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天使に喰われたオーディナリー  作者: 猫飯 みけ
第7章 魔滅旅団
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Angel 96 魔を滅する者Ⅵ

「——お前はなんだ?」


 サタンは直人を鋭い眼光で見つめている。

 今までは気にも留めなかったただの人間。それがかすり傷とはいえ負傷させてきた。下に見ていた存在に寝首を搔かかれた、この異常な事態に動揺している。


「あの程度の鉛玉で……この俺が?」


 サタンの異常なまでの威圧感に押されながら、直人は乾いた口を開く。


「安心しろ。拳銃なんてお前からしたら当たることはない代物だ。普通ならな。その認識は……何も間違っちゃいない」

「普通? ――なら何故だ。この痛みや熱さは現実のもの。お前からはこのイカレた人間のような圧は感じない。ただの人間、ただの劣等種族。そのはずだ。お前は……いや、お前には何が《《棲んでいる》》?」

「俺が知りたいよ。あいにくまだ教えて貰ってないんでね。コイツには」


 右目のフォルトゥーナは未だに分からないことが多すぎる。能力も、そもそもなんで人格を持っているのかも……。


「そうか……なら確かめるまでだな」


 先程までの疑念の混じった瞳は、明確な敵対心に代わっている。これはかんばしくない状況だ。サタンと正面切って戦える自信は全くない。あくまで認識外からの攻撃や奇襲……そういった小細工交じりの土俵でないと勝ち目は————ない。


「認識を改めよう。お前は十分な脅威になりえる。その芽、早めに摘ませてもらう」


 その言葉に内心苦笑いした。直人がしたのは所詮かすり傷。それで脅威とは


「随分と……過大評価だな」


 サタンが黒い翼を羽ばたかせ飛翔してくる。この速度……どうやっても間に合わない!


(いくらなんでも早すぎるだろ! ここまで何メートルあると思ってんだ!)


 セラに鍛錬の相手をしてもらったり、人造天使アンジュ・デシュと対峙したりしてきたが、実際にここまでの速度は体験したことがない。高速化される思考の中、数十もの可能性を模索する。どの選択をとっても先にあるのは死ばかり。良くて腕が吹っ飛ぶか、足が吹っ飛ぶか。どちらが良いか最悪の選択を迫られているみたいだ。


 先ほどのシュテルクストの言葉が思い出される。


『君は防御面では既に常軌を逸していた』


 クソッたれと、心の奥底で罵倒する。この程度で? もっと速く動けたら、もっと周りが見えていれば、もっともっともっともっともっともっともっと……強ければ。


(何が脅威だよ。本当にそうならこんな事になってねぇよ! クッソ、どうすれば……もう死ぬわけにはいかないんだよ! セラに……言わなきゃいけないことが、聞かなきゃいけないことが!)

『――変われ。今のお前みたいなじゃかないっこねぇよ』

(敵わないだ? そんな事分かっている)


 目の前にサタンが迫っている……もう、間に合わない。


「直人!」


 シュテルクストが叫ぶと同時に彼の刀が目の前に連なっていた。サタンの速度を上回り、辛うじて斬撃を止めてくれている。先ほどまで突き刺さっていた刀がひとりでに瞬間移動したようだ。


(……結局誰かに助けてもらわなきゃまともに戦えないのか)

『こんな時に卑下してんじゃねぇよ。変われ……俺はこいつに借りがあんだよ。俺はお前の一部だ。《《お前がいなきゃ俺も生まれなかった》》。だから俺を使い尽くせ!』


 フォルトゥーナの覇気のある声は久しぶりに聞いた。珍しく怒っているのが分かる。


『本当はまだ取っておくつもりだったんだけどな……さぁ、魔双銃装デュオバレットを解け。俺が全部片づけてやる。……早く俺を呼べ。《《死にたくないんだろ?》》』


 サタンが刀を押し切り再び迫ってきている。さっきまでの俺はバカだ。プライドに固着して悩んでいる場合じゃない。左目を手でふさぎ、自分の意識を奥底に落としていく。思えばフォルトゥーナに身を任せたのはいつ以来だろうか。なんだかんだで、無理やり主導権を奪われたことがない気がする。


(……分かった。俺の身体を使うんだ、絶対に負けんなよ)

『……』


 無視をしているのか返答はない。……いや、緊張しているのか? あのフォルトゥーナが。


(返事くらいしろよ……? 心配になんだろ)

『直人————悪いな』

(何の話だ……?) 


 フォルトゥーナがしおらしく謝るだなんて気味が悪い。


『今までのこと全部だよ。真名まなを黙っていたことも、身体を間借りしてることもな。正直まだ力も感覚も戻っちゃいねぇが、もったいぶる訳にはいかなくなっちまった。お前が死んだら何もかも終わりだかんな』

(だからどういう事だよ。力……感覚……?)

『まぁ、見てれば分かる。そうだな、手始めに俺の名前を教えてやるよ――いえ……真名まなを伝えるのにこの言葉使いは失礼でしたね。雨宮直人』


 今までの乱暴な言い草はどこかへ行ってしまった。まるで教会の信徒たちのような丁寧さがある。ますます意味が分からない。


『さぁ、私の真名まなを呼ぶのです。再び私がこの世界に舞い降りる時……その始まりなのですから』


 真名まな……こいつの名前。何も知らないはずなのに、自分の意思と反して口が動いてしまう。まるで昔から知っていたような。

 あぁ、そうだった……こいつは


「――――――――《《テュケー》》」

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