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第九話 助けたい

へるぴょんと申します。

沙也の身に何が・・・・

笑いが少ない回です。


「あれ〜? なんで部長と八重子が一緒にカラオケから出てくるんですかぁ?」

背後から、間延びした声が飛んできた。

振り返ると、片手に缶チューハイを持ち、ふらふらと千鳥足で近づいてくる沙也の姿。

頬は赤く、目は潤み、笑っているのにどこか焦点が合っていない。

「獅子堂くんが、悩みがあるって言うんでね。相談に乗っていたんだよ」

矢野は即座に“上司モード”を発動。部下を助けるのは上司の務め――と、勝手に自分の中で正当化している。

「別にカラオケですることないんじゃないですか?」

痛いところを突かれ、矢野の口元が引きつる。水野沙也、容赦なし。

「し、仕事の悩みが……」

八重子は思わずどもった。

この状況で何を言っても言い訳がましく聞こえる。

“仕事”という言葉は万能ではない。時と場合によっては、むしろ疑念を深める。

「えー、私にも言えない事なの? すっごいショックなんですけどぉ」

沙也は酔っているせいか、絡みがしつこい。

八重子は内心でため息をつく。

矢野は一瞬考え込み――「まぁまぁ今日はこの辺で」と言い残し、突然走り去った。

「……は?」

呆然とその背中を見送る八重子。

――殺す! レオン!!!

胸の奥に、黒い殺意が芽生える。


「何してたか、聞かせなさいよ」

今日の沙也は、いつもよりずっとしつこい。

それよりも――その足取りが危うい。

街中で酒を片手にふらつく沙也など、見たことがない。

「ちょっと、大丈夫? 飲みすぎじゃないの?」

声をかけながら、八重子は眉をひそめる。

頬の赤み、乱れた呼吸、そして――服の乱れ。

ボタンが一つ外れ、ストッキングは破れ、髪も乱れている。

胸の奥に嫌な予感が走る。

八重子は小声で呪文を唱え、沙也の全身を鑑定した。

――無数のあざ。

腕、肩、足……隠しきれない痕跡が浮かび上がる。

「……どうしたの、沙也。そのあざは?」

問いかけた瞬間、沙也は無言で泣き崩れた。


その時、矢野が戻ってきた。手にはペットボトルの水。

逃げたのではなかった――沙也の様子を察し、水を買いに行っていたのだ。

さすが元勇者、人の変化を見抜く目は鋭い。

「こんな場所じゃ落ち着けないな」

八重子は沙也の肩を抱き、矢野と二人で支える。

「大丈夫? もうすぐ私の家だから」

ただ、八重子の部屋が一番近かった――それだけの理由で、三人は夜の街を急いだ。


部屋に着くと、八重子は沙也をベッドの横にそっと座らせた。

矢野が持ってきたペットボトルの水を手渡し、八重子は「ゆっくり飲んで」と声をかける。

沙也は震える手でキャップを開け、少しずつ喉を潤した。

「……何があったの、沙也?」

八重子はもう一度問いかける。

矢野も、黙ったまま心配そうにその様子を見つめていた。

沙也の肩が小刻みに震えている。

八重子は毛布を取り、そっと肩にかけ、自分の肩を寄せて座った。

やがて、沙也が重い口を開く。

「……以前、飲み会で知り合った人とデートしてたら……たくさんの男に囲まれて……逃げてきた。その人も仲間だったみたいで……家もバレてるかもって思ったら、怖くて帰れなくて……嫌なこと忘れたくてお酒飲んで……人が多いところにいれば安心かと思って歩いてたら……八重子がいて……」

言葉の途中で、涙が頬を伝った。


「待て、ハチ!」

矢野が八重子の手を掴む。

「向こうの世界とは違うんだ」

八重子が立ち上がり、今にも飛び出そうとするのを必死に抑える。

「私の親友に手を出した……絶対に許さない」

八重子の声は低く、怒りで震えていた。

次の瞬間、彼女の身体が淡い光に包まれ、魔法によって戦闘服へとフォームチェンジする。

その姿に、矢野は息を呑む。

理解はできる――だが、ここはもう“あっち”ではない。

この世界で無闇に力を振るえば、取り返しのつかないことになる。


「警察に任せよう」

矢野が提案する。

「沙也の身体の傷、心の傷……警察は信用できない」

八重子の言葉は鋭い。

日本の警察は優秀だが、捕まえても刑は軽く、被害者の心情に寄り添わないことも多い。

何より――自分の親友を傷つけた相手を、自分の手で裁かなければ気が済まない。

「レオンにもわかるはずでしょ。あなただって……私が殺されたあのとき、どれだけ怒りに呑まれたか」

八重子が矢野の胸ぐらを掴む。

「……わかってる。だからといって、軽率に行動していいわけじゃない」

矢野ははっきりと答える。

「俺たちの力は、こっちの世界では――」

しかし、八重子の目を見た瞬間、それ以上の言葉が喉に詰まった。

その瞳には、燃え盛る怒りと、深い悲しみが同時に宿っていた。


沙也には、二人の会話の意味が理解できない。

八重子が自分を気遣って怒ってくれていることはわかる。

だが、「死んだ」とか「向こうの世界」とか――意味不明な単語が飛び交う。

八重子はここにいるし、死んでいない。それに、いつの間に着替えたのか。

……コスプレ趣味なんてあったっけ?

混乱しながらも、八重子と矢野の介抱で少しずつ呼吸が整っていく。


「沙也……絶対に、こんな目に合わせたやつを許さないから」

八重子は沙也を強く抱きしめ、耳元で囁く。

「ありがとう、八重子……でも、危ないことはしないで。私が遊び回ってたから、こんなことに巻き込まれたんだよ」

沙也は、八重子が何か危険なことをしようとしていると察していた。

「レオン、止めないで!」

八重子の声は重く、決意に満ちていた。

矢野は、その表情を見て悟る。

――もう、誰にも止められない。


ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます。次回も楽しんでもらえるよう頑張ります!

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