青白いホース
ハァ、ハァ、ハァ、ハァ…
男は走っていた
女と走っていた
ホースの中を走っていた
「お兄ちゃん、よかったの?」
「よかったんだ、これで」
「外へ出て、よかったの?」
「これでいいんだ」
男は小人であった
女ももちろん、小人だ
ぼくらに住む家は無い
「お兄ちゃん、私たちどこにいるの?」
「本によると、蛇の腹の中だ」
「蛇の腹?」
「あぁ、外へ出るには、蛇の腹をこえないといけない」
「何にもないね」
「とにかく走るんだ」
青白い蛇の腹
夏の太陽が照りつける
すると、踊り出した
蛇が踊り出した
グルグル、グルグル
蛇は締め付ける
グルグル、グルグル
夏の空気を締め付ける
「お兄ちゃん、動き出したよ」
「あぁ、本の通りだ」
「どうなるの?」
「とにかく、しがみつくんだ」
「わかった」
グルグル、グルグル
蛇は、最後の力を振り絞る
ヒューーーーーー
おさまった
蛇は力尽きた
夏のコンクリートは、熱湯だ
「お兄ちゃん、おさまったね」
「あぁ、本の通りだ」
「このまま走ればいいの?」
「あぁ、そうだ」
「頼もしいお兄ちゃん」
小人は走る
ホースの中を走る
ただひたすら、走る
チュー、チュー、チュー
腐りきった眼
伸びきった尻尾
ギザギザの歯
追手のねずみだ
「お兄ちゃん、食べられちゃうよ」
「だいじょうぶだ」
「本当に?」
「あぁ、もうすぐ出口だから」
「そうなの?」
「あぁ、もうちょっとだ」
小人は走る
とにかく走る
チュー、チュー、チュー
ねずみも走る
小人を追いかける
蛇の腹は、お腹いっぱいだ
「眩しいッ」
鋭い光だ
小人はまぶたを閉じた
そして、まぶたを開けた
「お兄ちゃんッ」
「あぁ、これが外の世界だ」
ランチをする女子大生
日陰で休む犬
昼休憩の花屋
「お兄ちゃん、外に出れるね」
「あぁ、この穴から飛び下りれば」
すると、動き出した
青白いポロシャツ
蛇の腹のようなポロシャツ
花屋の店員だ
蛇口に手をやった
蛇口をひねった
そして、ホースを手に持った
勢いよくスイッチを押した
ブシャーーーーーー
あっという間の出来事であった
外に出るのは、儚かった
コンクリートに、水しぶきが上がった
「お兄ちゃん、何があったの?」
「分からない、本に書いてない」
「追手かな?」
「いや、追手は撒いたはず」
「そっか」
「そんなことより、前を見てみろ」
小人は降りたった
外の世界に降りたった
思い描いていた世界
ワン、ワン
ワン、ワン、ガオ
ワン、ガオ、ガオ、ガオ、
ガオーーーーーーーーーッ
外は残酷だ
小人は逃げ回る
灼熱の下、逃げ回る
犬はひたすら吠える
待っていたかのように
獲物がやってくるのを、待っていたかのように
ブーーーーーーーーーンッ
回り続けるタイヤ
鳴り響くエンジン
息の詰まるガソリン
プチッ
ブーーーーーーーーーーンッ
夏の太陽は見ていた
ワゴン車は通り過ぎた
小人なんて誰も知らない




