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フレイム・ウォーカー  作者: エスパー
グラステッド山脈編
106/122

序章 絶望の淵

長らくお待たせ致しました。

新章『グラステッド山脈編』いよいよスタートです!

では毎回恒例のあらすじをどうぞ♪( ^ω^)_凵



『グラステッド山脈』――。

 そこはかつて、『精霊大戦』の舞台となった特別な場所。

 意図せぬ形でボルガに呼び寄せられたディーンは、拐われてしまったリネとアウィンを奪還するべく、ジェイガ、ルーシィの二人と共に行動を開始する。

 次々と立ちはだかる『精霊指揮者ゴースト・コンダクター』の面々に苦戦を強いられ、徐々に劣勢に追い込まれていくディーン達。

 そんな少年少女らを救ったのは、姿を消したはずの『彼ら』だった。

 一方『内通者』を炙り出す為、一人『首都』へ帰還したジン。

 真実を掴む為奔走する彼を、しかし予期せぬ事態が襲う。


「ジン・ハートラー。現政権に仇を成す反逆者として、貴様の身柄を拘束する」


 北の大地と大陸の『首都』。

 遠く離れた二つの舞台で、大きな二つの争いが、始まる。


 絶望とは、例えば何を差すんだろう。

 大切なものを失う事。望まぬ未来が訪れてしまう事。

 かつて全てを失ったあたしにとって、絶望とはどこまでも暗く、陰惨で、恐ろしい存在だ。

 どこか一ヵ所でも歯車が、運命が狂えば、『それ』は容易く姿を現す。

 人が人である限り、感情という名の心を持ち続ける限り、それはいつまでもあたし達に付き纏い、どこまでもあたし達を苦しめ続けるんだ。

 人は本当の意味で、絶望には抗えない。抗う力など持っていない。

 絶望を、闇を、経験しない人なんていない。


 だけどそれでも、だからこそきっと、人は絶望に抗おうとするんだ。


 例えそれが、無い物ねだりの愚かな行為だったとしても、人はきっと……『彼』はきっと、そんなに諦めが良くない。

 それがあたしの知ってる、ディーン・イアルフスと言う人間だから――。




 眼が覚めた時、そこには異様な光景が広がっていた。

 巨大な身の丈を持った屈強な岩壁に囲まれた、半径三十メートル程の広間のような空間。その中心に、まるで太陽がすぐ眼の前で輝いているかのよう眩しい光放つ『何か』が、吹き抜けの先、蒼く染まった天空に届きそうな勢いで屹立している。

 意識が覚醒し、漸く思考が追い付き始めたあたしは、広間の中心にある『それ』をもう一度注視してみた。

 思わず眼を細めてしまう程の光を発している『それ』は、水晶のように透き通っていて、表面には不規則な形で凹凸が出来ている。

 一瞬何らかの鉱石なのかとも思ったけど、周囲を取り囲む巨大な岩壁をも優に超えるその身の丈から考えると、とても『石』とは呼び辛い。随分昔に読んだお伽噺の絵本に出てきた、雲の彼方まで伸びる大樹みたい……。

「……一体何なの、これ……」

「『召霊石』」

「!」

 背後から聴こえてきた声は、どこか悠然とした雰囲気を持った男の人の声だった。

 あたしが振り向こうとする間にも、続け様に紡がれる言葉が広間の中に反響していく。

「『精霊』をこの世に現出させる糧となる、まさしく神聖なる霊石の名だ。……どうだい? 実に美しいだろう? これからこの世界に、破滅と終焉を齋す光とは思えない程に……」

「ボルガ……、フライト……!」

 あたしの視界に映り込んだのは、声色から予想した通りの人物だった。

 雨雲を連想させる灰色の髪に、闇夜のように黒く塗り潰されたローブを纏った、『精霊指揮者ゴースト・コンダクター』の首領。

 ディーンと同じ、『炎髪』一族の生き残り。

 自然と口が動いて、彼の名前を呼ぶ形になってしまったあたしの言動をどう受け取ったのか、ボルガはどこか嬉しそうに再び語り始める。

「キミと言葉を交わすのも久しぶりだね、リネ・レディア。それともここは敬意を評して、『妖魔』の末裔と呼ぶべきかな?」

「どういう事……? どうしてあなたがここにいるの……!?」

「……なるほど。どうやらまだ記憶が混乱しているようだね。勘違いを正しておくが、私がキミの前に現れたんじゃない。キミが客人として私の前に呼び寄せられたんだよ。……そこで気を失っている少女と共に」

「……! アウィンさん!」

 ボルガの言葉に促される形で視線を巡らせ、そこであたしは初めてアウィンさんの存在に気付いた。地面にうつ伏せの状態で横たわる彼女は、固く瞳を閉じたまま動く気配がない。

「アウィンさん……! どうしたんですかアウィンさん! しっかりしてください!」

 彼女の傍らに近付いて身体を二、三度揺すってみても、反応は返ってこない。代わりに口を開いたのは、涼しげな表情で佇んでいるボルガだった。

「心配はいらない。『移動術式』の影響で、意識が混濁しているだけだ。キミと同様に、しばらくすれば眼を覚ますさ」

「……? 『移動術式』って……」

 言葉の意味を理解しかねて首を傾げそうになったあたしは、今更のようにハッとした。

 そっか……、そうだよ。確かあたし、『蒼司』一族の集落でアウィンさんと話してた時に、今と同じようにボルガの声を聴いて、その瞬間変な白い光に包まれて、それから……。

 戻り始めた記憶を辿っているあたしを他所に、ボルガは一歩一歩踏み締めるような足取りで、自らが『召霊石』と呼んだ巨大な柱に向かって歩み寄っていく。

「すでに気付いている事とは思うが、ここは『蒼司』一族の集落ではない。『グラステッド山脈』――。かつて『精霊』が召喚された特別な場所だ」

「……どうしてあたしとアウィンさんを、こんな所に?」

「理由は二つある」

 短く告げながら立ち止まったボルガは、『召霊石』の表面を右手で艶かしくなぞる。そして数秒の沈黙を挟んでから、ゆっくりとこちらを振り向いた。

「一つは対話の為。私自身『同じ力』を持つ者として、キミ達とは一度ゆっくりと話しておきたいと思ってね。少々強引な方法で私の許まで招かせてもらったという訳さ。そしてもう一つは――」

 と、言葉を区切った瞬間だった。

 不敵な笑みを浮かべながら話していた彼の表情が、一瞬で冷徹な、寒気を感じる程のものに変化したのは。


「『彼ら』を誘き寄せる餌として、キミ達を利用する為」


「……!?」

 その瞳の奥に垣間見える、底知れない悪意と敵意。

 相手の負の感情に呑み込まれたあたしは、自分の身体が鋼鉄の鎖で雁字搦めにされているような錯覚に陥り、まともに動く事が出来なくなった。

 今までディーンの前に立ち塞がり、『敵』と呼ぶべき存在になって、悪意や敵意を振り撒く人は何人もいた。

 だけどこの人は、今までのどの相手とも比べ物にならないくらい、負の感情の強さが違う。

 まるで光の届かない水底のような、どこまでも暗く、どこまでも重い色。直視するのを躊躇ってしまうような、不安と恐怖を煽る色。

 どうしてここまで、相手を抑え込めるだけの負の感情を発する事が出来るんだろう? どうしてここまで、冷徹な表情を浮かべられるんだろう?

 あたしも過去に辛い経験をしたからわかる、なんて軽はずみな言葉は、きっとこの人には通用しない。

 全ての事象に、理由があると言うのなら。

 ボルガ・フライトと言う人間が、人格が、存在が、こんな劣悪な形に形成されてしまった原因があると言うのなら。

 この人は一体、過去にどんな経験をしたって言うの……?

「――! おっと……。どうやら客人のご到着らしい」

 ボルガの生い立ちに、自分でも説明不可能な興味を抱いてしまった、まさにその時。彼の背後で異変が起きた。

『召霊石』から発生し続けている眩しい光。それが一定の間隔で、規則正しく明滅し始めたのだ。

 まるであたし達に……ううん、ボルガに何かを伝えようとしているかのように。

「大命を背負う者として私を止めに来た、か……。やはり予想通りだ。例え何があろうと、キミなら必ず現れると思っていたよ。こうして『召霊石』が共鳴を起こしているのが、その証拠だ。そうだろ?」

 天高く(そび)える霊石を肩越しに見上げ、ゆっくりと愉悦に塗れた笑みを浮かべながら、ボルガは確かに言い放った。

「ノイエ・ガルバドア……!」

 かつて『魔王』を倒した『英雄』にして、『二重属性者(ダブル・ファクター)』と呼ばれる、偉大な『魔術師』の名を。


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