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天使に喰われたオーディナリー  作者: 猫飯 みけ
第5章 過去紀行録 Z
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Angel 54 プロメテウス編Ⅱ

 参謀はそう言うと、一行は雑居ビルの一階に移動した。

 こちらは二階よりもさらにがらんとしていて、その広さはダンスホールを彷彿とさせる。


「ヘリーネさんはリーダーを起こしてください」


 巨漢に担がれていた金髪の男は、そっと床に置かれ、先ほどの女性に蹴られている。ゲシゲシと数回嬲なぶられると「うぅ……」と唸り声をあげた。


「もう少し寝かせてくれよ……」


 男は床に座り大きなあくびをしている。目の下のクマが眠たそうだ。


「雨宮さん、こう見えて彼が私たちのリーダーです」


 扱われ方と言い、態度と言いまったくもって上に立つものの風貌ではなかった。上司との距離感が近いのは、ある意味でアットホームな職場と言えるかもしれないが……。


「――んぁ? 君は……加入希望者か……。じゃあテストするから」


 男は目を擦りながら立ち上がり、手招きをした。


「テストっていったい何の……」

「どの程度戦えるかです。貴方がどのような目的でここに来たのかは把握したので、細かい話は省きます。いちいち探り合うのも面倒ですので」

「把握した……どうやって」


 参謀は視線をヘリーネへ向けた。


「彼女のmagicaは感覚や感情、考えていることや記憶といったものの共有ができます」

「正しくは覗き見だよ。あたしの方を見せないこともできるから」


 どうやらヘリーネは直人の思考を読んだようだ。その時点でそぐわない人員ならそれで終わり。そうでなければこの様に話が進む。気づかないうちにmagicaを使って、情報戦を有利に進められたようだ。

 直人の目的や経歴もばれていると思った方がよさそうだ。


「早くやろうよ。いいよ、好きにかかってきな」


 男は中央で無防備に立っている。ポケットに手を入れて、背中をまげて。隙しかない。どこから叩き込んでも倒せる未来しか見えない。

 直人は内界解放リベラシオンを発動し、上着を脱いだ。


「ならお言葉に甘えて」


 たんなる組手なら、負ける気はしなかった。軽く間合いを詰め、拳をふるう。


 (——大したことないな)


 手は男の側頭部に当たり、体が大きくよろめいた。すかさず左ひざを顔面に当て、そのまま回し蹴りを撃ち込む。男は後ろに吹っ飛び、勢いよく転がっていく。


 正直に言って弱すぎる。こんな組織で美月を救うことが出来るのだろうか……。


「なるほど、一般人上がりじゃないって感じだね。良い師でもいるのか?」


 男はのっそりと立ち上がり、口からたんを出すように血を吐き出した。

 ——気絶くらいしてもおかしくないはず。まるで何事もなかったように突っ立っている。


「動き自体は軍の格闘術……のようだが関節技をしないとなると違うのかな? 型にはまりきってはいない……と」


 どうやら素人ではないらしい。


「……あってますよ。ただ俺の指導教官が、magicaが分かるうちは無暗に近づくのは危険だと」

「なるほど。そこまで考えられているんだ。じゃあ次は俺から行こうかな」


 男は右目を覆うように手を添えた。そして、指の間から血のような赤い光が漏れ出している。


炎神奏古プロメテウス


 男が呟いた瞬間、熱気を感じた。彼自身が炎であるかのように、身体は炎に包まれている。男は右手を横に払う。すると纏われていた炎は散っていき、両手足に渦を描きながら漂いだす。

 

「本来の炎は形を持たない。だけどコントロール出来るとそれは意志をもつんだ」


 四肢の炎は、すべて右手に収束していく。それは長い剣を模し、剣先が直人に向けられた。かと思うと、剣を離し手のひらを前に向ける。再び炎は形を変え、手のひらに弓として収まった。


 静かに弦を引き、矢はこちらを向いている。


「——」


 左手が離され、炎の矢が一直線に解き放たれる。

 直人に見えたのはそこまでだった。今、目の前に不自然に停止している矢も、こちらに飛んでくるまでの軌道も。何も分からなかった。


 急に矢が目の前に現れ、熱波が直人を襲ったようにしか思えなかった。内界解放リベラシオンですら追えない矢の挙動など見えたことも聞いたことがない。


「何が……起きたんだ……」

「何って、俺はただ殺すつもりで矢を放っただけだ。それをエスパーちゃんが止めてくれたってこと……死ななくて良かったね」


 エスパーと呼ばれた少女はペコリとこちらにお辞儀をした。


「……弾丸より速い矢があるものか!」

「あるじゃないか。今ここに」


 男はmagicaを解除しこちらに歩いてくる。


「体術は申し分ない。だが離れた間合いでは何もできない……近づきさえすれば、といったところか?」

「……俺じゃ力不足か」

「——ギリギリ採用。雑魚を処理するには十分すぎるから。ようこそプロメテウスへ」


 男は軽く告げると、踵を返し部屋を出ていこうとする。あまり直人に興味を示さなかったようである。

 

「そうだった、俺のコードネームはプロメテウス。プロメテウスのリーダーでプロメテウスを使うプロメテウスだ。分かりにくいが覚えやすいだろ。リーダーとでもプロメテウスとでも好きに呼べ。俺はもっかい寝てくる」


 リーダーは二階に向かっていった。


「あたしはヘリーネ。一応副長、よろしく」

「あぁ……」


 へリーネは直人に近づき、直人の胸に人差し指を突き当てた。


「雨宮……あんたの名前はこれからマーダー。magicaを持たない、ただの《《人間》》を殺す名前だよ」


 酷く屈辱的な名前を貰ったものだ。言わば異能力者には勝てない、そう言われたも同然。確かにリーダーは強い。それこそ、直人が敵わないと一瞬で思える程に差が開いていた。だが、それは悪い話じゃない。


 (コイツらを利用すれば美月を救えるかもしれない)


 利用できるものは何でも使う。軍人にキューヴやプロメテウス。3つの顔が必要にはなるだろうが、成し遂げる。


 それに内界解放リベラシオンがコントロール出来れば、まだ強くなれる。

 直人はホルスターにある拳銃に思いを馳せていた。

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