたけど。

 もう、絶対にしない。

 それだけは強く心に誓った。


 だけど、入学式の準備の手伝いか?

 何をするんだろう?

 父母席、来賓席の準備は午後からやると言っていたし……どちらにしろ。簡単な仕事だろう。


「弓永さん」


 ん? この声は優馬?


 考え事をしながら、教室に戻る。

 その時、優馬の声が聞こえ、ボクは周囲を見回す。

 優馬はボクがレン兄に捕まったと聞いて心配していてくれていたのか、ボクを見つけるなり駆け寄ってくる。

 その姿に飛びつきたくはなるが今はボクだ。

 何とか、湧き上がる衝動を抑えつける。

 何より、先ほど、衝動的に動いた件で形式のお説教を受けた身だ。

 同じ過ちは二度とは繰り返さない。


 ……いや、すでにグラつきそうだ。


 仕方ないじゃないか。そこは可愛い乙女どころだ。


 しかし、優馬との距離が近づくたびに衝動が膨れ上がって行き、うずうずとしてくる。


「弓永さん、今度は何をしたの?」

「……そこにロマンがあったんだよ」

「……昨日、止めたのに。また、本宮さんに迷惑をかけたの」


 優馬はそばに来るなり、ボクの予想した通り、レン兄に捕まったわけを聞く。

 ボクは気まずそうに視線をそらしてロマンだと言う。

 優馬はボクが何をしようとしたか察しがついたようで大きく肩を落とす。


「それで、今回、久島先生は何を条件に出してきたの?」

「……そして、ユーマもボクの事がわかっている」


 お説教の代わりにボクがレン兄の手伝いを押し付けるのは結構多く、優馬はレン兄がボクに何を押し付けたか聞く。

 その様子に若干、気まずくなったボクは鼻先を指でかき、苦笑いを浮かべた。


「明日の入学式を手伝えって、人手が足りないんだって」

「入学式を?」

「うん。これで明斗と翔馬の入学式が見られる」


 優馬に入学式が見られる事を話すとまた表情が緩み始める。

 

 こうやって考えるとボクはブラコンかも知れない。


「入学式か? 弓永さんは見たがっていたからね。翔馬も明斗くんも僕らが入学式を見られないのは残念だって言っていたし」

「良いでしょ。ユーマも見たい? 見たい?」


 口元を緩ませているボクを見て、優馬はボクが心から喜んでいるのを察してくれたようである。

 羨ましいだろうと言いたげにボクは優馬の顔を覗き込む。

 

 ……また、顔をそらしたな。

 悪かったな。見るに堪えなくて。

 良いんだ。後輩でイイ男を物色してやる。

 ちゃんと女の子が好きで優馬以上のイイ男だって絶対に居るはずだ。


 優馬はボクから距離を取り、その態度にボクの胸はまた痛む。


「それは見たいけど、僕は生徒会役員でもないからね」

「見たいなら、ボクが見せてやろう。レン兄に頼めば生徒の素行不良なんていくらでもねつ造できる」

「……弓永さん、おかしな事を言わないでくれますか? そして、何度も言いますが学校内では先生と呼ぶように明日からは二人の弟も月宮学園の生徒になるんですから、示しが尽きません」


 優馬も入学式は見たいようだけど在校生が入学式を見るのは条件がある。

 苦笑いを浮かべる優馬にボクはレン兄が優馬を巻き込んでも良いと言っていたため、優馬に見合った罪状を出して貰おうと笑う。

 その時、ボクの背後からため息交じりのレン兄の声が聞こえた。


 ……どうして、気配を消してボクの背後に回り込む。

 絶対にレン兄は教師なんかより、絶対に暗殺者とかの方が向いていると思うんだ。


 近づいてくるのを気づかせないレン兄に背中に冷たいものが伝う。

 振り合えると笑顔のレン兄が立っているがその笑顔の奥の目は笑っていない。


「久島先生、申し訳ありません」

「波瀬君が気にする事ではありませんよ。ただ、今回の件とは別に後でお説教をしますんで覚えておいてください」

「は、はい」


 優馬に頭を抑えつけられてレン兄に頭を下げる。

 レン兄から新たな罪状が通達されたのは優馬ではなく、ボクだった。

 今度は何を押し付けられるんだろう?

 できれば楽な仕事にして欲しい。


「波瀬君、弓永さんがおかしな事を言っていましたけど、罪状云々は別として、明日の入学式を手伝ってくれませんか? 少し人手が足りないみたいなんで」

「僕で良いんですか?」

「はい。優秀で使い勝手の良い生徒を遊ばせておくのはもったいないですから」


 ボクが肩を落としているのを気にする事無く、レン兄は優馬をスカウトする。

 ……レン兄、普段、笑顔の裏に隠している黒いものがはみ出ているよ。

 だけど、優馬と一緒が良いので余計な口は出さない。

 決して、罪状を追加されるのが怖いからではない。そこは強調しておく。


「そうですね」

「……一緒に居れば、弓永さんに付こうとする悪い虫を払えるかも知れませんよ」

「わ、わかりました。手伝います」


 考え込む優馬にレン兄が何か耳打ちをしている。

 聞き取れないがその後に大きく頷く優馬。

 優馬の承諾を得た事でにっこりと笑うレン兄。


 ……優馬、あんたもレン兄に弱みを握られているのか?

 品性方向な優馬ですら弱みを握られているなら、ボクや咲耶のような問題児がレン兄に頭が上がるわけがない。

 やっぱり、侮れないな……そして、レン兄、こっちを見て口元を緩ませないで本性を知っているボクとしては怖いから。


 改めて、レン兄の恐ろしさに寒気がする。


「弓永さん、波瀬君、そろそろ時間なので教室に行きますよ」

「はい。弓永さん、行くよ」


 きっと、レン兄はボクが何を考えているのかばれているだろう。

 それに気づいていようが気にする事無く、ボクに注意するレン兄は大人だと思う。

 そして、気づいているのかわからないが優馬の笑顔にきゅんとなる私は相変わらず女々しいと思う。


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