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Angel 88 またいつか

 直人の治療が終わると、カーディナルは転移用のゲートを開いた。以前目の前に現れたものとは様相が違う。今浮かび上がっているものは、大きく神秘的な扉が浮かんでおり、その中は眩く光っていた。

 エルブラムは扉の前で立ち止まると、こちらに向かって手招きをした。


「一緒にいかがですか? 送りましょう」

「いや、俺はいい――寄るところがあるからな」

「そうですか……ではまた。遠くないうちに会えるでしょうね」

「あぁ」


 扉は音もなくすっと閉じていく。

 静寂に包まれた中、一息つき周囲を見渡すと人造天使の部品や、飛び散った血痕が目に留まる。これだけで戦闘の壮絶さを物語っていた。インフラ整備も済んでいないこの街では、復興までかなりの時間を有するだろう。これはまた骨が折れそうだ。


「ノンデリ……いや、ナオト」

「なんだ改まって。お前がそんなにうつむいてると気味が悪いぞ」

「気味が悪いって、ボクを一体なんだと思っているんだ」

「随分と夢見がちな、ワガママ気質の自己矛盾野郎だと思ってるよ」


 シェルミールはこちらを軽く睨むと、わざと聞こえるように大きく舌打ちをした。そんな馬鹿みたいなやり取りに平穏を感じ、少し心が落ち着いた。


「――なぁ、ナオト。お前は……その、なんていうか」

「歯切れが悪いな。今は怒るほどの元気は無いから言ってみろ。得するかもしれないぞ」


 シェルミールは迷いながらも口を開く。


「――ボクたちのことを憎んでいるか?」


 思いがけない問いかけに直人はふっと笑ってしまった。


「そりゃあ相当に憎んでいたさ。天使がmagicaを作って、大切だったものを奪われて……」

「――ご、ごめ」

「だけどそうじゃなかった。magicaとお前たちは無関係だし、なんなら俺を護ってくれた奴もいる。だろ?」


 未だに気持ちの整理はついていない。エルブラムが話した全てが真実だとも限らないし、教会が美月に絡んだ事実だって変わらない。天使に対する先入観や怒りが全て消えたわけじゃない。


 ただそれ以上に、今はアドナイに対する怒りが。元をたどれば、こんな状況に仕立てたアバトー・クレデヒノフに底知れない感情を抱いている。論理的に考えると、自分も自己矛盾を起こしていた。未だにきな臭く思っているエルブラムの発言を、頭では半信半疑でも感情としては信じてしまってるのだ。


 自己矛盾など、シェルミールに対して言える立場では無い。


「少なくともシェルミール、お前には感謝してるよ。お前がいなかったら俺は死んでる。結局俺は何もできていない」

「そんなことない――ボクこそありがとう、な。ボクだけじゃこんな結末にはならなかった」


 本気のシェルミールなら人造天使アンジュ・デシュにも勝てただろうが、それでは彼女本人が納得しないだろう。


「それこそお前の力を全て消せなかったんだから、不満を垂らしても良いところだぞ」

「いくらボクが《《ワガママ気質》》だからって、そんなコト言わないよ」


 2人揃ってニヤッと笑う。周りの惨状から見るに、全てが良しとは言えないが、最悪の結末だけは防げたのだろう。これがメルヘンなお話だったら、この世界の主人公のような人間が都合よくフラッと現れて、みんな幸せな結末に導くものだろうが、現実はどうもほろ苦い。


「さて、帰るか」

「ノンデリに帰るところなんかあんのか?」

「呼び方戻ってるし……居候させてもらってんだよ」

「……マジ? その家主も大変だな〜ボクならこいつが家にいるだけで気が狂うぞ。間違いなく」

「言っとけ」


    ***


 1ヶ月も経つと道路の瓦礫は撤去され、メインストリートには露店も出始めた。被害の多かった区域では、倒壊した家屋や、瓦礫を積上げた空き地が未だに目につく。完全な復興には程遠いが、少しづつ元の生活が戻りつつあることが感じられた。


 直人は家の前に落ちている瓦礫を持ち上げ、代車に載せる。土煙が巻き上がり目をしかめた。これで周囲はあらかた片付いた。


 不幸中の幸いだろうか、ニーナたちの家の被害はほとんど無い。中が土煙だらけになったり、水が出なくなったり。資産とも言える家がそのままの形で建っているのは、かなりの幸運と言えるだろう。


「頃合か」


 直人はボソッと呟くと、空き地にドサッと瓦礫を運び入れ、綺麗になった家に戻る。少ない荷物をまとめリュックに詰め込んだ。傷だらけになった特注のスーツはもう着られないだろう。直るものでもないだろうが、これを捨ててしまうのも気が引ける。今まで自分の命を繋いでくれたものだ。粗末に扱いたくはない。


「ナオト、もう行くのか?」


 ヴィルダが寂しそうに笑いながら声をかけてきた。


「あぁ、もう1人で歩けるからな」

「にしても随分と急だな。うちは明日の朝でも……何年いても構わないぞ。男手があると助かるんだ」


 静かに首を横に振る。するとヴィルダはやれやれと肩をすくめるだけで、それ以上は何も言わなかった。


「何してるの? お父さんもナオトくんも。そんなところで立ち止まって」

「いや、その~なんだ」


 突然後ろから現れたニーナに対し、ヴィルダが困ったようにあたふたとしている。ただ「家に帰る事」を伝えるだけなのに、口の中が乾いてしかたがない。


「……ニーナ。俺はもう行くよ」

「行くってどこに? 市場? だったら私もいっしょに行くよ。そろそろ買わなきゃいけないものも多いしね」

「違うんだ、そうじゃない」

「——じゃあどこ!」


 ニーナの語気がだんだん強くなっている。焦っているのか、口元が震えているのが分かった。恐らくニーナは分かっている。そのうえで認めたくないのだ。


「帰るんだ。俺の家に」

「なんで」

「俺はもう充分休んだ。いや、休みすぎたんだ。それにやるべき事も見つかった。ここの生活が嫌なわけじゃないが、もう進まなきゃいけない」

「ダメだよ。戻っちゃダメ。ず~っとここにいるの」

「ニーナ……」


 気づけば彼女の目からは大きな涙が零れ落ちていた。


「だって、私知ってるもん。あんなに辛そうなナオトくんを知ってるんだもん。あんなに思い詰めて動けなくなって……そんなに追い込まれる場所なんて戻らなくっていい!」


 何の言葉も出てこない。確かに辛く苦しいことが多かった。なにも知らずに、ただ一人のために戦っていた。それがやりたい事だったから、後悔はない。確かにもう関わらなければ平穏に生きていけるのだろう。

 でもそれは自分が許せない。襲ってきた焦燥感の正体はこれだ。このままでは、自分自身も、美月との日々さえも否定してしまう。それは嫌だ。


「めんどくさいでしょ? 自分でも分かってる。せっかく前に行こうとしてるのに、私は感情に任せて子どもみたいに泣いてる。でもね? 本当に行ってほしくない。だって……好きなんだもん!」

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