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ファンタジー小説

もやしびと

作者: オリンポス

読みやすさを意識しました。

「あー。――外に出たくない」

 夏の容赦ない陽射しが、カーテンからもれて。

 そのカーテンからは熱気がもれて。

 その熱気のせいで部屋は蒸れて。

 いまぼくは、すごく不愉快なのだった。

「全く……」

 ふーっ! と。

 大きなため息をつきながら、ぼくはコントローラーを投げた。

「いつまでやっても、いつまでたっても、エンドロールにたどりつけやしねえ!」

 まるで無表情のテレビ画面に愚痴を言ったが、しかしその映像に変化は訪れない。

 当たり前である。

「あー、だるいだるい」

 と。

 軽快なステップで台所に行き、グラス一杯の水を汲んで、テレビ画面に戻る。

 ――最近。

 エアコンの調子が悪くなったせいで、冷風がでない。

 きっとフィルターにほこりがつまっているのだろう。

 除去するのが面倒くさいから、そのまま放置しているが。

 ああ、融解するほど暑いなー!

 漫喫行きてー!

 と、思案しているうちに。

 ふと。

 1台のノートパソコンの存在を思い出した。

 なんのことはない。

 どこの家庭にでも置いてありそうだけど、年代がちょっと古いタイプのパソコンだ。

 財閥のボンボンか、流行に敏感なミーハーかはわからないが――。

 たぶんそんな人が使っていたのだろう。

 近辺の河原に落ちていた。

「株でもやるか!」

 株において。

 成功するのは銀行などの企業が主体である。

 ぼくみたいな個人投資家は。これは素人にいえることだが。

 証券会社のアドバイザーなりアナリストなり雇わないと、儲けるどころか、損をしてしまうことが多いという。

 だがしかし――。

 ジョナサン・リーベットは、とある掲示板に書き込みをし、株価を吊り上げることに成功している。

 当時まだ15歳前後であった。

 その後、米証券取引委員会(SEC)に不正取引の容疑で告発されたが、べつに悪いことなどやってはいない。

「さーてと……」

 ニューヨーク市場とナスダックの値動き、シカゴ市場の日経先物の値動き、各国市場の値動き、外国人投資家の動向、25日移動平均値、移動平均乖離率、TOPIX(東証株価指数)、25日騰落レシオ、ストキャスティック…………の確認完了。

 なんか都合よく、日経新聞も拾ってくることができたぞ!

 ――というわけで。

 株を買った。

 とりあえず、回転売買でもやって、資金をつくらないとな。

 しくじったらナンピンでもするか。損切りはもったいないから。

 早くも弱腰で、100株購入した。

 誤解しないで欲しいのだが、この株は100株単位で販売していたのだ。

 べつに富豪買いでもなんでもない。

 …………。

 さて、さて。

 茶番が済んだところで本題。

 しょうじき株とかはあまり、というか、全然関係がなかったのだ。

「むむむっ。こ……これは!」

 株取引を終え、ネットショッピング中。

「もやしをプランターに植えて育てるだと? た……楽しそうではないか」

 ぼくはさっそく購入した。

 商品名に『もやしびと』とある、あやしげなものを。


 ――20日後。

 ベランダで栽培していたもやしは、すでに芽を出し始めていた。

 しかしながらぼくは「育つの遅くねーか」などとぼやいていた。

「ふつーは、数日で出来上がると思ったんだけどな」

 相変わらずの良いお天気。

 海にでも行って、焼きたい気分だ。――焼きそばを。

 とはいえ。

 海の家の主人が鉄板と材料を貸してくれなかったら、できない相談だけどな。

「さーて、この種はなんだ?」

 商品名『もやしびと』を注文した際。

 プランターでもイチゴパックでもいいのだけれど、そっちにいれて育てる用の種と。

 食用の種が包装されて送られてきた。

 ――前者の方は、さっそくプランターに植えて育てたが。

 ――後者はまだ食べていなかった。

「ドラゴンボールの仙豆みたいな効力があったりしてな」

 くだらない詮索をしつつも。

 パクッと口に含み。

 嚥下えんかした。

 咀嚼そしゃくしたわけではないので、味はわからなかった。

「さーて。暇つぶしにゲームでもやろっかな!」

 テレビのスイッチと、ゲーム機の電源をいれた。

 ――プレイ開始。

 約10秒後。

「飽きた」

 ぼくはコントローラーをテレビに向かって投げつけた。

 …………。

 しばらく沈黙すると、

「さーて、ひさびさに公園でも行くかな」

 家を出て自転車に乗り、近くの公園に駆けだした。

 その公園には、園児の送迎を終えたママ友たちが群がっていた。

 ベンチに座り、ママ友の様子を観察しながら、

「まあ、平日だからな」

 無職のぼくは呟いた。

 空を見上げると、やや曇りがかってくるのがわかった。

 どうやら風向きから考えても。

 雲行きを考えてみても。

 ちょうどぼくのいる公園に差しかかる。

 降られてもまずいから、さっさと移動しよう。

 ぼくは足元の土が、雨で湿っていく様を想像していた。

 ――結果。

 ぼくの予想は的中した。

 通り雨ではあったが、遠慮なしに降った。

 ママ友も途中で察したらしく、いつの間にやらいなくなっていた。――代わりにといっては、ほ乳類と両生類なので無理はあるが、代わりにその場所でカエルが鳴いていた。

「ヘックショイ!」

 くしゃみをするぼく。

 なんだか地面に根が生えたみたいにして、身動きが取れず。

 雨をしのぐこともできず。

 髪の毛をぬらされた。

 ――。…………。

 おやっ!?

 なんか急に元気がわいてきたぞ! すげえ。

 手足を主体とする神経系は。

 全くいうことを聞いてくれないけど。

 なんか調子がよくなった。

 日が落ち。

 夜になり、さらに元気が増した。


 ――翌日。

 ぼくの座っていたベンチに人はおらず。

 代わりに。

 といっては、動物と植物なので無理があるが。

 もやしが。

 生えていたという。

 そのもやしは、人のように大きかったことから。

『もやしびと』と呼ばれるようになったらしい。

 ニートが。

 強さ、たくましさの象徴である。

 もやしになった瞬間だった。

感想いただけましたら、必ずお返事いたします。

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