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Angel 84 アンジュ・デシュⅦ

 ロロネイは自分の目を疑った。業火は不条理なまでに人造天使アンジュ・デシュの身体を大きく削り取っていく。全損ではないものの、最高傑作ともいえる代物しろものがこう何度も大きく破損するとは思っていなかった。

 

 人造天使アンジュ・デシュは天使と同等程度の戦闘力があるというのに、おされている現状の方が不自然だ。この目の前の青年たちが《《異常》》。そうとしか思えない。


「お前たちは……」


 先ほどの銃撃といい、この業火といい……。こんな未開拓地にいていい奴らじゃない。今日は人造天使アンジュ・デシュの試運転だけのはずだった。ただ自分の作品の性能に笑みをこぼすだけのはずだった。


「――なんなんだ!」


 こうしている間にも人造天使アンジュ・デシュは再生していく。だというのに自分の精神状態は乱れたままだ。心臓が心を急かすように、身体の中から強く叩いてくる。


人造天使アンジュ・デシュ! 早くしろ!」


 人造天使アンジュ・デシュの攻撃は見たことの無い奇っ怪な術で全て止められる。人造天使アンジュ・デシュの出力が落ちたのか? ——確かに適性体にかかっている負荷を考えれば、多少の低下はあるはずだ。だが、まだ天使と少しはやり合える位の力はあるはず。であるのならば……。


「まだ終わっていなかったのですね、カーディナル」

「主が何故ここに! 危険です、お下がりください!」

「大丈夫ですよ。あなたは神経質すぎます。少しはケルスィを見習っても良いかもしれませんね」

「——今はあの人の名前を出さないでください」


 奴らの後方から従者を連れて女が現れた。白い礼装を身にまとい、目元にも綺麗な布を巻いている。それに羽とヘイロー、紛うことなき——原体の天使だ。

 

「お前は……はは、そういうことか。ならお前たちがイスケールの言っていた聖派正教会だな……」


 イスケールからこいつの存在を聞いたことがある。アドナイですら警戒する必要があるエルブラム。そいつが率いる聖派正教会が相手……だがこんな所で止まる訳には行かない。


 俺はまだ世界にこのロロネイ・ヴァイタリアーノという存在を知らしめていない。勘違いしたままの馬鹿どもの認識を、改めさせてやらねばならない。


「あら、よくご存知ですね?」

「あぁ、興味はなくとも知っているさ。俺の上でふんぞり返っているお前らをな!」


    ***


 ロロネイは鬼の形相で直人たちを睨んでいた。威勢は良くとも、彼が持てる手段などたかが知れている。――言ってしまえば聖席はただの研究者だ。コーマンに戦闘力などは皆無であるし、アルゴーの時のウォータースも適性のないmagicaで無理やりに戦っていた。


「雨宮直人。今のお前でもロロネイくらいは捻れるだろ?」

「――愚問だな」

「なら少しは働け。主の手をわずらわせるまでもない。俺らだけで片付けるぞ」

「ごちゃごちゃとうるさいな。言われなくても、今やろうと思ってた所だよ」


 カーディナルに挑発されるままに、直人はゆっくりと口角を上げながら前に進む。

 

「ノンデリ……」


 シェルミールはずっと直人を気にかけていた。明らかに限界を遠の昔に超えている。これほどにまで力を酷使した人間を1人知っている――その力の根源が再び自分であることが心憂こころうい。


「お前はエルブラムとの再会でも楽しんどけ。それにしては物騒な会場だけどな」


 直人は振り返らずロロネイの方へ向かっていく。


「シェルミール、彼らなら大丈夫ですよ」

「……え?」

「私にはしっかり視えていますから」


 エルブラムは2人の青年の背中を見つめ、にこやかに笑う。その意味がわからないシェルミールでは無かった。


「お前たちはアイツの攻撃を防いでくれ。俺は少し集中する」

「「承知しました」」


 信徒たちはカーディナルに攻撃が届かないように結界を張り続ける。彼らにはカーディナルが何をしようとしているのかは自明だった。


 想像する。この世界にある力の根源……magica、天命、天使の力。どんな能力であっても《《大元の源流》》と言えるのはただ1つ。そんな事実や原理なぞ知らなくとも、現象さえ引き起こせられればそれで良い。


 願うは人造天使アンジュ・デシュの拘束。それも、天使ですら捉えられるほどの脅威的なスケール。紐や手錠などの拘束具では足りない。人類だけでは生み出せなかった規格外の拘束術式。この世界において異質な存在のみを抑え込むことが出来る力。この天命がある時点で、天命が主から授けられたものでは無いことが分かる。なぜなら、主がその異質な存在だからだ。


「レストレイントユニヴァース」


 周囲の空間に満ちているエネルギーがこの一点に集中し、白く不気味な手が無数に現れる。それは人造天使アンジュ・デシュの全身を掴み、組み伏せるかのように地面に押さえつけた。


 先程まで優雅に宙を舞い、余裕をみせていた存在が腕から逃れようと必死に足掻く様は滑稽にすら見える。表情を変えない不気味さは癪に障るが。


「――バニッシュ」


 パタンと、カーディナルが聖典を閉じる音と共にすべての白い手が握りしめられ、人造天使アンジュ・デシュの四肢をもいでいく。高音の叫び声が奏でられ、周囲に響き渡る。


「この程度で天使を名乗るとはおこがましいな」

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