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天使に喰われたオーディナリー  作者: 猫飯 みけ
第5章 過去紀行録 Z
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Angel 60 月光奪還編Ⅱ

 戦いの様子を見ていたリーダーはいつもと打って変わり、真剣な眼差しをしていた。そしてボソッと、


「いつの間にここまで……これじゃあ必要ないかな」


 と聞こえない声量で呟いた。直人は立ち上がり、リーダーの方を見る。自分の成長を確信し、気持ちがはやっているのが分かる。


「リーダーやりましょう」

「ん〜……やっぱいいや」


 彼はヘラヘラ笑って、踵を返す。自分から誘っておいて、断ることに腹はたつ。だが、それ以上に彼とまた戦える……その期待を裏切られたような気がした。内容によってはまた一つ大きな自信になる。そしてなにより――


(俺はこの男に勝ちたい)


 magicaを手に入れ、コントロール出来ようになった。そんな今の自分で、適わないかもしれないただ1人の人間。


「――俺に負けるのが怖いのか?」

「安い挑発には乗らないよ。シューターじゃないんだから。そんな血気盛んに見える?」

「じゃあなぜ俺と戦ってくれない!」


 リーダーはひとつ、小さなため息をつく。


「冷静に考えなって。確かに誘ったのはこっちだよ。それでもそんなやる気になっている君は異常だよ。戦いに魅入られてはいないかい?」

「――その何が悪い」

「人間として命に関わる行為に執着するのは、生物的に間違っているよ。恐怖が正しいはずさ」


 ――だから何だと言うんだ。美月を救い護るためには強くなくてはならない。それこそ、誰にも負けないほどの強さを。

 

 そんな大義名分を得てしまった。

 平凡だった高校生が、突然戦いでの才能を開花させた。更に軍の同期で敵はおらず、少尉まで駆け上がった。

 ……気づかないうちに壊れてしまったのだ。もう彼は戦い以外で自分の存在を肯定出来ない。誰かと争い、勝つことでしか生きていけない。


「それに、俺の目的は君のmagicaを強くすることだった。だけどシューターとの戦いを見るに、その必要も無くなっているみたいだし」

「――試させてくれ……いまの俺はどこまで戦えるのか」

「ふーん……この俺を指標にしようってわけね。うんわかった、いいよ。その思い上がりを……ぶち壊してやる」


 2人は中央に向かって歩き出す。

 直人は拳銃を握りしめた。


「……頼むぞ」


 リーダーはこちらを冷たい視線で見つめる。まるで今までの彼は偽物だったかのような殺気。反乱組織のリーダーを務める男が、常時ヘラヘラしている方がおかしかった。

 

 どちらが本性なのだろう。 

 

内界解放リベラシオン

炎神奏古プロメテウス


 開幕直後に生成される圧倒的な熱量は、鋭利な形を持ち始める。加速される世界の中で見える無数の炎の剣。それらは一瞬で直人の周りを囲む。退避する余地すらない速度で、空間を自由自在に飛んでいる。


(早すぎるだろ……!)


 内界解放リベラシオンで回避するルートを探る。自分の身体能力で可能な最大限の挙動を計算し、それに炎の剣の予想される軌道を当てはめていく。


 ――無い。どの可能性を探っても、結末は死であることに変わりはなかった。たった1度の攻撃で"すべての可能性"をつぶされた。……詰み。その単語が脳裏をよぎる。


 走馬灯になってしまった内界解放リベラシオンの内で、ただただ迫りくる熱気を感じることしか出来なかった。


『すべての可能性? 笑わせてくれるじゃねぇか』


 ――突如として脳に響く不快な声。

 外から聞こえる声とも違う、自分の中から湧き出てくるイメージと、声とが入り交じった不可思議な感覚。


『良いか直人。俺を使え……お前を死の淵から救いあげてやる』

(突き落とすの間違いじゃないのか)

『得体の知れないものに力を借りるのがそんなに怖いのか』

(あぁ……怖いね)


 この声の主はコーマンに貰った新たなmagica。目が覚めてから1度聞いたきり、現れることは無かったというのに、何故か今になって突然でてきた。


『……それは予想してなかった応えだな』

(じゃあお前、自分の正体を明かす気があるのか? まさか《《天使》》だとでも言いたいのか?)

『そいつも違うね。ひとつ言えるのは、俺はお前の力でしかない。簡単な話だ。お前が死ぬと俺も消えちまう。だからお前に死なれちゃ困るわけだ』

(損得で決めようってのか)

『そっちの方がお前には分かりやすいだろ?』


 直人のことをよく理解っている。


『俺を使えばお前は生き長らえる。俺を使わなければお前は死ぬ。なら答えは1つだろ?』


 選択の余地などは無い。だが、1つ聞いておかなければならないことがある。


(お前を使うと……俺はどうなるんだ)

『どうなる? そんなもの、使ってみればわかるさ。さぁ、俺の名を声に出しな』


 以前コーマンから聞いたmagicaの名前。それを口にしようとすると、何故か戦慄わななく。この純粋な恐怖の出所はどこなのか。


 直人は、体を震わせながら口を開く。案外すんなりと、文字列は口から発せられた。それも違うものとなって!


「……幸運因子フォルトゥーナ


 か細く消えそうな声が、千歳ちとせのように感じるほどの流れの中で、すっと呑まれるように消えていく。


 身体そのものが、暗く見えない底に落ちていく錯覚。直人という存在が曖昧になり、霧のように散っていく。意識は確実にここにある。それだと言うのに身体と空気の境目が消え去った。今まで自分の身体をどのように動かしていたのか思い出せない。


 直人の身体は、自身の意思と関係なく勝手に動き出す。


『可能性は――あるぞ?』


 この身体を動かしているのは直人では無い。ソレは右の手のひらを前に突き出し、空を掴む。


 無数の炎の刃は不自然に機動を変え、彼を避けるように飛翔する。

 ただのひとつも当たることはなく、彼は無傷でその場に直立する。


「これからが、俺の新しい《《神話》》だ」

 

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