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第3話

 その夜。

 私は一階のお店の方から聞こえた、コトコトッ、という小さな物音に目を覚ました。枕元の時計に目を遣るときっかり午前一時を示している。俗に言う丑三つ時と言う時間だ。


「……泥棒かしら」


 独りごちてみて、その可能性はほぼ皆無だということを思い出す。

 うちのお店に盗む価値のあるようなものなんてないから。あるとしたら……ドールハウスかしら? でも、骨董的な価値はあまりなかったと思うけど。ベッドから出て階段に向かおうとして、何故か途中で妹とばったり出くわした。


「あら」

「…………トイレ、なの」

「今の音、聞こえた?」

「……おとぉ?」


 妹の意識の半分はまだ夢の世界の向こうのようだけど、一応説明しておく。すると、見る見るうちに妹の寝ぼけ眼がぱっちりと開いていった。


「オバケ! それ、もしかしたらオバケだよ!」


 普通の小学生ならぶるぶる体震わせてベッドに潜っちゃいそうだけどそこは私の妹。この子の好奇心は眠気にも勝る。


「じゃあ、一緒に行く?」

「うん! ……でも、トイレ!」

「はいはい、行っといで」

「それを言うなら、行っトイレ!」


 別にふざけたわけじゃないんだけどなぁ……ま、いいか。

 妹がトイレから帰ってきてから、私たちは忍び足で階段を下りていく。

 しん、と静まり返った真夜中の喫茶店。

 閉じ忘れたカーテンから漏れた月明かりだけが、仄かに店内を白く照らしている。玄関、カウンターと順に視線を動かし、やがて窓際の席で止まる。

 スポットライトかのように差しこんだ月光の下に、小さな人形がちょんと行儀よく座っていた。それは、私がついさっき手入れをしたばかりのあのビスク・ドールだった。


「お姉ちゃん、あんなところに置いたの?」

「まさか。私はカウンターの下にちゃんと仕舞ったわ」

「私、取ってくるね」

「あぁ、ちょっと」


 ぱたぱたっとスリッパの音を立てながらテーブルへと向かっていく妹を追いかけようとして、ふとテーブルの下にキラリと光る何かを見つけて――私は咄嗟に叫んだ。


「止まりなさいッ!」

「いッ!」


 ビクッと体を震わせた後、まるで直定規みたいにピンと体を硬直させる妹。

 私は早足で妹の元へ駆け寄りサッと屈むと、月明かりに照らされたそれ(、、)に手を伸ばした。


「……危ないところだったわね」

「が、画鋲(がびょう)……?」


 このテーブルの下にだけばら撒かれた金色の画鋲。それまるで、妹が駆け寄ってくるのだと知っていて仕掛けた罠のように見えた。

 私は人形の背を鋭く睨みつける。


「うぅ……危なかった。お、お姉ちゃん! 使ったものはちゃんと片付けてよ!」

「悪いけど私じゃないわよ。仕掛けたのは――その子」

「……え?」


 私の指差すものを見て妹が首を傾げる。私が指差したものは、テーブルの上に静かに佇むビスク・ドールだった。


「お、お人形さんが……画鋲を?」

「いい加減、黙ってないで何か言ったらどうかしら、お嬢さん(、、、、)?」


 突然バタン、と窓が開き轟々と夜風を吸い込む。ふわりと舞いあがったカーテン。蒼白く輝く月光の下、人形の首がカチリ、と音を立てて此方に振り返る(、、、、、、、)


「お、お姉ちゃん……!? お人形さんが、動いてる……?」


『……フフフ。フフフフッ。アハハハハハハッ!』


 深夜に響く、(いびつ)で奇怪な声。

 人形らしく無表情な貌に似合わぬ、それは私にだけ届く高飛車な笑い声。

 目の前のビスク・ドールが、ケタケタと嘲笑(わら)いだした。


『惜っしいなぁ。もう少しで妹さんの悲鳴が聞こえると思ったのに、本当に残念』


「もしかしてお姉ちゃん……“声”、聞こえるの?」

「……えぇ」

「この子、何て言ったの?」


 彼女の言葉をそのまま妹に伝えると、途端に妹の体がふるふると小さく震えだした。そんな妹の姿を見て、ビスク・ドールは再びケタケタと笑いだす。


『アハハハハハ! 怖かった? 怖かったのかな? ふふ、怖がる顔って素敵よね。アタシ大好きよ』


「キミ……精霊?」


『んん? アタシ? お姉さんの想像通りなんじゃない? ほら……』


「呪いの……人形」


『フフフッ。驚いた? 怖い? アッハハ。いいなぁ、その顔……あら?』


 すると、いつの間にか妹がテーブルの前に立ってビスク・ドールを静かに見つめている。ここからじゃ後ろ姿しかわからないけど、今も体は小刻みに揺れている。


『なあに? 怖くて泣いちゃいそう?』


 ビスク・ドールが厭味(いやみ)ったらしくて挑発的な態度で妹に声を投げかける。と言っても、妹にその声は聞こえていないのだけれど。


「…………か」


『はぁ? なによ、言いたいことあるならちゃんと言いなさいよ弱虫』


「ば…………」


 握り拳、震わせる肩。

 おっと、あれは妹が珍しく怒ってる。今のうちに耳を塞いでおかないと。


『聞こえないわよばーか。あぁ、もしかしてアタシの声聞こえてない? キャハハ! バーカ、バ』


「ばかああああああああああああッ!!」


『いひゃああああああああああああッ!?』


 激昂する虎の咆哮のような妹の怒号に店中がビリビリと震え上がり、その怒涛の剣幕に負けた人形がコテンとひっくり返ってしまった。私は耳を塞いで難を逃れたけれど、それでも未だに耳鳴りが少し残っている。それほどまでに妹の全力の怒号は強烈だ。

 テーブルの上に転がったビスク・ドールに近づいてみると、彼女は目をくるくる回して気絶しているように見えた。

 ……無表情だから、ちょっとわからないけど。

はい、順調に第三話。

人形が仕掛けた画鋲の元ネタは、とあるアニメです。

えぇ、そのアニメでは三輪車で画鋲を回避してましたねw

これだけで分かる人は……いるのかな?


次話は明日のこの時間。

残すとこあと4話、明日もお楽しみに。

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