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第十三話

「レン兄、勘弁してよ。朝はボクにもいろいろあったんだよ。可愛い妹の事を信じてよ」

「勘弁してよ。じゃないです。まったく、弓永さんはもう少し落ち着いたらどうですか? 後、学校内では久島先生と呼びなさい」


 昼休みに今朝のHRの前の件でボクはレン兄こと久島先生に捕まった。

 言い忘れていたが、久島先生の担当教科は英語、そして生徒指導も兼任している。

 ボクは久島先生の事をレン兄と呼ぶ。

 なぜなら、レン兄はボク達の近所に住んでおり、子供の時からボクや優馬、明斗、翔馬、その他にもボク達と同じ小中学校に通っていた生徒の多くが世話になっていたのだ。

 そのため、小さな頃からのボクの痴態を知っており、絶対に頭が上がらない。

 何とか逃げ出そうとするボクだが、レン兄から逃げ切る事が出来ないのは百も承知だ。

 だから、情に訴えてみる。

 しかし、レン兄はボクの言葉に耳を傾ける事は無く、にっこりと笑うとボクの首根っこをつかんで生徒指導室(彼の本拠地)に向かい廊下を引きずって歩く。

 こうなったレン兄にボクは逆らう事はできずに泣きそうな表情で助けを探す。


 ……咲耶か? あいつは助けになるか? それでも援護は無いより、マシかな?


 ボクとレン兄を見つけた咲耶がこちらを見て爆笑しており、助けを求めようとするがあいつの性格上、頼りになるかは微妙だ。


「深月、今度は何をやったんだ?」

「葵の巨乳(果実)が美味しそうだったんだよ」

「確かに、あれは美味そうだ……ただ、俺は行動に移す事はしないけどな」


 捕まった理由を考えると改めて、女の子としてどうかと思ってしまい目をそらす。

 咲耶はボクに同意を示すが、レン兄の視線が気になったようでスマホでボクとレン兄を撮った後、ボク達に背を向けると脱兎のごとく逃げ出した。


 ……この役立たずが。


 しっかりと二人で並んでピースサインもカメラ目線もできたが、逃げられた。

 ボクは心の中で舌打ちをするが、実際、逃げ出したくなるのもわかる。

 ヤツも同様にレン兄に頭が上がらないのだ。

 何より、レン兄を怒らせるのが怖い。


「まったく、弓永さんはどうして落ち着いて居られないんですか?」

「気を付けます」


 ……だけど、あの柔らかな感触が制服越しだとは腕に伝わってきたら、襲わない方が人として問題があるんだよ。


 ボクは生徒指導室に収監されるとイスに座らせられる。

 レン兄はボクの向かいに座り、ボクの朝の行動についてため息を吐いた。

 気分的には死刑執行を待つ死刑囚の気分だ。それでも助かろうと最後の最後まで悪あがきをし、反省したような表情をして頭を下げる。

 

 実際は、反省などしない。持たざる者が少しでも何かを手に入れるためには迷っている余裕などないのだ。

 たとえ、それが親友の怒りを買う事になっても!!

 それに葵は謝れば許してくれるし。

 

「……反省しているのか? 深月」

「いふぁい、いふぁい」

「反省しているか?」


 だが、ボクの事を子供の頃から知っているレン兄が相手だ。

すでに立場としては教師と生徒ではなく、妹を叱りつける兄になっている。

 ボクの腹の内など簡単に見透かしており、笑顔でボクの頬を軽くつねり引っ張った。

 頬から伝わる痛みにボクは涙目になってしまう。

 もう一度、聞かれてボクは涙目のまま頷く。


「体罰だ。教育委員会に訴えてやる」

「体罰が望みなら、本当にやっても良いぞ」

「……ボクが悪かったです。で、でも、ボクの言い分も聞いてください。持たざる者は持っている者から手助けをして貰わないといけないんです。きっと、葵のたわわに育った巨乳(果実)を食べれば、ボクの貧相な胸をきっと膨らむんです」

「……」


 訴える気などないが、一先ず、非難してみる。

 レン兄はにっこりと笑って返し、その笑顔にボクは背中に寒気を感じて床に土下座をして謝った。

 当然、額は床にこすりつけている。

 

 ……CやDなど贅沢は言わない。せめて、Bまでは行きたいんだ。


 これ以上、レン兄の怒りを買うわけにはいかないが……切実に思っている事だと良い許しを請う。

 この言葉にレン兄の顔は怒りを通り越して呆れたのか大きく肩を落とした。


「深月、お前が胸の事を気にしているのは知っている。だけどな。俺が言って良いかはわからないけど、おばさんの胸も残念(小さい)だろ。お前のは遺伝だ。外部刺激でどうこうなるもんじゃない。諦めろ」


 ……知っているよ。こんちくしょう。


 レン兄は優しげな目をしてボクの肩を叩く。

 実際、そんな事は言われるまでもなく、知っている。

 でも、乙女として諦めきれない事もあるんだよ。


「……まず、乙女だと言うなら、乙女らしからぬ行動をするのを止めなさい」


 ……ダメだ。思考を全部、読まれている。


 レン兄にかかってしまえばボクは無力だ。

 力なく立ち上がり、イスに座り直す。

 もう、ボクは大人しく死刑執行を受けるよ。

 このままだと、ボクは立ち直れないくらいに叩き潰されるから……


「それで、今回の罰は何でしょうか?」

「そうだな。とりあえず、明日の休みを返上して入学式の準備を手伝って貰う。人でも不足しているみたいだからな」

「入学式の準備? そんなので良いの? ……と言うか、レン兄、それを手伝わせるためにボクを呼んだね」


 恐縮した態度で死刑執行を待つ。

 レン兄は罰を言いつけるがそれはボクが考えていたより、ずっと軽く思えてレン兄の表情を見る。

 レン兄はボクの顔を見て笑いをかみ殺しており、これが最初から謀られていた事だと気づく。


「人手が足りないのもあるけどな。休みをつぶす事になるけど明斗や翔馬の入学式を見てやれよ。二人も喜ぶし。何なら、優馬も連れて来い」

「さすが、レン兄、わかっている」

「喜ぶのは良いけど、名目上は罰だからな。浮かれて言いふらすなよ」

「わかってるよ」


 レン兄はくすりと笑う。

 見たかった弟達の入学式が見られるなら悪くない。

 手伝いと言っても当日だけの手伝いなら、そんなに大変な仕事は与えられないはずだ。

 レン兄にこう言うところが好きだ……もちろん、お兄ちゃんとしてだけど。

 喜ぶボクにレン兄はしっかりと釘を刺す。

 しかし、ボクのテンションはすでに上がっており、空返事をして生徒指導室を出て行こうとする。


「……もう少し、落ち着いて行け」

「ラジャー」


 そんなボクの様子にレン兄はため息を吐くとボクの首根っこをつかむ。


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