4話「爆音がごとく」
………………
宙に舞うゴムに、ロマンを感じている時・・。
ブォオオオオオオオーーンンンーーー!!!!!!
耳に風穴開けられそうなくらい、うるさいエンジン音が聞こえて来た。
こんな遅くに、馬鹿みたいに車を吹かす奴がいるか。
かなりの近所迷惑。
どんだけ頭の悪い不良だ。
と思った時・・。
うるさいエンジン音が、心なしか一層大きくなって来た。
こっちに近づいて来る様な感じがする。
まさか・・。
………………
まさかが、的中した・・。
うるさいエンジン音を放つスカイラインが、俺のアパートの前に出現した・・。
直に聞くと、本当にうるさい・・。
爆音のスカイラインが、俺んちの前に停車した。
俺の頭の中は、嫌な予感で一杯だ・・。
うるさいスカイラインのエンジン音が、やっと止まった。
あの新城蓮が、俺に近づいてから最悪だ・・。
なんで、こんなひどい目に遭うのだ・・。
子供の頃、一回も、万引きさえしたことがないのに。
あっ、一回したことあるわ・・。
………………
予想通りに、バカうるさいスカイラインに乗って来たのは、彼女の親父さんでした・・。
そして、現在、俺の部屋でタバコを吸っている。
俺は、またお茶の用意をしている・・。
なんて、態度のでかい親父さんだ・・。
顔に深い傷があるぞ。
あれは、落書きか。
あの親父さんの放つオーラ力は尋常ではない。
きっと、一公務員の俺では想像の出来ない修羅場を体験してきたのだろう・・。
だから、俺には、あの親父さんに・・。
タバコ吸うな、車うるさいねん、あんたの娘は、
「ハードラックと踊ってるんじゃない」
か、あんたの娘萌えー。
などと、言えるわけがない。
それにしても、あんなゴッツイ親父から、あんな娘が生まれるものなのか・・。
俺は、親父さんにお茶を出して座った。
「おおっ、先生、悪いですな」
と、ゴッツイ親父さんが言う。
この親父・・、タバコを、人のテーブルに押しつけて消してる・・。
しかも、吸い殻をテーブル置きっぱなし・・。
そんな親だから、彼女もこうなのか・・。
あっ、あの小娘、いつの間にか、テレビのチャンネル変えやがった、ちきしょう。
お茶を片手に、親父さんは、例のインプレッサの件を話し始めた。
「昨日は、すいませんなぁ・・」
一応、謝罪してくれた。
ちょっと嬉しい。
壊した本人の娘は、俺のベッドの上で横になってるぞ。
親父さんが来なかったら、俺が仰向けに倒してやったのに。
どうやら、この親子二人は謝罪に来てくれたようだ。
そういうことだったら、予め連絡して欲しいわ。
「あっ、いえ、気にしていませんよ・・」
本当は、気にしてるが、この親子には立ち去ってほしいので流すように言う俺。
「これ、お詫びのもんですわ・・」
と、言って親父さんが、持ってきたケーキの箱を渡してくれた。
ちょっと、これは予想外。
「あっ、すいません」
俺は、ケーキの箱を受け取った。
なんだ、いい人じゃないか・・。
と、俺は思った。
すると、俺がケーキを受け取ったと同時に、親父さんが立ち上がった・・。
「ほな、帰るぞ」
「はーい」
えっ!?
彼女も立ち上がった。
えっ、帰るだと。普通、ここから少し話をしたり、俺が娘さんに注意したりする場面ではないのか。
ちょっと、マナーとして、おかしいぞ。
俺は、車壊されて、ケーキ受け取って終わりかい。
そう思っている隙に・・。
「おじゃましました」
バカ親子二人が、部屋から颯爽と出て行く。
唖然として、俺は、口を開けたまま、二人を見送った・・。
勝手に車を壊され、勝手に部屋に入られ、勝手に謝罪して帰る・・。
まさに、外道!
……………
また、あのうるさいスカイラインのエンジン音が聞こえてきた。
たぶん、ここから去ったのだろう。
俺は、あの二人の常識のなさに金縛り状態だ。
とりあえず、ケーキの箱を開けてみる・・。
ショートケーキ、一切れだけだった。
俺は、思った。
教師やめよう。
………………
つづく