第1話 入学初日、桜並木で人を探してる君
今日、2026年春。突然の自己紹介で申し訳ないが僕の名前は松野空気。名前の通り空気的な存在でコミュ障で空気的存在として扱われてきた。そんな僕は憂鬱だった中学を乗り切り地元から離れた念願のさいのたま高校に入学することができた……。
そして、入学初日から友達ができ、可愛い女の子と知り合いになり、クラスラインに入れてもらう……あぁ、なんて素敵な学校生活なんだ……
と僕の描いた入学式は一切なく。入学式はサラッと終わり、クラス交流の時間も大体が地元で固まってワイワイしていた。地元から離れた僕にとってはもちろん知り合いはおらず席で地蔵になるしかなかった。その後簡易的な自己紹介チャンスがあったが……趣味の時に何をいえばいいのか分からず無言のまま過ごしてしまい良くない印象を与えてしまった……。
今の僕が何をしているかと言うと、自己紹介のことがフラッシュバックするのを避けるため桜並木の下を何往復も練り歩いている。
「そういえば、桜って人いたなぁ……」
僕は自己紹介でたしか……なんとか桜さんって名乗っていたキリッとした長髪ロングのマドンナ的な人を思い返していた。僕はそんなことを言いながら少し桜並木から外れたベンチに腰をかけた。
「確か日本史とか時代劇が好きとか言ってたな……」
そんな風に呟いていた時、僕の目の前に衝撃的な絵面が映し出された。
「はぁ……はぁ……あの二人は違う!!! んーもう!!! 歳の差カップルってやつが邪魔すぎるんだよおおおお!!!」
「は?」
僕の目には僕と同じ高校の制服を着た黒髪ロングの一人の少女が桜の木にしがみつき桜並木を歩くカップルを睨みつけている光景が映し出された。
「はぁ……なんでこの学校の人はそういうのやらないのかなぁ??? 早くしろって言ってんだよ!!! 原稿の筆折れかけてるんですけど!?」
少女は桜の木をFPSの弾幕避けのよう顔をブンブンと左右にだし桜並木を歩く人を凝視しながら見た目からは想像できないような声を荒げていた。
「え……えぇ……?」
彼女は凄まじい殺気と覇気を放ち、僕はベンチで目を丸くする以外の行動ができなかった。
「あの人がいないと……グス、あの人を見つけないと困るのよっ……」
彼女がそういうと、彼女は突然地面に泣き崩れた。その瞬間、周囲の殺気と覇気が一瞬に弾け飛ぶ。顔はよく見えなかったが、そこに泣き崩れていたのは純粋な少女のように見えた。
「よし……」
僕は自己紹介で失敗した分何か良いことをしたかったのかも知れない。気づいた時には彼女の前に立っていた。
「あ、あの大丈夫ですか……?」
僕はゆっくりと泣き崩れる彼女に手を差し伸べた。
「ごめんなさい……大丈夫よありがとう……」
彼女は僕の手を思いっきり掴み立ち上がり、ポケットからハンカチを取り出し顔の涙を拭っていた。
「何かあったんですか……?」
「あの人を探してるのよ……」
彼女はまた少し殺気と覇気を放ちながら桜並木を睨みつけていた。
「あ、あの人って……?」
「パパよ……」
「あ、パパ……?」
「そうって言ったでしょ、あの人は現れてはすぐ消えちゃう……私の目線を置き去りにして……」
彼女はまた泣き始めハンカチを顔に強く押し付けながら桜の木に体を預けるようにして手をつけていた。
そうなれば、僕にできることは一つかも……
「よかったら、僕があなたのパパさんを探すの手伝いましょうか?」
僕は人見知りのせいでうまく声は出せなかったが震える声でなんとか彼女に問いかけた。
しかし、返ってきた言葉は僕の考えていた返答とは大きく異なった。
「あの……私のパパじゃなくて……彼女たちのパパだから……」
彼女はまだ顔をハンカチで隠しながらそう言った。
「ん……え?」
一瞬僕の思考が完全に停止した。が冷静に考えると姉妹のことを彼女たちって言ってるのかもしれない!英語のSheと似たような使い方をしてるんだな!と思い僕は笑顔を作り返答した。
「あ、妹さんとかの分まで探しててすごいですね〜」
中学でコミュ障キングと言われた僕としては100点満点の返答だったと思う、相手が彼女じゃなければ……。
「は? だから彼女たちって言ってるでしょ?」
彼女はハンカチから目だけを出して僕のことを全力で睨みつけていた。
「え、それって……? 友達とかの協力をして人探しをしてるってことですか……?」
「違うわよ!!! パパ活してる人たちを探してるのよ!!!」
彼女は声を荒げて僕に向かって怒鳴った。
「は?」
脳のキャパオーバーということはこういうことなのだろうと身をもって実感した。そして、僕は考えることから逃げるようにして意識を手放した。
それからどのくらいたったのかわからないが彼女の声が頭上から聞こえた。
「やっと起きたみたいわね。」
目を覚ますと僕の体は横になっていて頭の下に何かクッションのような柔らかいものがあるような感触がした。
「ねぇ、あの聞こえてる?」
「うわぁ!?」
彼女が先程の怒号とは全く異なる優しい声を出しながら僕を覗き込むような形で見てきた。のだが、彼女の顔はメイクと涙の夢のコラボレーションのせいでぐちゃぐちゃになっており、大阪にある某テーマパークのハロウィンナイトイベントに出てくるガチゾンビみたいな顔に見えてしまっていた。
「ぎゃあああああああ!!!!」
僕はなんとか声を荒げて逃げようとしたが彼女の拘束により逃げることができなかった。
「はぁ……あのね?せっかくこっちは一肌脱いで枕まで用意してやってるんだからさもうちょっとこう、感謝とかないの?」
彼女はため息をつきながら僕のほうを軽くつねった。
彼女にそう言われた瞬間、僕の脳に昔ラブコメで見たシーンがよぎった。『先輩! どうですか? 私の膝枕……気持ちいいですか?』あのシーンのアングルはこの見下ろしアングルだったはず!!!つまりこの枕は確定で…!心の中で期待を胸に叫びながら頭の下の膝枕(?)を両手で触りに行った。
のだが、固い。固すぎる。触ると固すぎる。
「あ、それさっき拾ったコロコロ。」
彼女はあっさりと僕の夢を破壊したと同時に間接的に雑誌のコロコロの偉大さを僕に伝えてくれた。
「あ、てかさ……君私と同じ高校の制服着てるよね? もしかして、新入生?」
彼女は涙でぐちゃぐちゃのメイクのまま僕の顔を覗き込み質問してきた。
「え、あ……はい……。一年二組の松野空気って言います……」
「あ! だと思った! あの自己紹介で失敗してた人だよね!」
彼女は渾身のドヤ顔をしながら僕のことをじーっと見てきていた。
「なんで知ってるんですか……?」
もしかしたら僕の醜態が他のクラスまで知れ渡っているのでは?と思い念のため彼女に聞いた。
「え? 同じクラスだからに決まってるじゃん! ほら、桜木桜!」
彼女は胸を張り完全にドヤ顔を僕に見せつけていた。
「え? 桜木さん……?あのクラスのマドンナって言われてた?」
「そうよ」
「え? 時代劇とか日本史が好きな?」
僕は彼女があの桜さんだとは信じきれずネットのbot確認のような質問を何度もする。
「あー、そうねそう言ったわね……」
「え? なんでそんな歯切れが悪いんですか……?」
「確かにね日本史とか時代劇も好きなの……でもね、本当は昔の春画が大好きなの……」
彼女はそういうと即座に頬を赤らめ顔を手で隠した。一連の流れは乙女のようだったが言っていることは江戸時代のエロガキである。
「え? じゃあ清楚みたいな売り方してるのは……?」
「あぁ、まぁ側だけ? なんかこーバレると色々めんどくさいしさ!」
「パパ活探してるのは……?」
「あぁ! エロ漫画描いてるのよ! それもこう下手したら消されそうなハードなやつ! いやー本当は援交とか描きたいんだけどね! パパ活がギリセーフらしいんだよ……まぁ、制服コスって体にすれば……」
桜木はよくぞ聞いてくれました!とばかりの顔をし意気揚々と華の女子高校生とは思わない単語を連発する。
「ねぇ……環ちゃん本当君ってかわいいよね……食べちゃいたい。」
「えー、もうやめてよー! 雄介のバカ!」
桜木が語っていると桜並木を歩いている50代の男性とうちの高校の制服を着ている女子高生が楽しそうな会話をしながら並んで歩いていた。
「パパ活だ!!!」
桜木はそう叫ぶとギリギリあちらの視界に入らない桜の木の裏にしがみつきガン見しながら高速でスマホにフリック入力していた。僕も少しだけ気になったため、体を起こしベンチから桜並木の方をチラチラ見る。
「ねぇねぇ! 今の見た!? あれが令和のPAPAKATU!だよ!!! はー、あのおっさん臭そう……あの女の子いいな美味しそう……最悪の匂いサンドイッチに挟まれて鼻壊して死にたい……空気もそう思うよね?」
彼女は同情しないと殺すぞという目で僕のことを笑顔で睨んできたため僕はこの無茶苦茶な彼女の性癖に肯定することしかできなかった。
「あ、うんそうだよね……」
「だよな! いやー、高校ではエロ漫画家ということ隠そうとしてたんだけど空気みたいなドスケベな奴と出会えるとは! あ、でも一応内緒にしといてね……あんまりバレると清楚売りにヒビが入ってカースト激落だから……」
彼女は僕が肯定した瞬間に強く手を握りぶんぶんと上下に動かしにこやかに笑った。状況が状況なせいで素直に嬉しいと受け取ることができなかったがこうやって女子と握手をしたのは初めてだったため嬉しかった。
「じゃ、LINEそのIDだから追加しといてー! じゃまた明日ー!」
「え、うん……桜木さんじゃあね……」
彼女は困惑する僕にLINEのIDとコロコロを渡しにこやかに手を振り返って行った。帰宅すると僕は彼女のLINEをすぐに追加したがアイコンはエロゲの行為シーンで名前は『ドスケベ桜太郎』というエロ漫画家すぎる名前だった。こうして僕の入学初日は、女子とLINEが交換できて嬉しいという気持ちとその女子がとんでもない変態だったという気持ちで完全にパニックなまま終了した。
そうして、僕はいただいたコロコロの枕を嬉し涙と悲し涙で濡らし寝むりについた。
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