Angel 79 アンジュ・デシュⅡ
「天使! そう、その通りだ! これは人が天使の領域に踏み込んだ一歩目……。たった唯一、人類に示された進化への道筋。それがこの人造天使、新人類と呼んでもらって構わない」
(――ロロネイ・ヴァイタリアーノ……!)
銀髪の少女の後ろから姿を現したのは、コンフェッサー、ロロネイ・ヴァイタリアーノだった。赤の長髪をたなびかせ、誇らしげに前に出てくる。直人は睨みを利かせるが、彼はこちらに興味は示さなかった。紅の瞳にはシェルミールしか映らない。
「そこのお前……混じり物か?」
ロロネイは目に止まったシェルミールを舐めまわすように、下からじっくり眺めている。
「ボクはシェルミールだよ。名前くらい知っているだろ? ゲスやろう」
「あぁ……なんだ、逃げ出したフメテノの作品か。興味が失せた」
「へぇ〜、天使に興味が無いなんて科学者《ゲス共》にしては変わってるじゃん」
「興味? ある訳が無いだろう。俺は天使自体に興味はもうない。あるのは“どうしたら人間が天使になれるのか”だ。この人造天使が天使や人間に変わって新人類として新たな時代を築いていく。君ら天使でさえ過去の遺物だ」
人造天使を観察すると、その羽に付いた瞳に目がいく。全てが別の色の光を宿しており、虹のように輝いていた。
(もしかして……全て別のmagicaなのか?)
少女は今まで見てきた実験体と同じように、感情や意識がないまま動いているように見える。脳がmagicaの処理能力に追いついていない証拠だ。ロロネイが腕時計に目をやると眉をひそめた。
「――ふむ、あまり話している時間はないか。人造天使、排除したまえ」
人造天使の瞳の1つがギョロっと動き、直人を見つめた。光の粒子が瞳に集まっていく。それはレールガンとも思える弾速で直人の頬をかすめ、凄まじい破裂音と共に背後が爆発した。高音で溶けたように、床のタイルは赤くなっていた。
(おいおい……そんなのありかよっ!)
周囲に散らばる瓦礫からみるに、これが人造天使の主な攻撃手段だろう。これ一つだけで充分脅威だと言えるが、目の数から見るに他のmagicaが無数に宿っているはずだ。
「本質はボクらと違うけど、確かに……純粋な力なら匹敵するね」
「そんな呑気に言ってる場合か!」
「ほら、頑張ってよけなきゃ溶けて死んじゃうぞ〜」
「お前もデリカシーねぇな!」
なりふり構わず内界解放と幸運因子を最大出力で動かし続ける。
「へぇ〜ノンデリなのに動けるんだね」
「お生憎様これが限界だよ!」
必死に飛びまわる直人に対し、シェルミールは目に見えないシールドを片手で貼り、光線の全てを簡単に防いでいた。
「それ、こっちにもくれよ!」
「無理だよ。ずっと力を行使してないからか全然出力がでないんだ。ノンデリの周りにまで貼る余裕は無し」
「あーそうかよ!」
安置と思えるシェルミールの背後に飛び込み、地べたに座り込んむ。荒い息を整えながら、人造天使を再び眺める。光線が出ているのは1つの瞳からだけ。他も光ってはいるものの、何ひとつとして変化は見られない。
だとしてもこの弾幕を交わして攻撃を与えるのは至難の業だ。
「どうやって近づけば……」
「そんなの簡単だよ」
「――何か策があるのか!」
あっけらかんと答えるシェルミールに、直人は期待に胸を躍らせる。流石は天使だと心の底から思った。
「策? いや、だからノンデリが天使に並ぶほど強くなれば良いんじゃないの?」
「――俺はただの人間だ! そんなことが出来たらはなっから苦労してねぇ!」
そんなことが出来るのはプロメテウスの元リーダーかシュテルクストくらいだ。無理に決まっている。
「お遊戯会はもう良いか? 人造天使、出力を上げろ」
人造天使は再び光線を射出する。だが光線の軌道はシェルミールのシールド避けるかのように放物線を描きながら曲がって飛んでくる。
「本当になんなんだよ!」
直人はシェルミールの後ろから離れ全速力で路地裏に走っていく。直人を逃すまいと、光線は器用に角を曲がり追ってきていた。
「追尾もあんのかよ!?」
光線は直人の足元に着弾すると、凄まじい爆風をあげた。風圧で吹き飛ばされ背中を壁に強打。まともな受身が取れなかった。ゆっくりと立ち上がり、口から零れた血を拭う。
「魔双銃装でも躱しきれないか……」
『無理だな。それこそ何かで機動力を増すか、防ぐ方法がねぇとな』
「だろうな……」
シェルミールとの距離が離れてしまった上に、自動追尾してくる光線。直人の身を護るものはもうない。
「やっぱりシェルミールを説得するしかない……のか?」
――直人は自身の拳銃と、その弾丸を眺めていた。
***
全身にかすり傷を増やしながら元来た道を戻ると、シェルミールは無傷で立っていた。無数の光線を全方位から喰らっているが、その全てを防いでいる。やろうと思えば人造天使に攻撃する余裕もありそうなのにそうしない。自衛はしても攻撃する気は無さそうだった。
「生きてたんだノンデリ」
「シェルミール、本当に戦う意思はないんだな」
「無いよ」
「なら聞くぞ。さっき死んでもいい……とさえ言っていたお前が 、なぜ自分の身を守っている? それは戦っている内にはいらなのか」
シェルミールの表情があからさまに変わった。直人を軽蔑するような視線を送ってくる。
「――ボクに何が言いたいの?」
「持て余しているその力を俺に寄越せって言ってんだよ……」
「は? そんな事……!」
「簡単な話だって言ったのはお前だろ? 俺が《《天使に並ぶほど強くなる》》。まぁ確証もない賭けだけどな」
直人はシェルミールに手を伸ばす。そして2つの瞳を、今まで見た事のないほどに強く光らせた。両目から血が流れ、酷い頭痛が直人を襲う。それでも力の行使を辞めることは無かった。
「内界解放」
『幸運因子』
2つのmagicaは互いに対立することも無く対象に向かって伸びていく。




